ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

本『公務員という仕事』読書記録

『公務員という仕事』村木厚子/著(筑摩書房, 2020年)を読んだ記録

 

来月、小学校で仕事について授業するので、リサーチのために読んだ。

公務員の仕事について、ここまで本質をついた説明は見たことがなかったかもしれない。実際に動いていた実感からの言葉なので、動きが見える、動き方や立ち位置がわかる。

事例と共に説明しようとすると、その当時の法制度や事件などを知らないと入って来にくいところもあるかもしれないけど。

どういう人が公務員に向いているのか、
どこが公務員の仕事の魅力だと村木さんが感じているのか、
村木さんの個人的な見解であるところがよい。一般化したガイドではないところが。

やわらかい口調もよい。動画で見た村木さんの話し方、話しぶりなどを思い出しながら読むと、語りかけてもらっているような心地になる。

また、いくつもの勘違いや偏見を読みながら上書きしていくような体験でもある。


自身が被った冤罪被害をこのようにふりかえり、まとめるのか、とその人柄の奥深さを思った。

 

付箋を貼ったところいくつか引用。

もちろん、トラブルもミスもないほうがよいのは当然のことですが、ミスや不正が起こるのは一部です。公務員の仕事の多くは誠実に進められており、不祥事ばかりが強調されることに対しては、多少の割り切れなさも感じていますが、なにかあるとそれだけ強く反応されるということは、おそらく公務員の仕事が大切なものであり、みなさんからきちんとやってほしいと期待されていることの裏返しであるともいえると思います。(p.14 はじめにー公務員とはどんな仕事か)

公務員ではない側、強く反応してしまう側として、この視点の転換はありがたい。そう、「それだけ切実だからこそ」なんだ。そこから物申しているんだ。そして、「多くは誠実に進められている」という事実もまた受け入れること。

繰り返しになりますが、熱烈なファンがつく商品ではなく、とりあえずみんなに「まあしょうがないか」とか「これで行くしかないな」と納得してもらえる制度をつくり、それをみんなに"押し付ける"。その制度に対して、国民や住民は拒否権を選択できない。そのような特殊な商品を扱っている組織が役所だということです。(p.27 第一章 公務員の務めと求められる力/株主のいない役所)

こういう説明が村木さんならではの、誠実で対象を広くイメージして語りかける態度なのだと思う。この本は公務員の仕事の説明だけではなく、「公務とは」の大前提から一つひとつ渡してもらえる。企業との違いがあって理解できる人もいそう。

制度も社会も、自分たちで変えられる。そのことを、ぜひ覚えておいてほしいと思います。そして、そういう制度づくりの場面で、公務員が一生懸命仕事をしていることに思いをはせてもらえるととてもうれしいです。(p.37 第一章 公務員の務めと求められる力/制度は変えられる)

この箇所の前半は、私が『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』の「シチズンシップのトリセツ」で書いたことと近い。そしてそこで制度を作っている公務員への眼差し、これも大切。公務員として働いている人たちは勇気づけられることでしょうね。

ですから、自分の名前で仕事をしたい人には公務員は向かない、ということができます。逆に、際立った個性や特殊な才能はなくても、みんなのために何かしたい、自分の名前が出なくてもだれかのために貢献していきたいと思える人なら、活躍できる仕事はたくさんあります。(p.39 第一章 公務員の務めと求められる力/黒子として全体に奉仕)

公務員を目指すかどうか迷っているときに、たとえばこんなポイントを見てみる。若い人と仕事について話すとき、こういう説明の仕方もよいかも。

 

公務員にとって大切なものは何かと聞かれると、私はずっと「感性と企画力です」と答えてきました。ここで「感性」といっているのは、世の中のニーズを感じ、汲みとれる力のことです。(p.41 第一章 公務員の務めと求められる力/感性でニーズを汲みとる)

ここだよなぁ。法律や制度をつくる人に不可欠な力。

 

その問題について熱心に取り組んでいる民間のネットワークに交ぜていただくことも、重要なことです。(p.146 第三章 公務員の仕事②/人脈をつくる)

この章を読むと、もう自分が公務員として働いているような気分になる。実践的で具体的なアドバイス。レビューなどはあまり見ていないけれど、現役の公務員の人たちのバイブル的なものになりえるのでは? そして公務員ではないが、公的な団体や機関(NPO法人も含め)で働く人のヒントにもなりそう。

 

海外のように、何年か働き、また大学に行って、新たな専門知識を身に付けて仕事に戻る、というようなことが日本でももう少しやりやすくなるとよいのですが、残念ながら今はまだそこまで行っていないので、自分で意識していろいろな体験をして、世界を広げていってください。(p.208 第五章 これからの公務員/リアルな体験が重要)

これはほんとうに思う。流動的になってほしい。視野が狭まり、考え方が偏る。一般社会の感覚とずれたまま業務にあたる。そうならないためには、「居る場所」と変える、「"異文化"と出会う」が一番。それを実践するには、終身雇用的な公務員の人材採用制度の見直しも必要だし、働き方も柔軟で残業を減らして......とやることはいろいろ。

 

「よい行政」を考えることは、「よい社会」を考えることと重なってくるでしょう。(中略)二つ、行政としてめざしたい「よい社会」の姿があります。ひとつは、社会の成員の一人ひとりが自分の能力を十分に発揮できる社会です。(中略)もうひとつは、困っていることを人に伝えられていない大勢の人が、早い段階で困っていると言える社会にすること、あるいは、早い段階で困っている人を見つけ、寄り添って支援できるような社会にすること(p.219 第五章 これからの公務員/よい行政とは)

村木さんに対し、今も様々な要職へのオファーが引きも切らない理由がわかる。

 

村木さんといえば、私にとってはこちらが記憶に新しい。

「ちょっと怖いなと思ったのは、律令制とか幕藩体制とか明治政府とか、自分たちが考えればだんだん近代化、進歩していくプロセスの中で大きな制度が確立していく、その度に表から女性が排除されていく、それが非常に衝撃で。権力の体制ができるときに、やっぱりちゃんと勉強しなきゃいけないなって実感しました。」
「制度で排除してきたから、また制度で取り込んでいける」

この視点!

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「読む」が苦手な方はこちらで「聴く」もあり。演題は「官僚と政治」だが、中でお話されているのは「公務員という仕事を考える」。

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2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社