能楽堂を舞台に、様々な芸術分野の専門家を招き、能と一緒に「何か」を体験していく「能&」という通年のイベント。
その第1回が「能&美術」で「能楽師を描いてみよう!」というテーマで行われたクロッキー会だった。
能楽師さんによる装束の着付けや演目『熊野(ゆや)』の解説を聞いた後、能楽堂に移動して舞台の上の能楽師を客席から4分程度で描いていく流れ。3つのポーズのあと、ムービング(舞っているところ)にもチャレンジした。
能楽の先生・武田伊佐さんも、クロッキーの先生・三木麻郁さんも、体験のために必要な、的確で最低限の解説をしてくださるので、するすると入ってくる。
わたしは絵はうまくない、全然自信はない。でも、描くのは好き。
1枚目、2枚目はちょっと人に見せられないぐらいの出来だったけれど、3枚目でようやく調子が出てきて、気にいったものが描けた。そう、この自分が気に入ったものが描けるのが大事なんだなぁ。
ムービングは難しかったけれど、やったことがなかったので、ただただ新鮮な体験だった。誰かと比べられる心配もないから(どれだけビビリ......)「まぁとにかくやってみましょう!」と放り出されるのも楽しめる。
先生の声かけを聴きながら、めいめいが自分の好きなように、自分にとって良きようにやるだけという、まるでヨガスタジオにいるような雰囲気がとてもよかった。取り切られた場で、ナビゲーションしてもらいながら集中できるのは気持ちがいい。こういう時間を時々持ちたいと思った。
能楽堂を貸し切りっていうのもすごかった。楽屋に入れるのもよかった。
『熊野』は、まだ観たことがない曲だけれど、いつか観るときがきたら、この日のクロッキーのことを必ず思い出すんだろう。どういうタイミングで、どういう経緯で自分が出会うのか、今からとても楽しみ。
能楽師さんからクロッキーの先生への質問「他の舞台芸能者、たとえばバレエダンサーと能楽師では描く時にどんな違いがあるか?」、それに対する先生の答えが興味深かった。
「バレエダンサーは体の線で美を見せるけれど、能楽師は大きくて横に広がるような装束を身につけているので、体の線がまったく出ない。布を描いているという感じ」
なるほどそうか!
装束の色や動きがつくる形、シワの入り方、光の反射、引っ張られて引きつれている緊張、ふわっとしたりバサっとする質感......布がつくるものから心情を読み取ったり、風景を重ねていたのか。謡やお囃子、舞はもちろんだけれど、能楽師が身につけている装束もまた、単に美しいだけではなく、それらも能の演出に重要な役割を果たしていた。
別の芸術と掛け合わせることで、能を再発見していく試み「能&」。
これは意義深い!楽しい!ますますお能が好きになった。
次回は「能&オペラ」ということで、オペラ歌手による舞台での演技体験会があるそう。楽しみ!
宝生流シテ方能楽師・武田伊佐さんhttp://www.hosho.or.jp/member/779/
ポルケアート(主宰・三木麻郁さん)https://porque-art.tumblr.com/
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