ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

〈レポート〉8/26 ゆるっと話そう『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』w/シネマ・チュプキ・タバタ

2021年8月26日、シネマ・チュプキ・タバタさんと、映画の感想シェアの会〈ゆるっと話そう〉を開催しました。(ゆるっと話そうについてはこちら

 

第22回 ゆるっと話そう: 『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』

毎日、朝9時から夕方5時まで、この町は川向こうの町と戦争をしている。
でもなぜ戦争をしているのか、川向こうの人たちがどう「コワイ」のか、誰も知らない……。
「きまじめ」な人々を描きながら、歴史や社会を痛烈に皮肉る、新感覚のブラックコメディです。
 
▼オフィシャルサイト

 

 

▼イベント告知ページ

chupki.jpn.org

 

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当日参加された方々

チュプキに足繁く通っているけれども、〈ゆるっと話そう〉は初めてという方々ご参加くださいました。音声ガイド制作に携わった方や、そのガイドで作品を観た視覚障害者の方も来てくださいました。

少人数でゆったりと聴き合う中で、素朴な感想から見える着眼点の鋭さにハッとしたり、映画の魅力をじっくりと味わいました。

今回は上映期間が短い作品を選定したこともあり、記憶が新しいうちに話せたこともよかったようです。

 

8月のチュプキさんの上映ラインナップは、終戦記念日にちなみ、戦争や平和を考える作品が並びました。これまでにない独特の描き方をしている映画ということで、『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』を取り上げたそうです。

「もやっとした気持ちになる映画なので、ぜひいろんな感想を出し合ってみましょう」と代表の平塚さんより挨拶があり、はじまりました。

 

 

こんな感想が出ました

映画の印象

・チュプキさんからの案内メールで知って観た。タイトルやポスタービジュアルから、優しくてお気軽な映画のイメージを持ったが、観てみたら非常に重かった。ギャップがあった。

・クスッと笑いながら、ゾクっとしてくる。遠い世界の話だと思っていたことが、どんどん自分に近づいてきたように感じて、不気味でハマる。

・無表情のままはじまって、淡々としたまま終わってしまうのかな、寝てしまったらどうしよう、と思いながら見ていたが、どんどん引き込まれていった。こんな映画見たことない!刺激的な体験だった。

・「肝が冷える」感じがするのは、自分の経験と重なる部分があるから。

・ささいなことが記憶に残るようなつくりになっている。だからふと思い出して、「あれは何だったんだろう......」と考えはじめる。

・一度見れば十分かなと思っていたけれど、時間が経つごとに気になってモヤモヤしてくる。癖になる感じ。

・いろんなテーマがそっとそっと仕込まれている。

・抑制された演技や台詞の少なさが余白を生み出して、想像力をかきたてる。

 

※以下は内容にふれていますので、まだ観ていなくて「人の解釈を聞くと影響されそう」という方は、 ぜひ観賞後にお読みください。

 

印象深いところ

・受付の人が、「戦闘」で負傷した兵隊の一人を詰問するシーンで、今起こっている自分自身の問題を思い出した。仕事関係で「決まりだから」とやらされていることや、コンビニで店員さんからマニュアル通りの対応をされたことなど。

・兵隊の人たちの出勤の姿から、以前観た、『ディア・ピョンヤン(Dear Pyongyang)』という映画のシーンを思い出した。北朝鮮で、公務員の人たちが背広を来て出勤して、軍服に着替えて軍隊の行進の練習をする。ディア・ピョンヤンには、わたしたちが持っている固定化したイメージとは違う北朝鮮の姿が写っている。この映画のテーマと似て、「知らないから怖れている」部分もあるのかも。

・小中学校でのいじめを思い出すような場面。笑いながらやっているのを見ていると、胸のあたりが詰まってくるような感覚。

・「自分が生まれる前から戦争をしている。なぜかは誰も知らない」とか「撃っているだけでいい」と言われながらも、撃たれるとちゃんとケガをする。平坦なようでちゃんと状況が変わっていくし、じわりじわりと人が排除されていく。その構図が怖い。

・技術者のたよりなさと、兵器のギャップ。いろんなギャップが印象的な映画。

 

どの感想にも「なるほどーそういうことかぁ」「よくぞそれを言葉にしてくださいました」という思いを込めた反応がありました。

 

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対話を通した発見

たとえば、「川の名前」について。

看板に薄く小さく太津川と出てくる場面があるそうです。もしかしたら「津平町(つひらまち)」と「太原町(たわらまち)」の頭文字をとって、太津川としたのでは?「太」と「津」のどちらを先にするかで戦争がはじまったのでは?という意見が出ました。なるほど!

つまらないことがきっかけになって諍いが起こることは、現実世界でもよくあります。市町村合併などでも聞いたことがあります。この町の戦争の理由は「誰も知らない」ので、想像でしかありませんが、あり得る話ですね。

 

「出る杭となって打たれる若者」について。

「出る杭は打たれる、のように、少し目立つといじめに遭う。それはおかしいと誰もが思っているけれど、言えないでいる若者の現状をよく聞く」というシェアから、劇中に登場する、ある若者の言動の変化にスポットが当たりました。

「相手のことをよく知らない、知ろうとしない」「型にはめ込もうとする」ままに進んでいくことに疑問を持つ人、抗う人の象徴としてその役柄を見てみると、物語が持つ力強さが感じられます。

 

そして、この日一番のハイライトとなったのが、キーとなる音楽である、ヨハン・シュトラウス2世作曲の『美しき青きドナウ』をめぐる対話でした。

・無機質な世界で、唯一心のやり取りが感じられて、ホッとしたシーン
・美しくて涙が出た
・作曲家自身、過酷な家族関係の中でもあのような美しい音楽を作ったことと、劇中の状況が重なる
・楽隊の行進曲と、ソロで奏でるワルツとの違い。理想や幸せを描いたギャップが印象に残る

などの、特別なシーンであったことが様々な表現で共有されました。ドナウ川との単なる「川」つながりだけで選ばれたのではない何か、言葉ではない、音楽だからこそ伝わってくるものを感じ取りました。

さらに、

・実はあの架空の世界では、『美しき青きドナウ』という曲は存在せず、「登場人物の交流によって作られた曲」という設定だったのでは

という説も飛び出しました。なるほど!

そうして考えてみると、物語の展開がまた違って見えてきます。美しいだけではない、哀しいだけではない、それ以上の大切なものが......。

『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』の英題は、 "The Blue Danube(美しき青きドナウ)" なのだそうです。 海外の方も慣れ親しんでいるこの曲、このタイトルから、一体どんなイメージを作品に対して持つのでしょうか。

 

他にも、クライマックスのシーンの衝撃のことをふりかえったり、ラストシーンの解釈が二種類あること初めて気づいたり、あの町のその後はどうなったのかなど、いくらでも話せそうでした。

話せば話すほど、「あの場面は」「あの台詞は」と話題に挙げたくなるポイントがたくさんある、尽きない魅力のある映画であることを、皆さんと分かち合うことができました。

 

 

参加してのご感想

・充実していた。話してみたら自分の思い込みだったかもしれないとわかった。また観たくなった。

・楽しかった。人とは違う見方や思いを聞けてよかった。

・人と話したくなる映画だと思ったので、どう観たか、感じたかをシェアすることで深まった。

・自分の体験と結びつけて話してくださった方がいたのもよかった。

 

ご参加の皆様、チュプキさん、ありがとうございました!

 

チュプキさんでの上映は8月31日まで。

chupki.jpn.org

 

古びない映画、何度見てもいつも発見がある映画です。

エンドロールにもストーリーがあるので、ぜひお見逃しなく!

 

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▼インタビュー記事

cinemore.jp

 

news.yahoo.co.jp

 

news.yahoo.co.jp 

news.yahoo.co.jp

 

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