2022年5月28日、シネマ・チュプキ・タバタさんと、映画感想シェアの会〈ゆるっと話そう〉を開催しました。(ゆるっと話そうとは:こちら)
第30回 ゆるっと話そう: 『ピアノ -ウクライナの尊厳を守る闘い-』
▼ イベント告知ページ
2020年11月以来、久しぶりの劇場での開催、対面での実施でした。
参加者は、上映のあとそのまま残ってくださった方や、音声ガイドの有無で2回も観てこられた方、少し前に観て、この日のために再度足を運んでくださった方など、10名。
聴覚障害の方もおられたので、UDトークを使って対話を進めました。
UDトークとは、スマホやタブレットにアプリとしてインストールできる、音声認識&表示ツールです。スマホ一台あれば、通常の会話を画面上に表示することで、聴覚障害の方と会話ができます。聴覚障害の方のほうは、発話、筆談、タイプ入力など、応答の仕方は様々です。
〈ゆるっと話そう〉では、UDトークのアプリがインストールされているタブレットを聴覚障害の方にお渡しして、会場で出る発言が自動で表示されたものを見ていただきます。音声認識は完璧ではなく、誤認識、誤変換(※)が発生します。そのためチュプキのスタッフさんがPCからログインして、その都度テキスト修正を行う対応をしています。
※誤認識、誤変換について補足
地名や人名などの固有名詞、日本語にない単語(カタカナで表されるようなもの)は、予め単語登録することによってUDトークが認識しやすくなります。しかし、同音異語、日常であまり使わない単語、話し方の癖、周りの音の影響など、様々な条件により、どうしても誤認識、誤変換が発生します。
▼UDトークについて詳しく知りたい方は、ウェブサイトをご覧ください。
対話をはじめる前に、いつものように「全体の流れ」「話し方のルール」「映画の概要」を共有しました。
60分という限られた時間ですので、一人ずつ2, 3分ぐらいの感想を2周できればという目標をお示し、できるだけ全員に感想の機会を作れるよう、ご協力をお願いしました。
また、今回の映画は、人によって知識の量や、関心の度合いもかなり異なる作品です。歴史や政治情勢を詳しく学んでいる方もいらっしゃれば、今回初めて過去にこういう出来事があったと知る方もおられます。
〈ゆるっと話そう〉は、あくまで感想を語る場ということで、教える・教えてもらう勉強会のようなものではなく、お互いの感想を聴き合う中での発見を楽しんだり、「わからない」や「知らない」を安心して口にできる場を目指すことも共有しました。
観賞後の余韻が残る場内で、歌や音楽の力、連帯の土台、精神の強さ、英雄という言葉、戦う意味、撮影方法、映画を通して考える日本、今起こっている出来事との関連など、さまざまな話題が展開していきました。
ご感想紹介(一部)
・日本とウクライナの国家の違いを感じた。ピアノを囲んで国歌を歌う人たちの表情が印象的。自分たちの国を自分たちで作っていくんだという、力強さとたくましさ、人々の国を心から思う気持ちが歌詞に現れていた。方や日本は天皇を賛美する内容。作り直したい気持ち。
・音楽の下地がある人たちだと感じた。音楽が流れるとすぐにハモってコーラスになったり、楽器を奏でる人たちもいる。ピアノを奏でて気持ちを一つにするって素敵。
・音楽の力を感じた。映画『戦場のピアニスト』を思い出した。趣味でピアノを弾いていて、たまたま2月の終わりに、友人とコンサートをひらいた。音楽が状況を変える力になったらいい。ウクライナで苦しんでいる人たちはもちろん、ロシアで自由に発言できない人たちのことも思う。観られてよかった。一日も早く戦争が終わってほしい。
・日本でもギターでの反戦フォークがあった。ピアノを弾くことが無言の抵抗になる。
・映像の力はすごい。ユーロ・マイダン革命のことは、アンドレイ・クルコフ著『ウクライナ日記 国民的作家が綴った祖国激動の155日』で背景を知っていたが、映像の迫力に驚いた。逆に映画では背景や写っている人の立場などがよくわからなかった。
・ロシアのロックが流れるシーン。文化と文化の闘い。利害やイデオロギーだけじゃないものがありそう。
・紛争のど真ん中でピアノを弾くとは、なんて強い人たちなんだろう。安全なところで後ろから応援するのではなく。パンケーキを味方だけじゃなくて敵にも配りましょうかと言う、優しさの強さ。/その利他の気持ちは民族性なのか、その人の個性なのか。
・ウクライナの多くの家では地下にシェルターがあるらしい。攻撃されるかもしれない前提で、何かあったときのための備えが日本と全然違う。一見すると「うわっ」と思うが。何百キロもロシアと国境を接しているという現実があるからか。
・エンディングが気になる。闘いが続くということなのか、ピアノはどうなるのか、観客に委ねられている。/続きがあってほしい。/40分じゃ短い。続きやその後の革命後の状況を知りたくなる。あえて作品として作った監督の意図があるのかも。
・ユーロ・マイダンとは何だったのかを知りたくて観にきた。戦争や紛争の地域はたくさんあるけれど、自分たちの国や生活と直結する感覚を持ったのは今回が初めて。比較的民主主義の理念を共有している人たちが突然侵攻されるということ。そして2014年にこんなことがあったとは全然知らなかった。二重のショック。
・ピアノを引き取りたいと言った女性に「あなたのことを知らない」と兵士に言われるシーンに驚いた。チラシには「ピアノ過激派と呼んで、革命の象徴となった」とあったので、てっきりみんなが知っているのかと思った。このズレが気になっている。
・音楽で平和に人がつながるということに関心がある。バスの上でピアノを弾くシーンでの兵士の表情と、身内のナショナリズム的な団結が強まる様子。クラシックに対してロシアンポップスでのバトル、音楽のいろんな側面を考えさせられた。
・対立が自己目的化することがあるのでは。何のために争っているのかわからないけれど、相手を攻撃しなくてはいけなくされている人たちが、音楽の力によって相対化される。「心にヘルメットかぶってるよね」と言われた兵士の虚ろな感じに現れていた。
・革命の最中に、一体どうやって撮られたのかが気になった。/よく記録映画として残ったな。/カメラマンが撃たれても不思議ではない現場。機動隊の人をアップで写せているのは、寛容なのか。
・ピアノを弾いている中で、ケータイの明かりを点滅させて、恍惚とした表情でいる。暗闇の中に一人ひとりの、生きている、ここに人がいるということを訴えるような光を点滅させている。ドラマチックすぎて、もしかしてドキュメンタリーじゃないのかと思うほど。個人的にはあそこがクライマックス。
・お葬式のシーンで「英雄たちに栄光あれ」と声が上がっていて、英雄ってどういう人たちのことなんだろうと考えた。あの場面では亡くなった人たちへの哀悼だとわかるが、「英雄」という言葉を使って上から押し付けられる愛国心やナショナリズムもある。別の場で、「難民はかわいそうな人たちではなく、戦禍を生き抜いた英雄」という言葉も聞き、考えている。
・ユーロ・マイダンの新ロシア派の人たちは、今の戦況の中でどの立場にいるのか。
皆さんのご協力もあり、お一人ずつ発言していただいてぴったり2周することができました。
お一人の感想の中にたくさんのものが詰まっていて、短い作品だけれど、いろんなことを感じられていたことが伝わってきました。
チェルノブイリの原発を見にウクライナに行ったときの現地の方の歌う姿、ご自身もピアノを弾くという方にとっての音楽への願い、1960年代後半の日本の大学闘争の時代を知る方のお話なども、うかがうことができました。
ファシリテーターのふりかえり
映画本編は41分という短さで、ナレーション等での背景説明が少ない作品でしたが、逆に様々な視点から自由に観て語ることができていたようです。
私が個人的に興味深かったのは、「説明がないのでわからないことが多い」と「国と国との戦争でも、戦闘は地域で起こる。紛争が激しい地域と変わらない日常を送る地域があるのが現実」の二点。
前者については、わからないからこそ、自分で調べてみようときっかけになる点。観客までもイデオロギーや対立構造に巻き込むのではなく、想像力が必要になるので、人と感想を交わしやすい作品だと思います。
後者については、戦争だけでなく、災害もそうですが、私も報道を見ていると、ついつい全部がどこも同じような状況のように粗く捉えがちです。一歩引いた目線を持ち、個別に見ていくことの大切さに気づきました。
また、写っている人たちも、観ている私たちも、一人ひとりの人間であることを皆さんと話しながらあらためて感じました。
今回は再び対面の場で行いましたが、やはり生の声を聞けて、すぐに反応が感じられるのがよかったです。終わってから言葉を交わしながら、徐々に散会していくあの心地よさを思い出しました。
ご参加くださった皆様、ご関心をお寄せくださった皆様、チュプキさん、ありがとうございました。
一日も早くウクライナでの戦闘が終わり、損なわれたものの修復を始められるよう、心から願います。
▼『ピアノ -ウクライナの尊厳を守る闘い-』は配信でもご覧になれます。
チュプキのスタッフさん手作りのピアノの募金箱。
▼配給のアジアンドキュメンタリーズの代表、伴野さんのアフタートーク
🎹5月1日(日)
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
『ピアノ-ウクライナの尊厳を守る闘い-』初日!
本作の配給をされている #アジアンドキュメンタリーズ 代表 #伴野智 さんが急遽ご来館、アフタートークをいただきました✨
既に配信している作品を映画館でかけることの意義、ショパンの曲の背景についてなど、抜粋でご紹介します👇 pic.twitter.com/jft0JWngyA
🔸配信している作品を映画館でかけること
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
「僕らがやっているのはドキュメンタリー“映画”なんです。映画というのはやっぱり映画館のスクリーンで観ていただいてこそ本当にその作品のメッセージが伝わるんだという思いもあるものですから、ぜひ映画館でかけて多くの方に観ていただきたいと」⬇️ pic.twitter.com/ZBahI08qsb
🔸なぜ日本に届けたいと思ったか
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
「音楽院の学生が弾いている『革命のエチュード』の、本当に力のこもった怒りや悲しみのメッセージに心を揺さぶられて、このピアノをみんなに聴いてもらいたい、なんとかして日本に届けたい、という思いで配信を決めました」⬇️ pic.twitter.com/fJpyqmx5Lk
🔸印象的な「革命のエチュード」について
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
「この曲は、ロシア支配下のポーランドが『自分たちの国を取り戻すんだ!』と蜂起した時に作られた曲なんです。ポーランド人だったショパンの思いが現在のウクライナの、彼女のピアノの『闘うような演奏』に繋がっているんだと知ってもらいたい」⬇️ pic.twitter.com/QVWJwlkjNg
「ウクライナの人々にとって、音楽とはメッセージを伝える大切な手段なのだそう。ソ連の時代、ウクライナの人たちはウクライナ語で歌うこと、詩を綴ることなどを禁じられていた。そういった欲圧の歴史があるので、私たちが想像する以上に『自分たちの言葉』で伝えるということへの思いが強い」⬇️ pic.twitter.com/t9L8ktUncs
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
「機動隊の前で演奏したり歌ったりすることは、彼ら彼女たちにとっては最後の叫びだったんです。言っても伝わらない、行動しても伝わらない。じゃあ歌で、音楽で伝えるしかない。そういう思いで彼女たちは演奏した。政権側も音楽の力の強さを知っているからこそ『ピアノ過激派』と呼んで警戒した」⬇️ pic.twitter.com/MEl4bqhDhh
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
🔸映画をご覧になった方へ
— Cinema Chupki(チュプキ) (@cinemachupki) 2022年5月1日
「遠い国の話というふうに思われるかもしれませんが、もし日本でああいうことが起きた場合、私たちは自分たちの自由や尊厳を守り、闘うことができるのか。そういうこともちょっと“自分ごと”として感じたり考えたり、興味を持っていただけたらと思います」⬇️ pic.twitter.com/aYHF7EZo7I
▼特別企画に関する記事
ウクライナ難民を支援する映画会を5月に開催 原爆投下された広島が舞台の「黒い雨」など上映(2022.4.25 東京新聞)
▼参考資料
随時更新されているウクライナ情勢
2022.2.25
おすすめ書籍
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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年)