友人から「招待券があるから行かない?」と誘われて行ってきたトルコ至宝展が大変によかった。
正直なところ「行きたい展覧会リスト」には入っていなかったので、「めっちゃラッキー!」というわけではなかったのだけれど、興味はあったし、その友人とゆっくり会うのも久しぶりだったのでぜひにとOKした。
そのあとでふと、ん?これは「至宝展」ということは......、
ぜんぶが宝物!ぜったい美しいものばかり!?
と気づき、「あたしすっごい宝物を見に行くんだぁ〜♪」と、日が近くにつれて気分がよくなっていった。もうそれだけでこの展覧会はわたしにとっての価値がある。
さらに、せっかく見るなら歴史的背景をさらっておこうと、いつもお世話になっている山川の世界史の資料集を広げてみたら、なんとなんと、オスマン帝国とはなんと広範囲に勢力を伸ばし、長い歴史を生きた大帝国であったことか!
イスラーム世界の発展、イスラーム文明の発展、東ヨーロッパ世界の発展、トルコ化とイスラーム化の進展、トルコ・イラン世界の展開、近世イスラームの大都市、オスマン帝国支配の動揺と西アジア地域の変容...など、関連する読むべきページはたくさんあって、しかも資料豊富。読みやすい。
オスマン帝国の成り立ち、同時代の世界の動き、その中でのオスマン帝国の位置付け、隣国、ヨーロッパや東アジアとの関係、宗教、政治体制、経済、文化、、、
昔習った世界史の年号や単語が、ただの数字や字面ではなく、生き生きと流れや動きを伴った人間の壮大な歴史として頭に入ってきた。そこに、これまで得てきた知識や経験を元に自分なりに構築した体系があり、有機的なつながりを見せる。
具体的に一つひとつ「これがこうで」と説明できないのだけれども、時空を超えたつながりを感じる体験に、鳥肌が立ってしまった。
今さらながら、あらためて、歴史、おもしろい!!
それにしても、日本に比べると、西欧、中欧、バルカン、トルコ、中東の人たちの「国史」の勉強って圧倒的に大変そうだなぁとも思った。
目まぐるしく変わる。為政者も宗教も境界線もあっちいったりこっちいったり。
どんな教科書使って、どんな勉強をしてるんだろう。興味がある。
今回の展覧会の英題、チューリップを意味するトルコ語の“Lâle”にクオーテーションをつけている意味はなんだろう?と思っていたが、こことか、展示の中に非常に重要なことが書いてあった。知っていると知らないとでは全然見え方が変わるので、ぜひ丁寧にご覧いただきたい。
オスマン帝国はOttoman Empire。
ソファの足置きのあの「オットマン」はここから来てるの?と思って調べたらやっぱりそうだった。
美術館でも博物館でも、展示を見るときに英語のほうも見るのはおすすめ。
同じなんだけどちょっと違う表現に発見があったり、日本語でよくわからなかったことが英語だとスッと理解できたりする。
展覧会の中身については、青い日記帳さんがとても詳しく紹介してくださっていて、これも予習の一環で読んだ。(高まる期待!)
わたしの感想としては、ほんとうに行ってよかった!という感じ。
国立新美術館の空間の広さを生かして、トプカピ宮殿が体感できる空間デザイン、構成になっていて、おまけにとても凝っている。雰囲気たっぷり。
お宝を飾るのに、ただガラスのケースに陳列しただけではおもしろくないものね。
オーディオガイドで話していることもさらに鑑賞をわかりやすくしてくれていて、よかった。これもぜひ借りてほしい。
「スルタンのカフタン(オスマン帝国の儀式用の装束)は、どうしてこんなに腕部分が長いのか」という謎を宿題として持って帰った。袖が長いもの以外には、つけ袖の展示もあった。
と思ったら、東京外大のトルコ語科の方の論文がヒットした!
どんぴしゃで答えが書いてあって、とてもわかりやすかったし、他のページもとても興味深かった。ありがとうございます。
http://www.tufs.ac.jp/common/fs/asw/tur/theses/1999/nayuki.pdf
予習で政治的、歴史的流れを掴んで、この展覧会の現場で文化の面を体験して、イスラームにまた少し近づけた感じがする。
たとえば、
・イスラム教では清潔は信仰の半分と言われる
・ムハンマドの肌からバラの匂いがしたので、バラ水は珍重されている
・トルコ国旗にも書かれている三日月は、権力の象徴である新月を表している。新月は見えないので、代わりに細い三日月を描いている
・コーヒーはオスマン帝国で大ヒットして、コーヒーハウスが最初の外食産業として生まれた(参考HP)
など。
実際に物を見ながら、解説を聴きながら、友だちとあーだこーだ経験や解釈を話しながら回るので、感動と共に知識が入ってきて経験になっている。
この世界に大きな影響を及ぼしている、しかし自分にとっては未知の存在を、興味関心からゆっくりゆっくり知る、わかるのはうれしい。
戦いに勝ってここからここまで領土を広げた、こんな政治改革を実行したという同じ時間の流れの中で、スルタン・アフメド3世自らチューリップの品種改良や栽培に熱中していたり、流血も厭わずに世論弾圧を行った「赤い血のスルタン」と呼ばれたアブデュルハミト2世が日本とトルコの最初の架け橋になったりしている。
そうそう、学校で習う歴史なんて枠組みだけ。そこにどれだけ人間の気配と営みを投入して、さまざまな分野の事柄を持ち込んで体系立てて、今の時代とつなげて、おもしろがれるか、だよなぁ。
今年は日本におけるトルコ年だから、この展覧会は文化交流の意味合いでひらかれている。改元と天皇退位・即位などもある(4月中に行ったので)ので、皇室との関係に対して、なんとなく会場の感度が高くなっている、ような気がした。
宝物を見せ合いっこしたり、自分のとっておきのものをプレゼントするのは、友だちになりたいとき、友情を深めるときの儀式みたいなものだけれど、国同士のお付き合いも同じなのねぇと思った。あの国の人ならこういう感じが好きそうだから、数多ある陶磁器の中でも有田焼を選ぼうとか、あの国王は工芸もプロ並みだから美しい彫りを入れた大工道具を送ってあげよう、とか。
実は2003年も日本におけるトルコ年があって、そのときにNHK主催で「トルコ三大文明展~ヒッタイト帝国・ビザンツ帝国・オスマン帝国」をやったらしい。知らなかった。当時もわたしはスルーしていたんだろう。うう、今見たらさぞおもしろかろうなぁ。
その他関連して紹介したいこと。
▼「闇のパープルアイ」世代としては、篠原千絵先生の漫画で、スルタン・スレイマン1世の后・ヒュッレムの生涯を描いた「夢の雫、黄金の鳥籠」を読みたくなった。
▼トルコ文化とトルコ映画をざっと紹介してくれていてわかりやすい。エルトゥール号のことが映画になっていたなんて知らなかった。
▼ワタリウム美術館で、「オスマン倶楽部2019」という会がひらかれている。これも日本におけるトルコ年関連イベントなのかと思いきや、2015年から山田寅次郎研究会としてひらかれ、去年からオスマン倶楽部という名前になっているようだ。
http://watarium.co.jp/lec_trajirou/index.html
▼日本トルコ協会のホームページ。トルコ料理、美味しそう。「スルタンのお気に入りのケバブ」とか作ってみたい。
宝物の見方が変わったところで、今年の10-12月に国立新美術館でやるカルティエ展も、今までとはちょっと違う感じでおもしろがれるかもしれない!?ジュエリーに特別興味があるわけではないけれど、歴史や人が創り出し磨き上げてきた工芸として、おもしろいかもしれない。どうだろうか。
http://www.nact.jp/exhibition_special/2019/cartier2019/
だらだらいっぱい書いてしまったけれど、いろんな要素がつまっていて、どういう関心から見ても楽しめる展覧会だと思う。おすすめ。