ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

映画『三十四丁目の奇蹟』とアメリカ社会とサンタクロース

クリスマス気分やユーモアやほっこりを味わえるかなと思って、映画『三十四丁目の奇蹟』を観に行きました。

 

chupki.jpn.org

アメリカのデパートMacy'sにサンタクロース役で雇われた初老の男。実は本物のサンタクロースで、人々の心から「クリスマス精神」が失われたことを嘆いている。自分を雇った女性とその娘にサンタクロースの存在を信じるよう、女性宅の向かいに住む男性とタッグを組んで奮闘していく。デパートのクリスマス商戦の話がなぜか政治的ないざこざも絡んで、裁判沙汰に発展。「彼は本当にサンタクロースなのか?サンタクロースはいるのか?」を法廷で争うことに。。

 

 

以下は、内容に詳しく触れた感想になるので、未見の方はご注意ください。

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はじまってすぐに、「わぁ、映画館でモノクロ映画を観るってゼータクだな!」と思いました。家でレンタルDVDなどで見ていると、画面が暗い・黒いのが気持ちよくて寝てしまうということがよくある。映画館で観ると集中できるからいいよね。

 

...としばらくモノクロの美しさに浸っていたのですが、

「なんというこのWASP男性社会よ...!」

と気づいた途端、時代のギャップの大きさにくらくらきました。

 

映画公開は1947年。第二次世界大戦後まもなく。

キング牧師もまだ世に出ていなくて、フェミニズムもLGBTQもない。

登場する人ほぼ全員白人で、認識できた白人でない人は、黒人の女性のメイドさん

百貨店の経営層は男性のみ。

おそらくその中で「異例の」女性の管理職。

 

アパートメントのお向かいの一人暮らしの男性の家に、少女を預ける。

これも今ならアウトでしょう...。
ついつい、犯罪が起こるんじゃないかと見ていてドキドキしてしまった。そういう話じゃないけど。

 

「クリスマス精神」と言い換えているけれど、もしかするとこの頃、アメリカ社会の中で、キリスト教への帰依心が薄らいだり、何かキリスト教の立場が揺らぐような時期があったのかもしれない、とも読めます。もしかすると移民のちゃんと調べていないので、あくまで仮説ですが。

 

人口過密の大量消費社会の権化のような都会に暮らし、自然豊かな郊外の一戸建てに憧れる。このあたりにも当時の社会の反映を見ます。

 

またこの頃はアメリカで精神分析が流行りだした時期だったのかもしれません。映画中にとんでもない精神分析をする人が出てくるのですが、この人医療者かと思いきや、「精神医学は神聖なものだ。免許もないのに少年の心を傷つけるな。勝手にすん分析する素人は許せない」というようなことをサンタクロースに言われる。サンタクロース自身も「精神に問題がある人」という扱いを劇中でずっとなされ続ける。

精神病院のシーンもある。アメリカの精神医療の歴史を少し知っていれば、読み取れることが多いだろうと思います。

そういえば、精神疾患の患者の脳の一部を切除する、史上最悪の外科手術と言われていたロボトミー手術もこの頃は行われていました。(ロボトミー手術については相当に残虐なので、調べるときはご注意ください。。)

精神分析や精神療法については、いろいろな映画で観る。パッと思い出すだけで、『普通の人々』『マーニー』『アニー・ホール』...。

 

 

サンタクロースも清く正しいわけではなくて、腹を立てて杖で件の精神分析者の頭を殴ったり、「もう誰もクリスマス精神なんて持っていない」と絶望したり、「嘘つきで利己的でずるくて邪悪なやつのほうをなぜ信じるんだ」と怒ったりする、けっこう人間的なキャラクターなのは面白かったです。

 

 

観ながら思い出したのですが、20代の頃に通っていた英語の学校で、「おとぎ話を子どもに語ることについてどう思うか?」というテーマで、ディスカッションする授業がありました。

そのときわたしは、「おとぎ話の中にもバイアスがかかって呪い化するもの(ロマンティックラブなど)があるので、お話にもよる。生きる上で力になるものなら、ファンタジーは重要」というようなことを話したような気がします。

クラスメイトで「現実には起こりえないことを信じさせるのは罪深いんじゃないか。もっと現実の厳しさからのサバイバルを教えたほうがいい」と言っていた人がいたなぁ。この映画に出てくる女性のよう。

 

 

サンタクロースについて一昨年こんなことを書きました。

note.com

今はもう息子はサンタさんを卒業してしまったのですが、でもやっぱりファンタジーは生きる力になるもの。大切なもの。

 

 

「願いを口にすれば叶う」ということをここ2年ほど実感している身としては、もしかするとサンタクロースというのは、願いを聴く(耳を傾ける)目に見えない存在。聴いてくれる存在を意識の中に強く持つことで、叶いやすくなる、ということなのかもしれない。

もちろん毎日でも願い事はしたらよいのだけれど、とっておきの願いを一年に一つ、機会をつくって口にするというのは、それはそれで素敵なことなのかもしれないなぁ。

 

 

この作品を当時の人々と同じ感覚で観ることはできないけれど、今の感覚や社会情勢からのいろいろな発見はあったし、時代を超えて変わらない、人間の願いや思いにも気づけました。

いろいろ書きましたが、やっぱり観てよかったです。

 

 

 

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