森鷗外記念館で特別展「読み継がれる鷗外」を観た記録。
2022年は、鷗外生誕160年・没後100年・開館10年記念というスペシャルイヤー!
ということで、大変気合が入っている森鷗外記念館。「鷗外百年の森へ」と題し、様々な企画が目白押しだ。
今期の作家の平野啓一郎さんが企画協力しての展示は、8人の作家や研究者による、鷗外の魅力を再発掘する試み。
平野さんがもともと鷗外好きということは、展示室の映像コーナーの中で語られていたので知っていた。だからこんなふうに全面的に関わっておられてうれしい。
このビデオコーナーでは他にも加賀乙彦さん、安野光雅さん、森まゆみさんがそれぞれ鷗外の魅力を語っていてとてもよいのだ。このおかげで、私も鷗外に興味を持つことができた。今回の展示はこの映像コーナーの良さをさらに拡張してくれている感がある。
選者の蔵書から鷗外本が出されて展示されている。付箋がついていたり傍線が引かれていたり、多くは絶版本だったりして、本当に書架からそのままやってきた感じがあっていい。
すでに読んでいる人には新たな視点と他作品への関心を喚起し、初めて鷗外作品に出会う人には最初の一冊との出会いを作る。人から人へと手渡される、人を介して読み継がれていく作品。作品を通して知る鷗外という人間、鷗外が生きた時代。
今回の展示のコンセプトになっている「読み継ぐ」という言葉は、とてもいい。
『雁』。青山七恵さんの紹介を見てまんまと読みたくなったので、売店で購入。
今回の展示で特に見られてよかったと思ったのが、幸徳秋水の自筆の手紙だ。
2通あって、1通は国民新聞社宛に出した葉書。湯河原の旅館に逗留して原稿執筆中であることが書かれている。このあと検挙されている。
もう1通は弁護人の平出修宛の書簡。刑死の2週間前に出されたもの。平出への感謝や、鷗外作品の絶賛、事件に対する思いなどが綴られていて、鳥肌ものだ。こちらは展示期間が6月17日まで。入れ替わりで展示されるのが、平出修自筆の『刑法第七十三条に関する被告事件弁護の手控』。
二兎社の舞台『鷗外の怪談』を観た人なら、この実物の迫力がより伝わるだろう。
今回の展示でまた新しい事実を知った。
「危険なる洋書」に認定された中に、ヴェーデキントの著作があった。鷗外はヴェーデキントの日本における最初の紹介者なのだそう。
ヴェーデキントと言えば、私が昨年夢中になっていたオペラ《ルル》の元になった『悪霊』の著者だ。
また、鷗外随一の問題作『ヰタ・セクスアリス』のせいで、掲載誌『スバル』は、発禁となったが、これは平出修の自宅が発行所となり、鷗外を指導者として発刊された文芸誌だった。このことは『鷗外の怪談』の台詞でもあったような気がするが、なにせ情報量が多くて記憶から抜け落ちていたと思う。今あらためて確認できてよかった。
舞台上での鷗外と平出とのやり取りが鮮やかに立ち上がってくる。
ちなみに『鷗外の怪談』は2,500円で買い切りでいつでも視聴できる。素晴らしい舞台だったので、本当におすすめだ。
【森鷗外に近づく100選】
このブックリスト最高です。来館したらぜひもらっていただきたい。
鷗外文学5つのポイント、鷗外作品を楽しむための副読本として、テーマ別!鷗外作品を含むアンソロジー、森鷗外を探して、鷗外と海外文学、舞姫エトセトラ、森家の遺伝子、文豪の暮らし、森鷗外を感じる……の9テーマに分けて100冊を紹介している。
このリスト一部で、読書の楽しみがぐんぐん広がる!
知れば知るほど鷗外のマルチタレントぶりや射程圏の広さに驚くけれど、そういえば私の知り合いのお医者さんにもこういう人いたわ。
地域医療に携わりながら医学部教員もして、研究して論文も書き、一般書も書き、NPOの代表も務め、自宅では畑を耕し、映画を撮り(えっ?)、Youtuberでもあり(はっ?)……という人。
図録は買うべし!!! 展示解説パネルよりもテキストが大ボリュームで掲載されている。細かな年表や資料類も充実している。
通信販売も対応しているそうなので、遠方で来館が難しい方も、ぜひ図録だけでも取り寄せて読んでほしい!!!
高校時代の国語の教科書で『舞姫』を読んでウンザリした方は、平野啓一郎さんの寄稿文を読んでいただけたら!!!
6月には舞台『鷗外の怪談』の脚本家・永井愛さんの講演会がある。しかも演題は「鴎外と大逆事件」。これは必聴!早々と申し込んだので、なんとか抽選通ってほしいな!
ここまでの鷗外を訪ねる道のり。
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