ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

〈読書記録〉『インフルエンサーのママを告発します』

インフルエンサーのママを告発します』
ジェ・ソンウン/作、チャ・サンミ/絵、渡辺奈緒子/訳(晶文社, 2023年)
https://www.shobunsha.co.jp/?p=7641

タイトルと表紙の絵を見ればわかる。女の子が主人公で、ママがインフルエンサー。子どもが嫌がっているのに、SNSに写真をUPして「いいね」をもらうことに驚喜している。そんなママをとうとう「告発」する……。わりあいシンプルなあらすじなのだけど「告発」を決意するまでがこの本のほとんどを占めている。「嫌だ」という気持ちを相手との関係の中で伝えてもどうにもならない時期がずっと続く。これがけっこう辛い。

この本でなければ、よくネット広告で見たくないのに出てくるエグい漫画みたいになりそう。それがかわいらしい挿画と誠実な同級生の存在、インフルエンサーになる以前のママのエピソードで回避されている。ファッションのインフルエンサーという設定だが、実際に描かれている服がそれほどファッショナブルではないところもよかった。それでも親の搾取ぶりにはちょっと怖くなるところはあって、映画『ヴィオレッタ』を思い出したりした。たぶんそっちに転がるかどうかは紙一重ということなのだろう。ママの強い承認欲求は行き場をなくして別のところに向かうのだろうか。パパも一応いるが影が薄くて、夫婦関係や社会規範としてのジェンダー問題などいろいろと想像させる。

「嫌だ」という気持ちを家族の檻の外に出すことができたことによって、変わっていく主人公。信頼できる友達からもらった新しい視点、新しい言葉によって視野が広がる。奪われていた自分の感情が言葉となって出てくる。ここがとてもいい。

カバー袖にも書いてあったが、「SNSに勝手にだれかの写真をのせることはなぜいけないのか?」は、写真を撮ること、オンラインに載せることが当たり前になってきたからこそ、あらためて我が身をふりかえらないといけないことだと思う。特に大人になってからSNSという道具を手に入れて喜んで便利に使ってきた40代以上の人にとっては(わたしのことだ)、そろそろ冷静にならなくてはいけないときなのかも。どちらかというと生まれたときからスマホSNSもあるZ世代のほうが冷静に見ているのではないか。