ミシェル・オスロ監督のアニメーション映画『古の王子と3つの花』を観た記録。映画の日にヒューマントラストシネマ有楽町にて。
まずはひたすらきれいだった。あれだけ徹底的な美に浸り続けると、余韻がいつまでも続く。頭の中にオスロ監督映画の小部屋ができるみたいな感じ。いつでも入室してあの感じを楽しめる。
『アズールとアスマール』または『ディリリとパリの時間旅行』に現れていたような、現代的なテーマ、特に人権について考えるようなテーマは今作ではあまり感じられなかった。それも新作という感じがしてよかった。
メッセージとしては、「人生にいろいろ理不尽なことはあるけれど、知恵を働かせ、ユーモアと想像力を発揮して、機転を効かせて苦難を乗り切り、美しい音楽と食を楽しみ、愛する人と生きることを幸せにしていこうよ」という明るいもので、ピュアな願いをぎゅうっと映画に込めたという感じ。
なにも考えず、ただ物語を楽しむひととき。そういえば最近そういう体験が少なかったなぁと思う。映画を見るにしても深く考えざるを得ない作品が多かったから。もちろんそういう映画も好きなのだけど、ただただきれいなものやおいしいものにうっとりするってこんなに気持ちがいいものなんだと思い出したというか。
小さい頃に大人からおとぎ話を読み聞かせしてもらったときの、辻褄の合わなさや飛躍にあれこれケチつけたりせず、そういう物語としてまるっと楽しんで、細部は自分で補完して勝手に想像して隅々まで楽しむような、ああいう時間も思い出したり。
お姫様に恋する王子様(異性愛)、美男美女、醜い心の人は見た目も醜いなどのおとぎ話の型自体に大きな再解釈はないけれど、なんとなく感じ取ったのは、王子様が今のZ世代っぽいというところ。正直な自分の気持ちを言葉にする、親など年長の男性との関係性を問い直す、暴力ではない形で解決する、男女の対等な関係性など。
映像の美しさはこれまで通り、またはそれ以上なのだけど、人物の演技や人間の声の演技もより繊細になっていた気がする。フランス語の音としての美しさもうっとりを構成する大事な要素(なんかずるい)。
エジプトのファラオの物語では、博物館や美術館で見ていた古代の遺跡や美術品に表された人物や神様が生き生きと動いていたのが楽しかった。再現ドラマでもないし、CGアニメでもない、あの「博物館にある」平面のまま動いているのがいい。
あとは揚げ菓子(フランス語でBeignet:ベニエ)やバラのゼリーが美味しそうだったなぁ! 食べたい!
『夜のとばりの物語』ふうの設えで、語り部が3つの物語へ誘ってくれる。
感想を一通り並べてみた後に、実はこの人の素敵さににも気づく。聴衆からたくさん投げ込まれるリクエストにすべて応じて(本当に組み込まれている!)、でも無理に1つの物語にはまとめず、3つに分ける。なぜなら「そっちのほうがおもしろいから」!
ね! と目配せするようなチャーミングさ。こういうところがオスロ監督映画の魅力。