ひととび〜人と美の表現活動研究室

他者の表現にふれることから、自分の中にある美の感覚にもふれてみる、自分の美を表現してみる。みんなで探究する鑑賞の場づくりを通して考えることなど。

映画『恋恋風塵』(台湾巨匠傑作選)鑑賞記録

新宿K's Cinemaで上映中の台湾巨匠傑作選2021侯孝賢監督40周年記念 ホウ・シャオシェン大特集を追っている。

 

最初に観たのがこちら。(ブログの投稿と鑑賞記録の順は前後)

侯孝賢『恋恋風塵』 1987年制作。
原題:戀戀風塵 英語題:Dust In The Wind

概要・あらすじ 

60年代、幼い頃から田舎町で兄弟のようにいつも一緒に育ってきた中学生の少年アワンと少女アフン。卒業して台北に働きに出た二人の淡い恋とその切ない別れを描く。(K's Cinemaウェブサイト

侯孝賢が独自の作家性を確立し、映画美学を一旦極めた第二期にあたる。『風櫃の少年』『冬冬の夏休み』『童年往事 時の流れ』を経てたどり着いたのが、この『恋恋風塵』。自分および脚本家など周りの重要な他者の生い立ちにヒントを得て、描かれている。

まずはこの映画から、侯孝賢に出会い直す旅をはじめる。

 

youtu.be

 

今回の上映で権利が切れるという、日本最終上映。これは観ねばと日付が変わると同時にチケットを取って、最終日の最終上映にきっちりと見届けた。

 

『恋恋風塵』を観たのは確か高校生のときだったと思う。『悲情城市』が話題になったあとで、BSで放送されていたか、レンタルビデオで借りて観た。具体的にはラストシーンしか覚えていなかったが、とても美しい映画として記憶の中にある。

「いつかまた大人になったときにわかるだろう」と思いながら、この頃は一見退屈そうに見える映画も、選り好みせずに観ていた気がする。とにかく時間があったし、好奇心もあった。「この人、映画の世界ではすごい人なんだ」と思ったら、とりあえず観た。

世界にはどんな映画があるのか、どんな物語があるのか。知らない国の知らない言葉、文化に触れるのも新鮮だった。どの国の映画もかなりフラットに観ていて、きょうはポーランド映画、明日はイラン映画、明後日はフランス映画という感じで、なんでも観た。

そしてそういう営みについては、一人の友人をのぞいては誰とも共有することはなかった。ほぼ二人でコツコツと感想を交わしながら、鑑賞経験を積んでいた。

そんな年齢を過ごしたわたしと、『恋恋風塵』に出てくる10代は全く違う。

山深い集落に暮らし、学校に電車で通い、高校には行かずに台北に出て働く。
つてを頼って、仕事をみつけ、家を借りて、自炊して。友だちや仲間と肩寄せあって、生きる。そんな日々も兵役までの数年のこと。

昔の台湾は徴兵制があった。中国共産党と軍事的に対立していた1951年に始まり、18歳以上の男性が海軍3年、陸軍2年の兵役についていた。この映画が撮られたのは、戒厳令の時代(1948〜87年)が明けるか明けないかの頃。

 

宣伝上は、「懐かしさと切なさのある、少年少女の恋愛映画」との触れ込みだったが、今観てみると、その宣伝自体にも時代を感じる。

自分が観ているのは、彼と彼女の内面ではなく、周りにある環境。自然、世相、時代、政治、経済、社会。歴史。その中にいるかれら。若者たち、大人たち、人間たちの営み。人生。周りにあるものを通してかれらを知っていく。

淡々としていながら、突き放すわけではない。温かな関心を持ちながら、ずっとそこにいられる。ショックなことも起こるが、観ているこちらが胸掻きむしられることもなく、穏やかさを持っていられる。しかしとても感覚に迫ってくる。

草葉の陰で見ているってこういう感じだろうか?この立ち位置、よしもとばななの『デッドエンドの思い出』に収録の短編「ともちゃんの幸せ」を思い出す。

 

訪れたことのあるようなないような、近いような遠いような、いつかのような今のような、心の世界へ連れて行かれる。

その美しさ、斬新さを、高校生当時も少しは感じていたのだろうか。こういう映像世界があると知ったことで、わたしはしんどい日々に光を感じただろうか。

 

少年が働く職場のボスが、戦時中の記憶を語るシーンには、胸がつまった。
日本の兵士として戦っていたのだ。

また中国から船が難破してたどり着いた、広東語を話す家族の貧しい様子と、十分な食事にありついている兵役中の若者たちの対比も、新たに記憶に残ったエピソードだ。

 

別れという一大事はあるものの、おもしろいドラマは起こらない。

かといってつまらないのではない。ずっとおもしろい。常に何かが起こり続けている。一秒も目を離せない。

川のせせらぎや木々のざわめきを見ていて飽きることのないように、いつまでも見ていることができる。

山水画のように、大きな自然に抱かれた中で、人が生まれ、出会い、別れ、働き、食べ、耕し、笑い、泣き、喜び、苦しみ、祈り、病に伏し、あるいは殺められ、死んでいく。

そう、恋愛というよりも、だ。

 

壮大で、等しく生けとし生きるものへの眼差しが注がれる映画。

またいつか、スクリーンで再会する日を楽しみにしている。

 

 

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昔観た映画に出会い直したシリーズ。こういう最近の経験があったから、今回熱を込めて再訪できている。温故知新。必ず発見がある。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

侯孝賢の映画をより観たくさせてくれた、最近の中国の監督の作品。時間を超えて受け継がれている美意識。映画体験。

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