通りすがりに小一時間ほど立ち寄っただけなので、あれこれ書けるほどのことはないが、残しておきたいこといくつか。
籔内佐斗司退任記念展 私が伝えたかったこと —文化財保存学保存修復彫刻研究室2004−2020の歩みー
2010年、平城遷都1300年祭でせんとくんが現れたとき、世間にはかなり衝撃が走った。わたしの中にも反発のようなものが生まれて、実際に口にも出していた。それまでに爆発的に流行した、"カワイイゆるキャラ"の流れとは違いすぎるキャラクター造形ゆえか。
それから10年。今や奈良に行くと当たり前のようにせんとくんがいて、すっかりまちに馴染んでいる。
そのせんとくんを制作した藪内さんの作家としての作品と、藝大での修復保存のお仕事、16年の歩みを今見ている。両方を見てようやく、せんとくんがどのような背景や蓄積の中から生まれてきたのか、言葉ではなく理解した。
10年前に「炎上」や「じゃあ取り下げます」というような騒動にならなかったのは、対外的な説明や共有が丁寧だったからかもしれない。「奈良県が、確信を持って、このキャラクターを使っていくことを表明している」という記憶が、ぼんやりわたしの中には残っている。
作品のほうは、とにかく楽しい。うきうき、わくわく、びっくり、にこにこ。
この展覧会での、またひとつの大きな収穫としては、模刻・修復・復元の違い。
模刻:reproduction修復:repair復元:restoration※複製品、偽物:imitation, replicaとは異なる
文化財の実物に施して、これからあとも保存、鑑賞できるようにするのが修復。
その修復の技術を高め、知識を広げ、学術研究のために行うのが、模刻。本物によく似せてつくること。再生、再現。ただし目的は、複製品や偽物ではない。
模刻と修復で養った力が、失われて無い物の復元に役立つ。
それぞれの言葉の定義やこの研究の意義は覚えておいて、自分の今後の鑑賞に役立てる。
ここで専門技術を習得した学生さんたちが、これからどんな人生のキャリアをつくっていくのでしょうね。いつか藝大美術館で作品や、隣の東京国立博物館で、修復のお仕事の成果を拝見する日がくるのかも。
Instagramにも書いたけれど。
「伎楽面が好きだから自分でも伎楽団を作ってみた」という作品が観られたのがよかった。造形作品と映像作品と。
藝大美術館の退任記念展はいつもおもしろいので、なるべく行くようにしている。
作家としての作品と、藝大での軌跡や成果が一覧できる。
教え子さんたちが手伝っている様子も良い。
教え子さんたちが手伝っている様子も良い。
パンフレットも丁寧につくってあるものがいただける。観覧無料。よいことづくめ。
▼藪内さんの公式HP
美術館ではないところにも多く作品が展示されているようなので、またふと会えそう。