メキシコ出身の作家、グアダルーペ・ネッテルの短編集『赤い魚の夫婦』を読んだ記録。
どの物語も、もともと危うく保たれていた人間関係が、動物や虫や菌などの生き物が突然第三者的に入ってくることで、決定的に破綻する。その過程が読んでいてハラハラする。
ハラハラするのに、淡々としている。
スタイリッシュなのに、ずしんと心に重く残る。
リアリスティックだけれども、どこか現実離れてしている。
その相反するものが同時に味わえる、稀有な読書体験。
宇野和美さんの訳が素晴らしい。言葉の選び方や文章の流れ。
もともとのネッテルの文章もよいのだと思う。土着性もほのかに感じつつ、都会的。世界的に通用するような普遍さで書かれる日常。村上春樹の小説が世界で受け入れられている理由にも通じそう。
関係が破綻するまでの経緯は、起こっているときはもちろん、後日談としても、「人に話してもうまく説明できない、理解してもらうのが難しい」ような出来事で満たされている。現実と妖怪の世界を行き来するような不思議な感じは、杉浦日向子の『百物語』を彷彿とさせる。
かといってまったく現実にはあり得ない空想話かというとそうでもない。こういうことって現実に起こるよなと思わせる。
「わたし」とその生き物の境界が溶けるような感覚。身に覚えがある。
わたしは3話目の『牝猫』が気に入った。全5話の中で、一番明るさを感じる物語だと思った。途中主人公に起こることはとても辛いことだったかもしれないが、人生を失いきらないところはホッとする。
ほかの読者が言っていて、そうそれ!と思ったことの一つに、全話を通して、「暴力的なことが起こりそうで起こらないハラハラ」がある。とはいえ、「気持ち悪くなって読み進められなかった」という人の話もあり、それもよくわかる。
あんまり書くと面白味がないので、このへんで。
ぜひご自身で確かめていただきたい。
原書はKindleもある。試し読みで表題作の『赤い魚の夫婦(El matrimonio de los peces rojos)』が数ページ読めるので、音読してみた。一文が短くてテンポが良い、楽しい。
このお芝居を思い出したという話も聞いた。内容はわからないけれど、キーワードを拾うと近い感じがする。
Guadalupeという作家の名で思い出すのは、先日見た、Malasangueというダンス。
LA LUPEと呼ばれたキューバの歌手、グアダルーペ・ビクトリア・ヨリ・レイモンドへのオマージュとして作られた作品。
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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年)