毎年開催されている、印刷博物館の『世界のブックデザイン』展に行ってきた。
実物との対面だからこそ感じ取れることの多さに、毎回驚かされます。
今年はコンクール自体が開催されないことも…でも、そんな中で開催されたコンクールで選ばれた本たちをぜひ見せたい。いろいろな議論をした結果、今年は触れる本を12冊に限定して開催することになりました。下部に黄色のパネルのついた展示台に乗った12冊です。#世界のブックデザイン pic.twitter.com/i7RVwQlBg6
— 印刷博物館 PrintingMuseum (@PrintingMuseumT) 2020年12月23日
感染対策として、手袋の着用をお願いしております。ぶかぶかの手袋では触った感触がわかりにくいかと、ゴム手袋のサイズをLLからSSまで用意しています。ゴムがダメな人用に布手袋の用意もあります。 #世界のブックデザイン pic.twitter.com/Iu9mTwd9sG
— 印刷博物館 PrintingMuseum (@PrintingMuseumT) 2020年12月23日
柵の内側の本は触れませんが、ケースに収めるより質感がわかると思います。展示担当者は本の中が見えるように開いたり、表紙が見えるようにミラーを設置したりと、試行錯誤していました。ちなみに私のお気に入りの1冊はこちら。ドイツの『牡丹灯籠』素敵!#世界のブックデザイン pic.twitter.com/ZKBNpi4Y7K
— 印刷博物館 PrintingMuseum (@PrintingMuseumT) 2020年12月23日
今回の展示で、わたしが注目したのはこんなこと。
審査員はどこを見て評価しているのか?
"美しい"本とは何か?
本を観察し、手袋をして触り、添えられた評を読んでみた中で気になったキーワードをいくつか挙げてみる。重複するものもあり、カテゴリ分けに難もありそうだが、とりあえず。
- 見た目の創意工夫:サイズ、書体、紙質、判型、色彩、余白、段組、小口、天、カバー、光沢
- 読書の想定:判型、開き具合、手触り、視点、集中、座り方
- デザイン、印刷技術:タイトルデザイン、レイアウト、写真や挿絵のバランス、テキストと図版、精巧さ、分野と内容とデザインのマッチング、呼応、効果
- 印象、性質、個性:魅了、巧みな、既知に富む、趣向、控えめ、謙虚さ、革新的、統制、エレガンス、連想、インパクト、再現性、揺さぶられる、鮮やかさ、潤沢、余韻、コントラスト、興味をかきたてる、コンセプチュアル、馴染み、問いかけ、違和感、親しみやすさ、人間らしさ、クリエイティブ、活力、逸脱、センス、理論的、膨大さ、重厚さ、詳しさ、意味、体系的、独自のシステム、浮かび上がる、息を飲む、一風変わった、一目惚れ、楽しさ
物としての本の姿だけではなく、人間とのコミュニケーションをつなぐ物として、どんな性質を持つのかも評価している、ということなのかなと理解した。
細部の美しさと全体として構成されたときの美しさと、そのつながりの意図。
評の独特の言い回しも、観察するとおもしろい。
- これは献身的で思慮深いデザイナーの仕事である。
- デザインは美学を優先に、技術と慎重さでそれが遵守されている。
- デザイナーはこの本の精神、この瞬間の精神を吸い込み、すべてのページに吹き込んだかのよう。
- 奔放な記憶のエピソード性を醸し出す詩的な雰囲気
国別に並べられたり、国名が記されていることで、それぞれの国へのイメージが覆されていくような、また新たなイメージが付加されていくような感覚がある。
あ、これは、わたしが切手を見ているときと同じ感覚だ!
もっとじっくり読んでみたいと思った本は三冊。
Die Bibel – Über Frauen by Paulina Mohr
聖書。ただし、女性に関する概念を含む文章のみが印刷され、他のテキストは消されている。可視化されたのは、抽出された"女性"のあまりにも貧弱な数量......。
Children by Olivier Suter
世界的に有名な人物の子どもの頃のポートレイトが並ぶ。パッと見てめくった次のページに名前が書いてある。最初はクイズのように当てるのを楽しんでいたが、次第に、この子たちが大きくなって成したこと、運命を知る後世の人間としては、だんだんと複雑な気持ちになっていく。
自分の中にある子どもという存在への歪んだ幻想も見え隠れする。
※触れる展示作品
CHILDREN by Olivier Suterja.twelve-books.com
American Origami by Andres Gonzales
アメリカで起こったいくつかの学内銃乱射事件。残された人々、物、まちを追った6年間の記録。写真とインタビュー。圧倒的な喪失と痛み、永遠に止まった時と、移りゆく世界。ただただ圧倒される。ドキュメンタリーフィルムとはまた違う辿り方。
※触れる展示作品
動画紹介 Andres Gonzalez - American Origami on Vimeo
布手袋をして本を触る経験は初めてで、ジュエリーや美術品を扱っているようで、至福でもあった。
2021年4月18日までと会期は長めなので、よきタイミングでぜひ訪ねていただきたい。
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