ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『ニュー・シネマ・パラダイス』鑑賞記録

シネマ・チュプキ・タバタにて『ニュー・シネマ・パラダイス』鑑賞。黒板絵すっごい!

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もうなんべん観たかわからない。
15回は観たと思う。
中学か高校のときに初めて観て、私が大学でイタリア語を学ぼうと思うきっかけになった映画だった、ということをきょう思い出した。忘れてた。

Qualunque cosa farai, amala!
何をするにせよ、それを愛せ!
Come la magra cappella del Paradiso, quando eri piccino.
子どもの頃に映写室を愛したように。

テーマ音楽が流れただけでもう自動的に涙出るよね。こういう映画はもういいとかわるいとかわからない、自分の人生の一部、自分の身体の一部になっている。

私の斜め前に座っていた人もたぶんおんなじ感じで、もう「ウウッ」と声あげて泣いてはりましたね。隣に座ってたら背中ぽんぽんし合いたいような気持ち。その人が泣くから私ももらい泣きするような場面も多々あり。同じものを今共有している感じがすごくあった。

お母さんと小学生ぐらいの娘さんと思しき関係のお客さんもいらしたり。いいなぁ親子でこの映画を共有できるのは。ちょっと手渡していく感じもあるよね。映画の中のテーマとも呼応して。

そんなふうに客席が温かい雰囲気なのもよかった。


4年くらい前に感想シェア会をやったときにもフルで観たけれど、そのときと今とでもまた体験は違っていた。きょうは大人のトト、トトのお母さん、神父さんや劇場のオーナーやアルフレードに共感したりで、気持ちが忙しかった。(そしてうれしいことに、4年前に観たときよりもイタリア語が聞き取れていた。去年から少し勉強し直しているのだ。)

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10代の頃はサルバトーレとエレナの恋物語として見る中に、時を経て変化していくことがあるというふうに見ていた気がする。

今は、老いること、病や傷を持つこと、死ぬこと、無くなること、喪失や悼みを抱えること、長く果てしなく愛が続くことなどに心が動く。ガンガン元気なものより、儚く消えてゆくものを美しいと思う。老いだなぁ。

何歳の人でも見て何か感じられるところがこの映画の良さ。


しかしこれをジュゼッペ・トルナトーレは33歳で撮ったんよな。そこがすごい。
『春江水暖』のグー・シャオガン監督もそのくらいの年齢で撮っていたはず。
サラッと老成したものが作れる若い人たちはいるんだなぁ。

 

国内の地域の経済格差、貧富の差、共産党員の迫害、マフィアの闘争など社会情勢が見える。教員の生徒への行き過ぎた教育(いや、あれは暴力だ)は笑いの場面になっているが、共産党員の息子でのちにローマへ引っ越していくペッピーノが終始一人顔を覆っている様子は何事か伝えている。映画を見せろと劇場に押しかける群衆を「何をするかわからないのが群衆」と批判して見せるアフレードの姿もある。

甘く切ない物語の端々に、人間社会への冷静な観察がある。またそういうことに今頃になって気づいている自分に驚く。

イタリア(シチリア)からソ連まで出征していたとか、戦後兵役があったなど、実はイタリア近現代史があまりわかっていない私。一度学んだはずだけど忘れている。学び直したい。

イタリア語ももっと学びたい。スクリプト(脚本)がほしいなと思って探しているんだけど、見つからなかった。

 

今見ると、エレナの家の下に毎夜通うサルバトーレの御百度参り(?)は小野小町深草少将の伝説のようだ。この話は、お姫様に対して身分違いの恋に落ちる男の話としてアルフレードがサルバトーレに聞かせる伝説からアイディアを得て、サルバトーレが実際にやってみているのだが、世界のいろんなところで深草少将のような伝説はあるのかもしれない。

 

そうそう、シネマ・チュプキ・タバタの音声ガイドは素晴らしかった。今回のために20年ぶりに改訂されたそう。言葉の選び方がやはりよくて、倍増しでよかった。ディスクライバーとしての経験と、個人の人生の経験と、重なってより心に沁みる映画になっていた。

音声ガイドで観ている視覚障害者の方と感想を交わしてみたいな。

 

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トルナトーレ監督は、子役のトトがそのまま大きくなったみたい。2008年のイベント動画。サムネイル左。

 

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6月、7月のチュプキは岩波ホール特集。

当館の前身となるバリアフリー映画鑑賞推進団体City Lightsは
岩波ホールで音声ガイド付き上映会を行なっていました。
大変お世話になってきた岩波ホールに感謝の気持ちを込めて、
思い出深い作品をセレクトした「ありがとう、岩波ホール」特集上映 を行います。 

ホームページより)

6月前半 スケジュール
 『ベアテの贈りもの』
 『宋家の三姉妹  』
7月 スケジュール
 『ハンナ・アーレント
 『終りよければすべてよし』


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追記)

後日、10代の子を誘っておかわり鑑賞。

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ほとんど話もしたことがないのに、100日参りするのはどうなのか。あのお話を真似てみたかっただけでは。思春期っぽい。恥ずかしくて見ていられないところがあった。でもあれば1954年当時の話ではあるので、古風ではあるのかもしれない。

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など感想を話せてよかった。

 

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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年