ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

展示『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー』@三菱一号館美術館 鑑賞記録

三菱一号館美術館で『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー』展を観た記録。

mimt.jp

 

上野リチ, Felice [Lizzi] Rix-Ueno, 1893 – 1967

ウィーン出身の上野リチのデザイン世界の全貌を展観する世界初の回顧展です。リチの大規模コレクションを所蔵するウィーン、ニューヨーク、そして京都から作品が集結します。

チラシが撒かれはじめたときに、かわいいな、知らない人だなと思って気になっていた。そのまま行くだけだと「かわいいー」だけで終わりそうだなと思い、いくらか予習して行くことにした。

 

NHKEテレ「日曜美術館」「カワイイの向こう側 デザイナー・上野リチ」

カラフルな色彩と自由な線で描かれた鳥、花、樹木。ウィーン出身のデザイナー・上野リチは、日本人と結婚して来日。二つの国を行き来しながら、テキスタイルや身の回りの小物など、数々の「カワイイ」を生み出した。さらに、建築家である夫と手を組み、斬新な住宅や店舗を手がけながら、社会をもデザインし直そうと試みたリチ。カワイイの向こう側に夢見た“世界”とは。


関連コラム:教え子が語る"上野リチとはこんな人"

www.nhk.jp

 

京都国立近代美術館の担当学芸員さんによるレクチャーもよかった。

リチの日本での暮らしがほぼ京都にあったことを考えると、この展示は巡回元の京都で観ると尚よかったのだろうな。

彼女のウィーン工房時代の仕事や日本に来てからの活動、当時の社会背景などを聞いていると、彼女が多分野に与えた影響の大きさが気になった。本格的な研究はまだまだこれからという感じがする。

youtu.be

 

京都国立近代美術館の展覧会ビジュアルは、三菱一号館とはまた違う。館によって打ち出し方が違うので、こちらが受け取るイメージも変わってくる。

https://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2021/444.html


 
 
 
 
 
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インスタライブもあった! おや、ビジュアルだけではなくて、施工も全然違うのですね!

 
 
 
 
 
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三菱一号館美術館Instagramもチェック。

 
 
 
 
 
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結局私が行けたのは会期終盤。平日の昼時だったが、とても混雑していた。

双眼鏡を持って行ってよかった。これがあれば、混雑していて作品に近づけないとき、少し離れていても見られるので。

普段あまり美術館に来ない感じの人がたくさんいた。手芸や工芸をやっているのか、スケッチをする人もたくさん。

FELICEという名にぴったりのリチの世界。
のびのびと羽ばたけたのは、インダストリアルデザインの分野だったからなのかも。しかしあの時代に、外国人の女性が、日本の京都で活躍していたということに驚く。

「戦時下」や「女性の人生」の事実は、正史によって作られたイメージをいつも超えていく。

 

鑑賞メモ

・まずは、一号館美術館でやる理由がわかる。空間に似合う。

・照明がかなり落としてあって、パネルの字まで読みにくい。そこだけスポットで照らしてくれるとありがたいけれど、近隣の照度まで上がってしまうのだろうか。手元のスマホ等で解説画面を開きながら見る。ウェブサイトでPDFで配布されている。(こちら

京都国立近代美術館蔵品が多いのは、上野夫妻が創立した美術学校が閉鎖されるときに所蔵品が同館に寄贈されたため。

・最初の部屋。七宝焼の色見本、平安貴族ふうの装束、靴のデザイン案、室内、スケッチ。リチ愛用のマント。期待高まる。

・ウィーン工房の便箋、封筒、注文書、納品書。カッコいいデザイン。

・ウィーン工房は、1903年ギルド的なデザイン工房として誕生した。ウィーン工房の活動にテキスタイル、ファッション、陶芸など、横断的に関わっていたリチ

・室内着、着物に影響を受けたデザイン。この頃は多そう。

・今もヴィンテージとして普通にありそうなバッグや服やアクセサリー

・日本、九州、さくらというタイトルでテキスタイルデザインを作っている。日本と既に出会っていた。

・色の組み合わせを変えると印象が変わるよね、という美術の授業を思い出した

・色の世界。色見本帳をめくっているときのあの幸せ感がずっと漂う。

・最近私が大好きな「あの緑」が溢れていてうれしかった。

これ↓

f:id:hitotobi:20220420093610j:image

・1935年〜1944年、技術嘱託として「日本占領下の外地へ、輸出された生地や刺繍のデザインを外国人が担っていたことと、そのデザインの朗らかさに驚く」という解説があり、こちらもまた驚いた。戦時下にそのようなことがあったということ。国内需要逼迫したら、輸出して外貨獲得したのか。外国人で、女性で、なぜ可能だったのか。

・これらの生地や製品は南洋向けとのことだけど、どういう人のところへ行ったんだろう? 現地に駐留する日本人やその家族? 彼の地でこういう美を愛でたり、美に慰められた人がいたのだろうか。ほとんどの人はリチの作とは知らずに使っていただろうし、今も残っている可能性もある。

・色紙にデザイン。色紙って日本発のものか。確かにこれは便利。

・リチのファンタジックなデザインが受け入れられたのは、大正ロマンからの流れかも。夢二の図案なども思い出す。

・京都の伝統的な組合がこんな革新的なことをやっていたのも驚き。友禅のデザインでさくらんぼやいちごなどのフルーツ柄。カワイイ。

・スイショウのモチーフもいい。

満洲の思い出、scenery in mulin。巻物という日本の形式を楽しんで取り入れている様子。

・走り書きの字はあんまりきれいじゃないところもいい。

・美しいものは生み出せる、どんな暴力も根絶やしにすることはできない

・タバコ容れからドレス、内装デザインまで幅広い

・作品点数の多さ。旺盛。なのに似ているものがないところもすごい。世界観は一つだけど種類が豊富、よくこれだけ生み出せるな〜

・今もこの図案を使っていろんな製品が生み出せるな。野菜、スイートピーが生地で何点か展示されているのを見て、来場者の中にはいろいろアイディアを湧かせていた人もいたのでは。

・本物の文化を持ち込むから融合できる。

・デフォルメ、図案化、平面的

ブルーノ・タウトと方向性が違ったというあたりも、もう少し知りたいし、理解したい。

 

特に考えたこと二つ。

1。なぜリチは異国の地で自分の仕事ができたのか

彼女の資質に由来することと、環境的な要因もあったのでは? もともとが中産階級の出身だったこと、本場で確かな技術を持っていたこと、伊三郎が京都出身で商工業界とつながりがある家だったこと、結婚していたこと、組合のニーズとマッチしていたことなど?

それも芸術ではなく、インダストリアルデザインの分野だったからなのか?画壇だと硬直している男社会? 商工業的なものは低いとみなされる? うるさいときは入ってこない、自由にできる?

しかし彼女の作品は芸術か商業かと線引きできるものではなく。ウィーン工房で用の美と作家性の両立を経験していた。作る人の個性や人間性は非常に重要視していた。「うまくやろうとするな」というのが彼女の教えだったと。

 

2。彼女が生涯をかけて追い求めたファンタジーとは

最後に《日生劇場旧レストラン「アクトレス」壁画(部分)》を見てわかったかも。

「人を庭に連れて行く」のが彼女の言うファンタジーなのかも。

庭にいるときのあの感じがする。自分がつくった庭じゃなくて、だれかの庭を訪問しているときのあの感じ。独自の庭だけど人も入ってこられる。人の庭だけど居心地がよい。自分の庭を思い出す。

 

・・・・・

ウィーンの19世紀末〜20世紀初のムーブメントは、2019年のウィーン世紀末展の鑑賞体験を思い出しながら観た。

日本・オーストリア外交樹立150周年記念
ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道

展覧会概要 https://www.nact.jp/exhibition_special/2019/wienmodern2019/
特設ページ https://artexhibition.jp/wienmodern2019/
感想 https://hitotobi.hatenadiary.jp/entry/2019/05/20/152315

本展は、ウィーンの世紀末文化を「近代化モダニズムへの過程」という視点から紐解く新しい試みの展覧会です。18世紀の女帝マリア・テレジアの時代の啓蒙思想がビーダーマイアー時代に発展し、ウィーンのモダニズム文化の萌芽となって19世紀末の豪華絢爛な芸術運動へとつながっていった軌跡をたどる本展は、ウィーンの豊穣な文化を知る展覧会の決定版と言えます。(概要ページより)

絵画の分野では、1897年にグスタフ・クリムトに率いられた若い画家たちのグループが、オーストリア造形芸術家組合(ウィーン分離派)を結成しました。また、1903年には、工芸美術学校出身の芸術家たちを主要メンバーとして、ウィーン工房が設立されました。  ウィーン分離派やウィーン工房の重要なパトロンユダヤ人富裕層でした。芸術家たちの実験的な精神や妥協のない創作が、この時代の数々の傑作を生み出したのです。(特設ページより)

当時の私の感想はあまりに雑だが、「19世紀後半から20世紀前半の30年ほどの短い間に、こんなキレッキレの時代があったなんて!」と思ったことはよく覚えているので、記録しておいてよかったと思う。

パナソニック留美術館での『ウィーン工房1903-1932 モダニズムの装飾的精神』のレポートも参考になる。
https://www.museum.or.jp/report/82
https://allabout.co.jp/gm/gc/386881/

このウィーン工房を創立した一人が、ヨーゼフ・ホフマン。ウィーン工房でテキスタイルデザイナーとして活躍したリチが、当時ヨーゼフ・ホフマン事務所に勤務していた上野伊三郎と出会う。

 

また、私は今回初めて上野リチを知ったけれど、目黒区美術館では2009年にとっくに紹介されていた。

『ウィーンと日本を結ぶデザイナー、建築家、そして教育者:上野伊三郎+リチ』

観に行った方々の記事。詳細でありがたい!
https://allabout.co.jp/gm/gc/40272/

http://memeyogini.blog51.fc2.com/blog-entry-635.html

・・・・・

LOQIのラインナップにもリチのバッグありました。私はこれのムンクを持っていて、愛用してます。ムンク展のときに買ったもの。

https://item.rakuten.co.jp/e-office/c/0000002031/

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リチと関係ないけど買ったお土産。旅行したいな……。

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館内のそこここで、女の人たちが友達同士では話をしていた。もれ聞こえてくる会話からは、作品を見て感想を言い合うことだったり、思い出したこと、近況報告、家族のこと、自分自身の体調についてなど、いろいろあった。もしかしたら久しぶりに対面で会う関係もあったのかなと想像した。

作品と向き合うだけでなく、作品のある空間の中で、人と人とのつながりや交流をうながされるのも美術館のよいところだなと思う。

 

京都国立近代美術館のチラシはやはり気合が違う。紙や色もよい。

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鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

 
共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年