『THIS ONE SUMMER』マリコ・タマキ/作、ジリアン・タマキ/画(岩波書店, 2021年)
「10代に手渡したい本」の記事とどちらに書こうか迷って、一旦こちらに。
Twitterで話題になっていて読んだ。
グラフィック・ノベルってなんのことだろう?と思っていたが、そうか「漫画」なのか!日本のMANGAとはまた違うものだから、グラフィック・ノベルと呼んでいるのかな。まぁ名前とかはあまりどうでもよい。
紺の濃淡で刷られた画面。一瞬クセのある絵かな?と感じたが、それが魅力でぐいぐいと引き込まれていく。この世界にダイブして一気に読んでしまった。タイトル、中身の通り、夏に合わせて出版されたのもよかった。
パパとママと三人家族の少女ローズ。毎年夏にアウェイゴに避暑にやってくる。湖と売店と先住民の歴史博物館ぐらいしかない、小さな村。1歳半下のウェンディは5歳のときから夏の間だけ遊ぶ友だち。
自分たちが女であるとか、性的な眼差しで見られる存在だとか、妊娠する身体を持っているとか、自分の親の女として男としての面を知るとか、もうずいぶんいろんなことを知っている。ホラー映画、セックス、酒、タバコ、ドラッグ。自分たちを取り巻くものにはたぶん危険もたくさん。怖いけど平気なふりしている。興味もある。悪ぶりたくもある。ギョッとすることもたくさん。嫌悪感もある。ぐちゃぐちゃにある。
子どもじゃないからわかっている。どうしてパパとママの間がすれ違っているのか知っている。ママと自分の関係がうまくいかない。けど、どうしたらいいかわからない。
ああ、思春期よ......!読んでいるあいだじゅうずっと心がひりひりしていていた。
わたし知ってる、この感じ。
このイライラする感じ。悪態をつきたくなる感じ。
自分がどうであれ、もう飲み込まれて連れて行かれている感じ。所在のなさ。無力感。
嫌悪感と好奇心が同時に猛烈に湧いてくる感じ。感覚が刺激される。
終始不穏で、いつか何か決定的に怖いことが起こりそうで、ずっとドキドキしながらページをめくっていた。でも起こったのは「怖いこと」ではなかった。ずっと物語を追ってきた人にだけわかる「......!」な出来事が起こる。つらさもあるけど、開放感と明るさもある物語。
思えば思春期ってほんとうに危うくて、よく生きのびられたなと思う。死に近接するところがあるんだろうな。そういう人生で一度しか通らない「あのとき」にしか味わわない瞬間を見事に捉えている。すごい。
図書館ではヤングアダルトのコーナーに入っていた。やるなぁ、図書館。
親とは話せないことが、この本となら話せるんじゃないかな!
▼出版社のサイトで試し読みもできるので、ぜひ見てみてほしい。
▼ポッドキャストのこんな番組もあった。