『自分で始めた人たち 社会を変える新しい民主主義』宇野重規/著 を読んだ記録。
本書の刊行記念イベントで『時給はいつも最低賃金〜』の和田靜香さんがゲスト登壇されていて知った。
宇野先生の「民主主義とは何か?」を何度も何度も読んで、ずっと民主主義について考えてきました。「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」は宇野先生の本なければ作れなかったので、今回は夢のようなイベントです。どうか良かったらご参加ください。
— 和田靜香#石ころ (@wadashizuka) 2022年2月17日
イベント自体はうっかり申し込み忘れたので聞けなかったが、和田さんのツイートによるととてもよい場だったらしく、せめて本は読もうと思って。
タイトルから想像するに、「自分で始めた人たち」だからきっと何かを興した人たち、それも市井の人たちであろう。そして、「社会を変える新しい民主主義」というサブタイトルからは、市民がそれぞれに思う切実さの中から立ち上がっていく民主主義の姿が感じられた。
「民主主義、改めて今考えたい!」と意気込んでページをめくってみたら、全然別の感想が湧いてきた。
わりと私がここ10年ちょっとぐらい慣れ親しんでいた社会(的)起業、社会運動、市民活動などの話だったから。
あ、そうか。これは民主主義だったのか。
そういう驚き。
またあっという間に付箋だらけに。
いろいろ考えることはあるけれど、断片的な思いつきに終わって、なかなかガツっと言い得ていない。悔しいけれど、とりあえず「読書記録」ということで、気軽に書いていこうと思う。
この本は、東京大学主催の「チャレンジ‼︎ オープンガバナンス(COG)」という企画の審査委員をしてきた著者の宇野さんによる、受賞者や審査委員の人たちへのインタビューがベースになっている。
「オープンガバナンス」という言葉も今回初めて知った。「市民と行政が協働で地域の課題解決に取り組むこと」らしい。
読者が「オープンガバナンスを通じた社会変革に加わること、そして日本に真の意味での民主的な政治参加の文化が定着することが、この本の目指すゴール」だそう。それってつまりどういうこと?というのが、本文で示されていく。
第1章は、沖縄出身の高校生と元キャスターで研究機関や国際機関の役員、そして宇野さんの3人が話す。
アメリカで経験したフードドネーションを沖縄でできないかと思ってやってみた!という高校生の話に、しょっぱなから「なんでできたの?」「どうやって人を巻き込んだの?」と食い下がって聞く大人たちの姿がいい。完全に教えてもらう姿勢。受け止め、素直に驚き、問いかけて発展させていく宇野さんの立ち位置、聴き方もいい。
あ、なんかいいなこの感じ、と思って、この先を読み進めるのが楽しみになって、最後まで付箋を貼りながらじっくり読んだ。
2章、市民が政府のデータや情報にアクセスし、自ら社会的課題の解決に取り組む「オープンガバナンス」は日本でもできるのか。
3章、潜在保育士と保育園とのマッチングアプリのアイディア。「Code for Kusatsu」とデジタル世代の若者との協働。
4章、土地に根ざすこと、歴史を掘り起こすこと、地域を求心力にしつつ、他地域と連携すること。
5章、里親同士を繋ぐネットワークと行政との協働。社会的擁護の子どもたちの気持ち。(この齋藤さんだけ一対一の対談になっている)
6章、統計を見る力は民主主義の基盤になる。統計を見ることと、一人の人間として相手を見ることとは、両立する。
そうだ。今までうまく言葉にできなかったけれど、民主主義って「日常に根差し」たものなのだ。
「人々が自分たちの社会のことを、自分たちの力で解決していく」
「社会を変えようとすること」
「政府や企業などの組織におけるポジションとは別の、何かその方の人格に根差す『人間力』のようなものが重要な働きをしている」
そうそう、そうそう。
もしかしたら、本書に登場する人たちに聞いても「民主主義をやっている」とか、「政治参加の文化を醸成している」とは自分からは言わないかもしれない。自分の切実さがきっかけになって、みんなのためにやっていたらこうなったっていうだろうな。でもこれぞ民主的なプロセスだし、リーダーシップの発揮だ。
政治がこの動きを歓迎して、もっと市民自ら動きやすく、もっと民主主義を市民のものにする手助けをしていかなくてはいけないと思う。理想や制度の話じゃない。
もうやってる人がいる、それが重要な社会の一部になっているという事実を受け入れ、信じていこうよ、というメッセージが見えてくる。
この本を読んで、「私にもできそう」と思う人は多分少ないと思う。事を起こすってすごいエネルギーがいることだから。まして、こういう場で発表するような人のエネルギーで大きい。
でも、「この人、この活動知ってる、見たことがある」とか、そこまでいかなくても「言ってることわかる、いいね」というだけでもけっこう違う。「民主主義とは、こういう活動が生まれてくるという可能性のことかも」と思うだけで、けっこう何かが違っていく気がする。
民主主義は、ただの理想でもないし、国の体制の違いのような大きな塊でもない。具体的で、身近にあるものとして、ここに並んでいる。くどいけれど、やっぱりそうなのだ。私自身、再認識した。
政治の話があまりにも政党間のパワーゲームに集中しすぎて(それはそれで理由はあると思うけれど)、政治が遠いものになってしまいがちだった、ここまでの何十年か。
だからこそ、政治参加がこういう活動や運動から経験できて、選挙の意味につながったり、政治の話をすることが当たり前になっていくいいな。そういう経験ができる人が増えると、きっとちょっとずつ社会は変わっていきそう。よくなっていきそう。
この本、他の見方もあって、ちょっと「お仕事図鑑」の趣きもある。
いろんな仕事や職業があって、その中でどんな動き方をして、どんな景色が見えているのか。喜びと難しさは何か。これからのキャリアを考えている人、迷っている人も読むといいと思う。
それから、場づくりを学びたい人にもいい。関係づくり、機会づくり、集いづくり。実際に何かやろうとして人の力が必要になるとき、どう仲間を集めるのか、どうコミュニケーションを図るのかなど。
7回連続講義を受けたような、充実した学びの時間だった。
社会学者の富永京子さんへのインタビュー記事。小さく声に出す、自分を客観的に見る、なども、繋がる話かも。
こちらも冨永京子さんの著書を使ったコラム。「民主主義の話」と言ってもいいかもしれない。学校のワークでやってみたい。
この本も思い出した。村木厚子さんの著書『公務員という仕事』。
宇野さんのインタビュー。こちらはガッツリした民主主義の話。「民主主義は生き残れるか」
タイトルが似てるこの本もよかった。元気出てくる。そういえば『自分で始めた人たち』のほうも女性が多いのです。たまたまらしいのだけど、何かを表していそう。
『自分で「始めた」女たち 「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション』
おまけ。
第1章で他の若者へのアドバイスとして出てきた「高校生の立場を利用した方がいいよ」とは、本当にそう思う。
高校生に限らず、小学生でも中学生でも、とにかく若い人の力になりたい大人はたくさんいる。ガンガン利用してもらいたい。
そういうことを私も共著『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』の特に「シチズンシップのトリセツ」で書いたつもり。手に取っていただけたらうれしい。
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