ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

NTLive『ハンサード』鑑賞記録

1月、NT Liveで『ハンサード』を観た。

自分への誕生日プレゼントに。「(笑)」と思っていたけど、観終わって「よくこれにしてくれた!!」と自分を抱きしめたい。よかった、すごくよかった!

ハンサード | ntlivejapan

Hansard | National Theatre

 

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すごくよかった。なんてすごい作品!まさに今の日本の話でもある。わたしの話でもある。

・重いものが残る。それでもなお困難とも言えるし、希望とも言えるし。すごく心が動いた。わたしにはあの会話は「皮肉」ではなくて「魂の叫び」と終始聞こえていて、夫婦間のセラピーセッションの一部始終を見たようで、人間同士に起こるダイナミズムを感じた。

・冒頭にサッチャー政権下の1988年に起こったことの解説映像があるので、そこで概要はさらえるけど、やはり簡単に予習していってよかった。特に地方自治法28条の改訂について。第二次世界大戦、技術革新と産業構造の転換、女性参政権、宗教、差別感情、反米感情など、実に様々なことが絡み合っている。

・政治や歴史がとても関係ある。単なる「中年夫婦のクライシス」ではミスリード。イギリス現保守政権への強烈な批判だと思う。この中に散りばめられた政治的、社会課題的背景を知って、笑って、痛みを分かち合ってるっていう、観客の市民度の高さ、シチズンシップを感じて、日本との違いを感じた。

・日本で仮にこういうものを演劇としてやれるのか、やったとして客入るのか、怖くてできないなどもありそう?徐々に流れは変わってきているかもしれないけれど。『新聞記者』→『なぜ君』→『はりぼて』と映画のほうは流れがきているように感じる。まずはこれをかけてくれたNT Liveネットワークの劇場に感謝。

・Hansardとは、「議会議事録」の意で、これもまた何重にも含みがあってよいタイトルだった。

・当時の女性の社会的立場を想像すると、言いたいことが言えないまま何十年も過ごしてきて、直近の出来事をきっかけにして、今ようやく言えた、という妻の気持ちに強い共感があった。また一方で、わたしの近くの席にいた初老の男性が嗚咽していたのが印象深く、彼の人生を思った。

 

印象深いセリフが多かったので、友人のマネしてKindleスクリプトを購入して読んだ。

 

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関連記事(一緒に観に行った友人たちと調べあって集めた資料)

主役の俳優たちへのインタビュー。

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脚本家と演出家へのインタビュー。

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脚本家サイモン・ウッズについて。1980年生まれのこの方の背景と、Brexitを見据えての2019年に書かれた脚本。これを芝居にしたところがすごい。

Simon Woods - Wikipedia

 

庭と国家〜『ハンサード』(さえぼう先生のレビュー)

https://saebou.hatenablog.com/entry/2021/01/20/235038

 

鑑賞前に友人が送ってくれた記事。見る前に慌てて読んだ。小泉政権を彷彿とさせる。大きな影響を受けていたんでしょうね。
https://www.y-history.net/appendix/wh1701-045.html


立命館大学の方?の論文?わかりやすかった。http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/7KISEI/iwasaki.pdf


『「沈黙は死」と言われた時代 テレビの向こうに映る抗議活動に、静かな葛藤を抱いていた』
https://www.buzzfeed.com/jp/patrickstrudwick/30-years-ago-today-teachers-were-banned-from-mentioning-1


論文『イギリスニュー・ライトの同性愛教育政策批判についての一考察』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyoiku1932/58/2/58_2_142/_article/-char/ja/

 


男だって、時には泣きたい─アメリカで話題の「マンカインド・プロジェクト」 
https://courrier.jp/news/archives/149434/?fbclid=IwAR00U22wnclVEPApzlKXGo9erfes9Px8XBggL5gJEsyQaxFc1BImq4bdCCI

 

ドキュメンタリー『マーガレット・サッチャー 鉄の女の素顔』
映画というより、BBCのドキュメンタリー番組といったつくり。「ハンサード」の冒頭の背景説明映像がより詳しくなっている感じ。 

サッチャー自身の夫婦関係を観ながら、頭の中で『ハンサード』の夫婦を反芻した。サッチャー、まさに時代の寵児だった。サッチャーは保守的で伝

統的な女性の性役割を引き受け、女性を武器にしながらのし上がっていった。『ハンサード』の中でヴァージニア・ウルフが言及されていることが理解できる。フォークランド紛争のこと、サッチャーの選挙の闘い方についても触れていて、流れがわかる。炭鉱労働者の労働組合の力を弱めて潰そうとしていたあたりも。「ハンサード」の中で「自分の周りに男性を据えて」といったセリフがあったが、閣僚との関係なども複数人の人のインタビューが取り混ぜられていて興味深い。

 

『ある協会』30ページ足らずの短編小説。ヴァージニア・ウルフの入門として最適。革新的で女性と男性の二項から開放された、対等で自由な存在を求めた。現在もフェミニズムに大きな影響を与えつづけている存在。『ハンサード』観賞後に読み返すと、この短編のエッセンスが含まれていたように見えてきた。前に読んだときはスルーしていたところが、ぐんぐん入ってくる。「議事録(ハンサード)」が、この短編でもキーになる言葉となっていて、鳥肌が立った。

etcbooks.co.jp

 

2018年に刊行された「近年のフェミニズムを語る上で外せない3冊」(個人的に)。

  

 

ダイアナ役のリンジー・ダンカンがサッチャーも演ってる!と友人が教えてくれた。しかもスコットランドの労働者階級に生まれた俳優さんとのこと。うわー。

youtu.be

 

40年を振り返る ロンドン・パンク再考 

https://www.japanjournals.com/feature/survivor/7939-160505-londonpunk.html

ふと思い出した。1970年代〜1980年代ってパンク・ロックの時代じゃないですか。 かれらの行動は反サッチャーでもあったんだ。セックス・ピストルズとか、ヴィヴィアン・ウエストウッドとか。ヴィヴィアンのドキュメンタリーを一昨年ぐらいに観たけど、よくわかっていなかった、何に「反」だったのか。やっと理解した。保守、"偉大なる英国"の締め付け、新自由主義、独裁への"反戦"だったのか。

 

イギリスの政治、社会、歴史。

 

 

本の学校教育で性の多様性ってどう教えているんだろうね?という話になり、友人が見つけて教えてくれた本。まだ読めていないけれど、気になる。

 

劇中でイアン・マキューアンへの言及あり。ちょうど日本で新刊が出たところだった。

 

ブラスバンドってイギリス発祥だったかな。映画『ブラス!』もう一回観てみようかな。炭鉱労働者と聞くと、サッチャーが起動するこの頃。

 

 

うわー、関心が止まらない......。蓋が開いた。ずっと謎だったことが解けたと同時に、新しく探究がはじまったという感じ。

個人的なことは政治的なこと。個人は個人で選択しながらも、大きな社会や時代に翻弄されながら生きている。そして翻弄するだけではなく、徹底的に追い詰めることもする。「政治が人を殺す」とは友人の弁。ああそれだ、まさしくそれ......。

 

『ハンサード』をきっかけに考え続けているいくつものテーマ。まだまだ途上だけれど、『ハンサード』後に観る近現代のイギリスに関する作品は、社会背景をいくらかおさえられた上で観ることができるというのも、大きなギフトだ。

作って届けてくれた方々、素晴らしい作品をありがとうございます!

一緒に探究してくれる学び仲間の皆様、ありがとうございます!

 

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