映画『トークバック 』を語る会について書いたこちらの記事で紹介した書籍群の中の一冊。
『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』
少年刑務所における更生教育の一つが、「社会的涵養(かんよう)プログラム」。その授業から生まれた作品を中心に編まれた詩集。
刑務所。
関心を持たなければ入れない場所。
でもこの詩集を一冊読むだけで、何かが確かに残る。
読み手が変化せざるをえないものがある。
たとえ全体像はとらえられなくても。
どの詩も、素直な感情や、自分にはない新鮮な感覚の表現にハッとすることの連続だった。評価を意識した技巧的な感じが見られない。
はじめて詩を書いた子が多いというが、ほんとうにそうなんだろうな。
もしかしたら、豊かな感受性を持っていたからこそ、社会が生きづらかったのかもしれない。
ほめてもらえれば、自信がもてる。
素直さ、励まし、達成感、誇らしさ、優しい言葉、素朴さ。
授業を担当した寮美千子さんの言葉から、一緒に詩に取り組む時間の中で、大切なことが交わされてきたことが感じられる。
本の最後に置かれている寮さんの「詩の力 場の力」という文章もまたすばらしい。
詩という表現だからこそ、自分とも人ともつながれている。
理路整然としていなくてよい。心情の吐露でいい。
思考的理解ではなく、自由な感受を大切に。
作った人自身が自分らしさを感じられる言葉、並び、音律に、受け手の発見は大きい。人と人とが、作品を通して別の側面から出会うことができる。
寮さんの言葉にもあったが、日常のおしゃべりとは違う言葉だからこそ心に響くのだ。
日常の言葉とは違う言葉だ。ふだんは語る機会のないことや、めったに見せない心のうちを言葉にし、文字として綴り、それを声に出して、みんなの前で朗読する。
その一連の過程は、どこか神聖なものだ。そして、仲間が朗読する詩を聞くとき、受講生たちは、みな耳を澄まし、心を澄ます。ふだんのおしゃべりとは違う次元の心持ちで、その詩に相対するのだ。
これが、芸術の力。
対話だけではない、表現が介在するからこそ可能になる場。
その効果を意図してデザインしたプログラムや、成長を見守るスタッフの存在......。
あたりまえの感情を、あたりまえに表現できる。
受けとめてくれる誰かがいる。
映画『プリズン・サークル』を観たときに思ったことが、また頭をもたげる。
このような教育を、学校で受けられていれば。
なぜ学校は、このような体験をできる場所ではなかったのか。
どの地域であっても、どの年代であっても、受けられる教育になっていないのか。
いちいち悔しがっていこうと思う。
ともかく、いい機会さえ与えられれば、こんなにも伸びるのだ。
SSTと同じように、全国の小学校や中学校で、このような詩の時間を持てたらどんなにかいいだろう。詩人の書いたすぐれた詩を読むだけが、勉強ではない。すぐそばにいる友の心の声に、耳を澄ます時間を持つ。語り合う時間を持つ。それができたら、子どもたちの世界は、どんなに豊かなものになるだろう。
(引用部分はすべて『空が青いから白をえらんだのです』より)
人間にとってとても大切なことを体験しているかれらを見て、いいなぁと思う人だっているだろう。刑務所いいなぁ......って。なんだそれって、そういう悔しさ。
奈良少年刑務所は2017年3月末に閉鎖され、2021年にホテルになって生まれ変わる予定だそうだ。
その経緯はこちらの記事に。(参画する企業は変更になっているかも)
閉鎖までに、このプログラムにどんな歩みがあったのか知りたい。
関連書籍を読んでみようと思う。
最後に。
ふとこの歌を思い出したので、ご紹介したい。最近息子とよく見ている、子ども哲学の番組の歌。♪本当のことばに出会えると テルミーテルミー どんどんキミが見えてくる♪ のところが好き。
_____________________