ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

展示『民族衣装 ー異文化へのまなざしと探求、需要 ー』@文化学園服飾博物館 鑑賞記録

文化学園服飾博物館で開催の『民族衣装 ー異文化へのまなざしと探求、需要 ー』展を観てきた記録。

museum.bunka.ac.jp

 

世界では、それぞれの地域で多様な民族衣装が着られています。それは現代では誰もが知る感覚ですが、情報が少なく世界が隔てられていた時代には、自分たちと異なる民族がどのような生活をし、どのような衣服を着ているのかは容易に知ることはできず、それを知ることは人々の好奇心を満たし、また重要な情報のひとつとなりました。
展示では、民族衣装が描かれた書物や、民族衣装の研究、フィールドワークなどに焦点を当て、ヨーロッパや日本において、アジアやアフリカの民族衣装がどのようにとらえられてきたのかを探ります。またデザインやカッティングなどに民族衣装の影響を受けたヨーロッパのドレスを、元となった民族衣装とともに紹介します。(文化学園服飾博物館公式ウェブサイトより)

 

民族衣装の展示かなと思っていたら。それだけじゃないことを青い日記帳さんのブログで知った。「文化の盗用」まで踏み込んだ、意欲的な展示だ、と。

http://bluediary2.jugem.jp/?day=20211117

 

それは観ねば、と行ってきた。


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異文化の衣服、風俗、ファッションを人類はどう取り扱ってきたのか。主に支配する側、取り扱いに有利な側からのまなざしで辿る。

1章:未知の世界への好奇心(〜19世紀末)

世界を知ることが難しかった時代の憧れ、空想も含む微笑ましい時代から、

2章:より正確な情報への欲求(20世紀前半)

植民地主義や交通技術の発達に伴う学術的、商業的な眼差し、

3章:民族衣装のさらなる探求(20世紀後半)

を経ての、

4章「民族衣装の模倣、受容(ヨーロッパの流行への影響」での「文化の盗用」の問題提起。民族衣装の影響を受けた衣服(デザイナーの手によるものを含む)を、元となったアジアやアフリカの民族衣装と並べて紹介しているところが画期的だった。


民族衣装そのものも美しいが、背景をじっくり読み込みながら展示を見ていくと、ただ「素敵ね」だけでは終われないものがある。自分の用い方にも突きつけられるものがある。私は民族衣装が好きなので、そのエッセンスを普段のファッションに取り入れることがある。

そんな後ろめたさもあったので、今回の鑑賞の目的として、「民族衣装の文化盗用の何が問題かを自分の言葉で言えるようになること」があった。

今の私としてこんなふうに説明できるだろうか。

民族衣装には、それぞれの文化に根ざした特別な意味を持つものが多い。信仰、祈り(吉祥、魔除、五穀豊穣、子孫繁栄)、階級、儀式、性別、未婚/結婚、部族、イエ......などなど。それらには長い時間をかけて受け継がれてきた伝統があり、人々のアイデンティティや誇りが蓄積している。

それを異なる文化圏で異なる用い方をすることが、元の民族に対する尊重を欠く可能性があるということだと思う。たとえば、男性しか着ない衣服を女性のファッションにする、女性が肌の露出を避ける民族の文様を肌の露出を強調するファッションに文様として採り入れるなど。

エキゾチック、オリエンタリズム、フォークロリズムへの憧れ、異国情緒だけで反射的に飛びつくのではなく、誰がどのように用いてきた衣装なのか、文様なのか、知ろうとすることが大切なのでは。また、購入、着用することで文化の盗用に加担している可能性も常にあるということも頭に入れておきたい。

日本の着物も本来とは異なる使われ方をしてきたし、KIMONOを矯正下着のブランド名に使われそうになったという「事件」もあった。(関連記事

 

何が文化を毀損する態度なのかは、これといって正解があるわけではないと思うので、これからも都度考えていきたい。

 

その他鑑賞メモ

・世界が隔てられていた頃の人々の好奇心の強さ。エネルギーを感じる。西洋にとっての東洋、東洋にとっての西洋。誇張も想像もあるのが微笑ましい。異国趣味。行き過ぎると趣味が悪くなる。やはり上から目線も多分にある。その境目って難しい。

・中国と日本の混同は昔も今も変わらないらしい。

・18世紀〜19世紀にイギリスの舞台芸術の分野で、演者が着要する衣装において、地域考証に目が向けられるようになったという起こりが興味深い。

・1922年にツタンカーメン王の墓が発掘されたことで西欧に「エジプトブーム」が起こり、ファッションに取り入れられた。(オリエント風のフォルチュニィのドレス!)

・軍服類を調査、補給していた陸軍被服廠の外郭団体である「被服協会」が、民族衣装の表現や形状の調査を行なっていたそう。戦前に収集していた物品類が戦後文化学園に引き継がれている。そのような機関が陸軍にあったことが驚き。今回の展示には、台湾の原住民のパイワン族タイヤル族の衣服もあった。植民地支配下に置いた地域の服飾を調査していたらしい。

陸軍被服廠に関連の記事。(服飾調査への言及なし)

陸軍被服廠と関東大震災
https://smtrc.jp/town-archives/city/honjo/p07.html

広島旧陸軍被覆支廠
https://www.oa-hiroshima.org/buildings/buildings05.html

・1927年(昭和2年)に三越で世界風俗博覧会という催しが行われている。ジオラマとマネキンを展示。古本屋さんのブログに写真があった> https://kogundou.exblog.jp/239858177/

大東亜共栄圏を目指し活動していた日本が、大正から昭和の戦前期に現地の民族の風俗や暮らしぶりをかなり詳しく調査し、写真と文章で綴って書籍として出版している。担っていたのは、商社駐在員や公的機関の調査員。植民地支配の

・戦後、民族衣装の調査は、失われゆく民族の独自性、技術、材料などの記録や伝承としても行われてきた。小川安朗(元陸軍被服廠)、田中千代、松島きよえ、道明三保子、野口文子、岡崎真奈美。

 

会期は2022年2月7日まで。

 

文化学園が出版しているこちらの本、学びが深まる。

『世界の民族衣装図鑑』文化学園服飾博物館/著(ラトルズ, 2019年)

 

 

▼関連記事

hitotobi.hatenadiary.jp

 

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