パリ・オペラ座のバレエ公演を映画館で見られる番組で、『シンデレラ』(2018年)を観てきた。映画館で観られるバレエ公演。カメラは固定ではなく、左右の寄りと引きで見どころを示してくれる&迫力なのでバレエ未経験者でも楽しめる。
METライブビューイングやロイヤルオペラハウス シネマが解説やインタビューなどに力を入れて上映してくれるのに対して、パリ・オペラ座の番組はただ舞台を流しているだけで、そこが物足りなかった。予習なくてもだいたい教えてくれるんだろうなと決め込んで行ったのもよくなかったかもしれないが。
全体としては久しぶりにバレエ番組を見たのもあったし、ハッピーエンドがわかっているお話なので、きらびやかななバレエの世界は楽しかった。コミカル多めのロマンティック、キラキラ、この時期ピッタリの華やかさかなと。
ダンス自体、身体の動きや表現のバリエーションが多くて、これも初心者が楽しめるポイントかも。群舞もよい。四季を表していたところなど。
エトワール、カール・パケットの引退公演とあって、客席の熱気も半端なく伝わってきた。登場と同時に割れんばかりの拍手。映画スターの役は彼にぴったりだった。ちょっとデビッド・ボウイを彷彿とさせるところがある。
自分を救い出してくれる王子様ではなく対等な俳優同士の出合い。腐らず諦めず、チャンスが来たらつかみ、自分の仕事で自立する女性の像は爽快。
鉄とガラスのアールヌーヴォー風の美術は、『ディリリとパリの時間旅行』を思い出して、あの時代のゴージャスな雰囲気を感じた。
ただ、もやっとするところも多々。
・全体的にシンデレラの本来のお話と、演出として入れた1930年代のハリウッドでプロデューサーをきっかけにデビューし、映画スター(王子)と結ばれるという設定が噛み合わない。挿入されるたくさんの映画へのオマージュの小ネタもバラバラしていて唐突で、わかる人にしかわからない(だから冒頭に解説入れてほしかったな)。「どうして12時のタイムリミットがあるのか」「どうしてスターはシンデレラを探すのか」が飲み込めないつくりになってしまっている。
せめて、スターとシンデレラの間には、個人的なロマンスがもう少し見えたらよかったのにな。
・お姉さん二人の「コミカルさ」にはちょっと笑えない域までいっていた。動きやヘア・メイクなども誇張されていて、しんどいときがある。「良い子のシンデレラをいじめるお姉さんや継母さんはいかにもいじわるそうな体だし、悪く描いてもいいんだ」というのがこれまでだったんだけど、確かに酷いんだけど、今やそうそう勧善懲悪にはのれないよね......というところがある。源氏物語に出てくる近江の君みたいな感じ。「みっともない」「ヤバイ」人として描かれた女性を見るのもややしんどい感じがある。実夫?はアルコール依存症にも見えて、家庭内の不健全さ、機能不全な様子が際立つ。強権的な母に乗っ取られる家庭、無力な父......微妙に現代的な要素が入っている。
・一歩館の外に出ると巨大なピンナップガールのネオンサイン。付け鼻に牛乳瓶底メガネ、劇中劇の『キングコング』(未開の地、女性のいけにえ)、中国風のファッションにアヘン吸引......ちょっとステレオタイプだったり、文化への敬意に欠けているとこあるか?
・シンデレラはハリウッドでの俳優の仕事をゲットして(契約書らしきものにサインするシーンがある)、王子様にリフトされて、まるで『タイタニック』の二人みたい。王子様がかなり踏み台にされている印象があって残念。引退公演なのにこれでいいのか。
・私は気づいていなかったが、「映画界でプロデューサーに手引きされて俳優としてデビューするって、2017年のワインスタインへの告発と#MeToo運動が興った直後にこれをやるのはちょっと受け入れられない」という感想を聞いて、なるほどと思った。
・森英恵の衣装は正直なところ......ウーン。新しさを感じないもの、奇抜さに驚いたもの、ダンサーに似合っていないもの、ステレオタイプすぎるもの......とあまりいいことが書けない。唯一、シンデレラの灰かぶり時代のグレーのドレスは素敵だった。切り返しのデザインと素材の質感がよかった。同じグレーでも微妙な違いがあり、品がありました。着てみたくなる。うしろで結わえてる腰紐がアッという変化を見せるのも楽しい。
ちょうどこんな記事を見たところでした。『灰かぶりのための3個のハシバミの実』は、ドイツでカルト人気を誇るクリスマス映画なのだそうです。「王子を全く頼らない自立したシンデレラ」っていうところが気になる。
新宿ピカデリーからDUGへ、1時間ガッツリ話すいつものコースでモヤモヤもいっぱい話した。鑑賞仲間、ありがたし。