ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

〈レポート〉カミュ『ペスト』を語ろう

カミュ『ペスト』を語ろうという場をひらいています。

4月中旬に1回目をひらき、2回目以降はリクエストにお応えする形にして、ここまで4回開催しました。

talkaboutpest4.peatix.com

 

なぜ『ペスト』を語る場をひらこうと思ったか

わたしが『ペスト』が話題になっていると聞いたのは、2月中旬。大型クルーズ船内での新型コロナウィルスの集団感染が起こり、多数の感染者、死者がではじめ、状況が厳しくなっていました。

ちょうどその頃から、書店で『ペスト』が売り切れ続出、重版がかかっていると。そして、「『ペスト』が今の日本を予見しているかの内容で、すごい」という感想が、方々から聞こえてきました。

コロナ危機の深刻な課題を見通した、カミュ『ペスト』の凄み(野口 悠紀雄) | 現代ビジネス | 講談社

感染症扱う小説や歴史書に注目 カミュ「ペスト」15万部増刷|好書好日


「これはみんなで語る場が必要かもしれない」と思いはじめました。

ただ、わたしはカミュの『異邦人』を読んだことはありましたが、『ペスト』はその存在も知らなかったので、一から読むことになります。

迷っているうちに4月に入り、NHKEテレの番組『100分de名著』が"ペスト"の回の再放送をすると知り、このタイミングしかない!と第一回を企画しました。

番組を観て、驚きました。

2018年放送時に、すでにこの未曾有の事態が予見されているかのような出演者たちのやり取り。『ペスト』という作品の魅力。カミュが込めた思いの深さ。本も読みはじめて、この物語には大きな力があることをさらに確信しました。

 

今、このコロナ禍を生きるわたしたちにとって、この物語にふれること、この物語について語ることが生きる希望になる。

もしもこの先、もっともっと長く影響が続いたとしても。

とりわけ有事には、立場や状況による世界の見え方の違い、何に困っているか・何を求めているかの切実さが、一人ひとり違ってきます。それを実感を込めて表現するときに、人を傷つけたり、分断を生んだり、孤立することが怖い。

でも、人は、自分の言葉で表現して現状を理解したい。

そのときには、作品を経由した対話が助けになります。

それが文学や芸術の力であり、場の力でもあります。

 

わたしが仕事を通じて貢献できることは、「いろいろ不安はあっても、今、比較的元気な人が元気なままでいられるようにすることだ」と、思い定めていたこともあります。

また、本を買うことや、番組を観ることで、社会にある他の資源ともつながりを持ってもらい、この場をきっかけに、小さいはたらきかけであったとしても業界を活性化したいという思いがあります。

作り手と届け手と受け手をつなぎたい。

『ペスト』に登場する人々のように、自分の信念にもとづき、今、自分にできることをする。したい。そう考えました。

 

場のすすめ方

タイトル。「読書会」というラベルはわかりやすい人にはわかりやすいですが、同時に限定的にもなりすぎるので、あえて「語ろう」とつけました。

対象者は、

・小説『ペスト』を全部読んだ人

・小説『ペスト』を途中まで読んだ人

・100分de名著『ペスト』を観た人

ですが、本を読んでいないことを引け目に感じないよう(たぶん引け目に感じがち)、「知らないことをシェアしあうことによって、深い理解につなげていけたら」という意図をもち、リマインドメールや冒頭でも重ねて共有しました。

100分de名著もすばらしい制作物として場で扱いたい、という意図もありました。

 

冒頭では、作品の周りにある世界の層を示し、どれもこの場での感想として扱うこと、行ったり来たりしながら対話を重ねていくイメージをお伝えしました。

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その他、話しやすいように、
・登場人物

・キーワード、キーフレーズ一覧

・時系列まとめ

なども準備して、スライドで共有しながら進めました。


わたしの役割としてはいつものように、
・作品を語る場である(6割は作品の話をしている時間)

・異なる視点、異なる解釈を自ら提案することと、参加者に提出を依頼すること

を大切に、75分間集中してファシリテーションをしました。

 


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ひらいてみて

4回ひらいている中でも、同じ話題になることがほとんどなく、毎回とても新鮮でエキサイティングな場となりました。

語り合いの中から見えてきたのは、

  • わたしたちが喪ったもの、変わらず愛しているもの、見出したもの、新たに手に入れたもの、ないことにされていたもの。
  • 今、とても複雑な中にいる自分の発見。
  • そんな世界を生きていきたいか。
  • 分断の悲しみや怒りと連帯の希望
  • 読むたびに示唆を与えてくれる、現実を直視する勇気を与えてくれる、対話を起こしてくれる本の貴重さ、普遍性。
  • オランのまちを生きる誰もがわたしであるという発見。オランの町にも、今わたしが感じているこういう思いの人や、こういう行動をとった人がいたんじゃないかと想像する。
  • 一人ひとりがまったく個別の存在であることへの感謝。

.....などなど。


わたしたちは、生活様式の変化や人生観の転換など、まだまだ大きな揺れを経験していくと思います。

でも、この物語にふれるたびに今の自分の座標を確認し、生きるヒント、歩むべき方向を手にし続けることができます。きっとできます。

 

皆さんが場を信頼してくださて、感性をひらいて惜しみなく表現してくださったことに心から感謝します。

 

ひととびセレクション》は、鑑賞対話ファシリテーター・舟之川聖子がセレクトする表現作品を真ん中に、感想を語り合う集いです。本(読み物)、映画(映像)、舞台、美術など、さまざまなジャ... powered by Peatix : More t..きょうも時間や空間、国や場所を超えて、たくさんの人間の生を旅しました。

15万部増刷され、たくさん売れているので、読んだ方はたくさんいるはずですよね。他の方はどんな感想をもったんだろう。きっと一人ひとり、まったく個別の読書体験をしているのだろうなぁと思います。この『ペスト』の物語と、みなさんと語り合う場に、わたし自身がとても救われてきたように思います。参加者の皆さんが、場を信頼し、感性をじゅうぶんに開放して、惜しみなく表現してくださったことに心から感謝いたします。

参加者さんの記事をご紹介します

受け取るものの、一人ひとりの違い。一人の中の、その時々の違い。豊か。
見せてくださって、ありがとうございます!

*許可をいただいて掲載しています。

 

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\ 今後もリクエストに応じて開催します /

Zoomにて。定員5名。平日休日問わず。候補は以下の中から。

10:00-11:15

13:00-14:15

14:00:15:15

20:00-21:15

21:00-22:15

リクエストお待ちしております!

https://seikofunanokawa.com/contact/

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参考資料

▼関連書籍 

 

 

▼100分de名著公式サイト

www.nhk.or.jp

 

▼100分de名著"ペスト" オンデマンド配信サイト

www.nhk-ondemand.jp