ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

展示『小村雪岱スタイル -江戸の粋から東京モダンへ』展 鑑賞記録 @三井記念美術館

小村雪岱の展示が同時期に開催という恵まれた時期に、まずは日比谷図書文化館の展示を観た。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

その後、三井記念美術館の展示を観に行った。こちらは2019年の素朴絵展以来。

bijutsutecho.com

 

日比谷のほうは、図書館での展示ということで、本や新聞、雑誌、広告など、出版やメディアにまつわる仕事にフォーカスした展示だった。

こちらの三井記念美術館のほうは、肉筆画、装幀本、木版画、挿絵、舞台美術などの全画業を網羅的に訪ねる展示となっている。

それにしても、同じ作家の展覧会を同時期に観られるのは、どちらかが問いになりどちらかが回答になっていて補完しあえるので、ほんとうにラッキーなことだ。

 

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まずは1914年に発刊された泉鏡花の『日本橋』の紹介から。鏡花40歳、雪岱27歳。13歳差。確か夏目漱石と津田青楓も13歳差ではなかったか。同じような時期に、二組の作家と装幀家の出会いがあったのは、偶然なのかそうでないのか。興味深い。

今回の展示品は、清水三年坂美術館からがほとんど。館長の村田理如の雪岱作品への愛着については、2010年の展覧会についてのレビューが参考になる。

「小村雪岱の世界」 | 青い日記帳

 

日比谷の展示では、装幀家や挿絵家としての誇りのようなものを感じていたが、こちらの展示を見ると、画家としての雪岱の姿が見えてくる。写生や模写などもここで初めて観た。法隆寺金堂壁画の模写は、消失したり破損したりしているので、記録としても貴重ではないだろうか。

日比谷で新聞や雑誌の挿絵原画を観ていて、こんな細い線、一体どんな画材で描いているんだろう?と疑問を持っていたが、こちらで解決した!

紙は、日本橋の榛原(https://www.haibara.co.jp/)特製の薄い美濃紙。
筆は、得應軒(https://www.tokuouken.co.jp/)のイタチの細い毛でできた面相筆。

それぞれのお店はまだ現役営業中というところもすごい!

 

小村雪岱自身が手掛けた版画は3点のみで、今観られる版画作品のほとんどは、雪岱の没後、戦災で失われないようにと、弟子の山本武夫を中心に1941年〜1943年にが肉筆画を版画化したのだそう。浮世絵といえば各所で名前が挙がってくる、アダチ版画研究所が関わっている。

 

肉筆画もよかったのだが、今回わたしは舞台美術の下絵の展示が印象に残った。

遠近感やパースの取り方の正確さが舞台で生きている。新聞の挿絵で鍛えられた映像的効果や、奥行きの出し方。人間の動作の分析や辻褄や考証も丁寧にされていたあの仕事から察するに、舞台という寸法が決まっていて、演目があって、見所を見所として見せる、制限のある中でのクリエイティビティの発揮は、雪岱にとって面白い仕事だったのではないだろうか。

舞台の上では、観ている時間は少なくともそれを「本当」として受け取る。元々の技術力の上に、さらに取材も重ねただろうし、実際に使われることで学んで鍛えられたのではないか。絵を描いて展示して見せることが画家の仕事だと思われていたとすると、もしかすると雪岱の仕事は、大衆的で職人的なように見えたかもしれない。

現代からすれば、アーティストというよりデザイナーという肩書きなのかもしれない。ある効果を与えるために技術や才能を使う。自分の表現を好きなように出すのではなく、何を依頼されているのか、それを見る人は誰なのか、どうだと喜ばれるのか。

原田治『ぼくの美術ノート』には、鏑木清方から画家としてまとまった仕事をしてみたらと言われて、にこやかにかわす雪岱のエピソードが載っている。

 

漱石の装幀を担当していた津田青楓の態度にも通じる。

大正三年七月から八月にかけて、青楓と小宮豊隆は読売新聞紙上で図案の革新について議論した。「小説家が小説を書く様に、畫家が畫を描く様に、音楽家が音楽を奏する様に」図案家の制作態度を希望する小宮に対し、青楓は、図案の流行や傾向を決める権利は図案家になく、消費者にあると諭す。図案界の革新を目指し、挫折し、画家となった青楓の言葉は重い。(『漱石山房の津田青楓』展図録p.17より)

 

挿絵の原画もスペースをかなり取って展示されている。日比谷で観ていたときにも気づいたが、画面からの絶妙の「見切れ」「チラリと見える」構図が余韻やドラマを生んでいる。このような見切れの開発も、舞台美術と相性がよかったのではないか。もし映画がこの時代にあれば、写真が一般的だったら、雪岱はどんな仕事をしたんだろう、と気になる。

 

雪岱といえば、やはりこちらの本が充実している。この値段でこの内容はすごい。何度でもおさらいできるのがうれしい。原田治の文章も載っている。(OSAMU GOODSの方です!)

 

 

ポストカードは迷いに迷ってこの二点。美しい。。

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クリアファイルコレクションに追加。

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ビル街に突如出現する河津桜

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別の場所では梅が見頃。雪岱の世界が、現代も続いている。

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