ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』鑑賞記録

シネスイッチ銀座にて、『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』鑑賞。

jose-mujica.com



『なぜ君は総理大臣になれないのか』の大島監督が、本作のプロデューサーを務めておられ、舞台挨拶に出られると前夜に知り、そのうち見ようと思っていた作品ではあったけど、明日行くしかない!と決めた。

そうそう、ムヒカのスピーチが絵本になっていたのは知っていたけれど、イラストレーションを中川学さんがされていたと直前に気づき、より足取りも軽く、劇場を訪れた。

中川学さんは能の会や鏡花本で知り、個展にも伺って、絵も購入させていただいた。密かにファン。

 

直前にムヒカの議員引退の報もあり、タイムリーだった。元大統領とはいえ、日本から遠い国の一議員の引退がニュースになり、毎日小学生新聞にも載るってすごいことだ。

mainichi.jp



f:id:hitotobi:20201110105711j:image


映画を観て、ばらばらと感想を。

ムヒカの真ん中から出てくる魂の言葉が心にまっすぐ届く。

特に東京外国語大学(先日行ったばかり!)での講演は、外大の講堂と同じように、映画館の場内が水を打ったように静まり返り、ムヒカの言葉をみんなで、一人ひとりが受け止めているのを感じられた。

言葉が胸を打つのは、その存在と振る舞い、気配の中に、生き様を感じるからだ。自分の中に共鳴するものがあるからだ。

違和感によって強くなっていく信念や、それゆえに孤独を受け入れていく過程が人生にはあること。

 

知らず、涙が溢れた。

時間と貨幣経済、資本主義、、ミヒャエル・エンデの『モモ』や『エンデの遺言』を思い出したりもした。


***

7月に『ぶあいそうな手紙』という映画を観て、ウルグアイという国に興味を持っていたところだったので、政治的背景を補完することができて、よかった。
映画は、政変のためにウルグアイからブラジルに移り住んだ男性が主人公。

そういえばウルグアイラウンドという言葉、ずっと報道で聞いてきた割に、なんのことかわからないまま大人になっていたな。

日系移民がウルグアイで花卉栽培をしていたことなどはじめて知った。ムヒカがその人たちをどんなふうに見ていたか、ムヒカをどう見てきたか、、ここに取材が入ったことによって、映画の魅力がより増している。構成がよかった。

最近、花鳥風月をしみじみ愛でられるような歳頃になって、菊なんかも可愛く思えて……ということを言っていたのだけど、この映画によってさらに菊が特別な花になった。

***

また、一人の人間の、超個人的な動機や思いの強さが未知の世界に橋を架けてくれることを思った。

監督の田部井さんは、映画の中でもそうだし、現実に生きて動いていても、とってもふつうの人だ。若さと謙虚さと素直さのある人に思える。

特別のオーラがむんむん放たれている感じではない。でも、自分の初めての子に「歩世(ほせ)」と名付けるほど、ムヒカに惹かれている、尊敬している、感謝している……。

その思いを一人称で語るべきだと、プロデューサーの大島さんの助言があったらしい。

もともと田部井さんはテレビのディレクターの仕事でムヒカを訪ねて、そのことがきっかけでムヒカを日本に招致する企画にも関わったわけだけれど、それはTVとしての仕事であり、客観性が求められる。目的や問題提起があり、わかりやすく伝える。

でもそれだけでは自分の個人的な思いを表現して伝えられない。だから映画しかないと思って企画していて、でもその映画でTVと同じようなつくりだったり、「逃げ」が入ってはダメでしょう、ということなのだろうなぁ......と勝手に想像。

自分の衝動や情熱から逃げない。

「賢人と若者の対話」という物語でもあった。

***

田部井さんの「ムヒカに出会って、政治家の原点は言葉だと思った」という言葉が強く印象に残った。

この映画は新型コロナウィルス感染症流行の前に素材は集められて作られているけれど、今観ることで、ほんとうに「自身の考え方を変えないといけない」と思う。

あらためて、映画を作ってくださったことに感謝したい。

***

わたしは迷っていた『東京裁判』のblu-rayディスクを購入した。これも今しかないと思った。(来週は、国立ハンセン病資料館に見学に行く。これもやはり今しかない)

また、この日の夜には、HISが企画したオンラインスタディツアーで、アウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所にも訪れた。大切な体験で、朝から夜まで、忘れ難い一日となった。

大阪の住民投票が終わり、次はアメリカ大統領選挙。激動の2020年を生きている。

 


f:id:hitotobi:20201110105753j:image