ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ:澤田知子 狐の嫁いり展」参加記録

2021年3月に参加した、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ:澤田知子 狐の嫁いり展」の記録。

開催概要(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップFacebook投稿)
https://www.facebook.com/kanshows/posts/3948178988610223

開催概要(東京都写真美術館公式ページ)
https://topmuseum.jp/contents/workshop/details-4059.html

 

対象作品
2F 展示室 澤田知子 狐の嫁いり 2021.3.2(火)—5.9(日)

視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップにはかなり前から一度参加してみたいと思っていた。申し込みをしたこともあったが抽選に漏れた。募集が10名以下で、人気が高いので毎回抽選になるようだ。でも、人数が少ないほうがじっくり語れるのでよいと思う。

私はシネマ・チュプキ・タバタさんとつくっている「ゆるっと話そう」で、視覚障害のある方と映画の感想を話し合う場は経験している。
視覚障害のある人は、映画自体から出る音や声と、イヤホンから聞こえる音声ガイドを通して作品を鑑賞している。
だが、美術鑑賞では静止している作品が中心だ。どうやって一緒に鑑賞するのか、興味津々だった。
3時間という長さも参加の決め手になった。おそらく少人数でじっくりと深めていく場なのだろうと想像した。そして実際その通りだった。
 
残念ながら、この会の公式のレポートは出ていない。あるのかもしれないが、見つけられなかった。
1年前のことなので記憶が曖昧だが、だいたいこういう感じだったかなと掘り起こしながら、以下に大雑把に紹介してみる。
 
Zoomミーティングを使ったオンラインのイベント。
展示作品から何点か選ばれたものが、一点ずつ画面共有で投影され、それについて参加者が視覚障害のある方に向けて描写したり、感想を話す。また次の作品に移り、描写と感想を繰り返していく。合計で何点見たか忘れたが、「たくさん、じっくり見た」という印象がある。
基本的に解説は最小限で、まずは鑑賞者の好奇心を目一杯に引き出したのちに、情報を少し場に提供するという進め方。
質問があれば回答する。でもあえて回答しないというときもあったかも。鑑賞者の体験が尊重されていた。
発言はランダムに出す形式。リピート参加している人もいるので、しーんとなったり、遠慮しあって発言が止まるということもあまりなく、活発に発言が出ていた。発言しなくても居づらいこともない。聞いているだけでも楽しいと思う。
私は感想を言いたいほうなので黙っていられずガンガン発言してしまったが、ファシリテーターの方がよい感じに交通整理をしてくださるので、発言が偏ることもあまりなかった。

その場で感じたことはたくさんある。メモを元に振り返ってみる。
 
まずは、他の人と話すことでどんどんインスピレーションが湧いて、言葉にしてみたくなる、わくわくしたという感覚があった。メモを取る間も惜しいほど夢中になった。他の人の感性や観察眼に触れることはやはり楽しい。
しかもそれが自分の感性や言葉と交差するのが楽しい。自分の出した感覚の言葉が場に貢献している実感がある。それは視覚障害の方がいるから余計にそう思った。
 
視覚障害のある方は、見える人の言葉を手がかりに作品を観ている。自分以外の人たちの感覚器官を使って観ている。「中央に5:3の長方形の写真があって、人のバストアップの顔が写っている。それが4枚あって……」という具合に描写し、その後その人の主観を聞く。
モノクロのポートレイトが中心のため、「だんだん犯罪者みたいに見えてきた」「女子刑務所に入っている人の人生を感じてしまう」など妄想っぽい感想も出てくる。他の参加者も一人ひとりが、自分の人生の経験をすべて使って鑑賞していた。
 
印象の話だけではなく、作家の意図や、社会の実情と照らし合わせて考察するような深まりも、後半に行くにしたがって出てきた。その前に見た作品と今見ている作品との関連についても語られていった。

見た目の印象「〜に似ている」等は、先天失明の方だとわからないこともあっただろうが、そのわからなさや戸惑いも含めて楽しんだり、他の鑑賞者の話し方、言葉の選び方からもたくさんの情報を受け取っている様子だった。
 
最後の振り返りで、視覚障害者の方から、「視覚からの情報量はやっぱりすごいんだなとあらためて思った。皆さんの一つずつの言葉をメモしていた。それを私の知識にしていける感覚があった」という言葉があった。とても新鮮に感じたし、一緒に場を共にできたことがうれしかった。
そうか、そんなふうに感じるんだ!とお互いに思っている、その確信がある。
良い場に立ち会ったときに現れる、「お互いに」「同時に」「よかったと思う」、あの感じが訪れた。
 
他の方からは、「皆さんの感想にへえ〜と言いっぱなしの贅沢な時間だった」「1つの作品にここまでこだわりを持って話していく体験は初めてでよかった」「何か意味付けをしないと不安になるのだという発見があった」などが出ていた。
 
私が自分の番に話して特によく記憶しているのは、「私も何にでもなれるかもと思えた」ということだった。この大切な感覚をつかめたのは、3時間じっくりと他の人たちとの対話を重ねてこられたからだ。一人ではとてもここまで行き着けなかったと思う。
単なる「視覚障害者と美術鑑賞した」という外側の「売り」のようなものに反応したわけではなく、本質をつかめたことがうれしかった。つまり、鑑賞体験としてとても豊かで、自分の核に触れるところまでいけたということだった。
 
写真美術館で作品の実物を見てみたいと思ったが、残念ながらタイミングが合わず、現地には足を運べなかった。澤田さんのお名前はいろんなところで聞くので、また展示の機会があれば次回は必ず行こうと思う。
 
参加者がオンラインでの鑑賞にもかかわらず、このようにのびのびと参加し、充実した時間が持てていたのには、場をつくる人たちのあり方や進め方の力が大きかった。
冒頭に丁寧な前振りがあった。たしかこんなことだったと思う。違っていたらご指摘ください!(問い合わせ
・常時ミュート解除でOK。発言にならないつぶやきや音も大切にしたい。
 発言のタイミングがぶつかってもいい。
・見える人同士でも「見えていない」ものがある。
・この場における見える・見えないものを定義する。(具体例と共に)
・自分にしかわからないバラバラの主観を集めたら別のものが見えてくる。
・語りの2つのモード(まっすぐモードとぶらぶらモード)
・わからないものに出会って迷子になるのは大事!

私はなんだかもうこのパートで既に心を鷲掴みにされてしまっていた! 

あまり他では聞いたことがないアプローチだ。この部分だけでも参加して本当によかったと思ったし、きっとこの先の時間はもっと素敵なことが起こりそうだという予感がした。(だから冒頭のこの場の前提の共有の時間はとても大切なのだとあらためて思った)

実際、その後の鑑賞対話の時間も、場を運営されている方々は経験の深さが伝わってきた。言葉の選び方、間の取り方、問いかけ方や問いかけるタイミングなど、すべてが一つひとつ練られていて、素晴らしかった。おそらく毎回ふりかえりの時間がもたれ、準備があり、トレーニングがあるのだろう。9年間の積み重ねがしっかりとした土台になっていることが感じられる場だった。とても勉強になった。

今回はオンラインだったが、対面で鑑賞したらまた違うよい体験をしそうだ。またぜひ参加したいと思った。

【「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」とは】
2012始動。スタッフ10名(視覚障害者5名、晴眼者5名)。月一回のペースで全国の美術館や学校で目の見える人、見えない人が言葉を介して「みること」を考える鑑賞プログラムを企画運営している。
Facebookページより)


もちろん場は一期一会なので、同じ団体が開催する場でも「よい体験」を自分がするかはわからない。でもこのときの実感は身体に残っていて、忘れがたいものになっている。自分の血肉になっている感覚がある。

これからも何回かに一度はそういう場に出会いたいし(この場に限らず)、もちろん自分もつくっていきたいと思った。

 

今、チラシの裏を見てみたら、こんなことが書いてあった。

初公開の初めてのセルフポートレイトから証明写真機で撮影したID400のオリジナルプリント、最新作のReflectionまで複数のシリーズを《狐の嫁いり》という新作として構成しました。

私が化かしているのか、皆さんが勝手に化かされているのか。

狐の嫁いりに遭遇したら良きことがあると言われるよう、私の作品と出会うあなたに良きことが訪れますように。(澤田知子

 

まさに! いいことありましたよ! 

 

 

話題になったこの本はまだ読んでいないのだけど、私が体験したことと近いことが書いてある予感がする。近々読みたい。


おまけ。私の本は音声図書化されています。ぜひご利用ください。

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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年)

 

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