映画のあとに観た人同士が対話する「ゆるっと話そう」という場をひらかせていただいている、シネマ・チュプキ・タバタ。
その代表をつとめる平塚千穂子さんのご著書、『夢のユニバーサルシアター』を先月ようやく読み終えました。
少し読んでは胸がいっぱいになり、「うーん、今日はここまで!」と本を閉じ。
またしばらくして別の日に開き、少し読んでは反芻し。
......と、なかなか読み進めるのに時間がかかりましたが、ようやく最後まで行き着きました。
とても読みやすい本なんですよ。
その気になればたぶん1時間ぐらいで読んでしまえる。
でも、どうしてもそうしたくない感じがわたしにはあったんです。
2019年6月に、映画『沈没家族』の配給元・ノンデライコさんに紹介していただいて、はじめてチュプキを訪ね、「鑑賞対話の場をひらかせていただきたいんです」とお願いしました。
平塚さんは二つ返事でOKしてくださいました。
「わたしたちも、チュプキの前のスペースで、映画を観たあとに感想を話してたんですよ〜。でも今はなかなかそこまで手が回らなくて。ぜひやりましょう!」と。
そこでひらいたのが、「沈没家族でゆるっと話そう」。
「ゆるっと話そう」というタイトルも、平塚さんがつけてくださいました。
それから毎月ひらかせていただき、2月の上旬にひらいた『トークバック』で9回目となりました。
スタッフの宮城さんとも一緒に場をつくることができて、ほんとうに毎回毎回喜びがあります。
その喜びには、いろんなものが詰まっているのだけれど、大きいものとしてあるのが、やはりこれ。
- 観客同士で対話することの価値を共有している
- 鑑賞対話ファシリテーターの専門性を理解してくださっている
この2つがあるから、ここで場をひらくお仕事が成立できています。
この価値の共有ができているのはなぜなんだろう。
平塚さんの、チュプキの、何に由来しているんだろう?
と常々思っていたのですが、本を読んだらなんとぜんぶ書いてありました。
「うちでも昔やっていた」と平塚さんがおっしゃっていたことの詳細がありました。
たくさんの人が、それぞれの人生を歩んでいるこの世界で、同じ時に同じ映画を、同じ場所で観ているというのは、偶然で片付けてしまうことはできない貴重な出会いだと思います。映画を観たら「さようなら」ではもったいないと、入場料にはドリンク代も含め、ゆっくりお茶を飲みながら作品の感想を語ってもらえる時間を毎回設けることにしました。ただ、いきなり知らない人の前で「感想を」と言っても話しづらいと思ったので、「どういう経緯でここに来てくれたのですか?」「どのシーンのどの言葉が印象的でしたか?」などと私たちから話しかけていって、皆さんの会話を促していきました。(p67 『夢のユニバーサルシアター』)
館の人で、やってる人が、いた!!!
いや、知ってはいたんですが、そういうことだったのかぁ......と文脈ごと、ほんとうに理解しました。
そして、本の他のページからも、
- みんなに映画のよい体験をしてもらいたい。
- やったことがないけれど、まだこの世にないけれど、でもきっとこれをやったらみんなにとっていいことがある。
- こういうのがあったらいいなって思うなら、それはきっと必要なこと。
- ずっとやってみたかったことを、やってみよう。
- チャレンジしてみよう。つくってみよう。だめだったらまた考えよう。
- 小さく確かな手応え、手触りを信じよう。
こんなこともたっぷりと受け取りました。
(実際にこの通りに書いてあったわけではなくて、わたしの受け取ったものとして)
ああそうか、だからわたしは、あんなにもするりと受け入れていただけたのだな、
チャレンジを応援していただけたのだな、
場を任せてもらえたのだな、
とあらためて深く感謝の気持ちがあふれました。
観客同士が対話する場があることは、価値である。
その劇場の特色になり、集客に貢献し、よき循環を生み出す。
そのことを劇場の人、館の人が知っていて、認めてくれている。
どう説明すればわかってもらえるんだろう、どうしたら信頼していただけるだろうと、自分の仕事の展開についていつも頭を悩ませてきました。
でも、あれこれ説明しなくても、
「ああ、あれのことね、あれをしたいのね、それはいいわね、あなたなら大丈夫ね
と、言ってくださる館の人が存在した!
現にここにいる!
ということは...他にもきっと平塚さんのような方がいるはずだ!!
ということなんだな!
映画館に限らず、館の人。
作り手の人、届け手の人、きっといる。
平塚さんの前向きなエネルギーが伝染します。ふくふく。
この本は、映画館を作ってみたい人、聴覚障害や視覚障害をもった人、
あるいはその支援をしている人の役に立つのはもちろんのこと、
すてきなアイディアを持っているけれど、本当に実現できるんだろうか?
と半信半疑だったり、まだ今少し勇気が出ない人の背中を強く押してくれます。
何をしたか、
何が起こったか、
そのときどんな気持ちだったか、
そのときどきで何を大切にしてきたか、
一貫して何を大切にしてきたか、
が詳細に綴られています。
平塚さんがラジオ番組で話されているのを聞いたり、イベントのトークを聞いたり、 お会いした時に断片的にうかがっていたお話が、こうして一冊の本として、一つの物語として綴られている、まとまっていることが、わたしにはとてもありがたいです。
ライブで聞く話には、それはそれで、すごく受け取るものがある。
でも、文字や文章や本という表現形式だからこそ受け取れるものもある。
自分の好きな場所で、好きなペースで、何度でも味わえるのは、やはりいいよね。
わたしが今仲間と書いている本も、誰かにとっての、そんな存在になるといいなぁ。
それから、わたしも、チャンスをあげられる立場になったときには、チャレンジする人をどんどん応援したいなぁ。
チュプキ設立時のクラウドファンディングにはタイミングが合わなくて関われなかったのですが、今見てもあたたかい思いが詰まっていて、このページは素敵です。
この頃、平塚さんや、支配人の和田さんがどんな道の途上で、どんなことを考えていたのか、本を読むと、そのドラマを時間差で体験させてもらえます。
シネマ・チュプキ・タバタは、映画をめぐる新しい文化の発信地。
「お店」のような気軽さ、人とのほどよい距離感と、居心地の良さがあります。
「こんにちは、きょうなんか美味しい映画ある?」
「きょうはねー、あったかい気分になりたいなら、この映画がおすすめですよー」
そんな会話を交わすまちの定食屋さんみたいな、おみせみたいな映画館。
本を読まれた方は、ぜひほんもののチュプキを訪れてほしいです。
シネマ・チュプキ・タバタ
バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights(チュプキの運営母体)
鑑賞対話ファシリテーター・舟之川聖子