ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

〈レポート〉6/29 ゆるっと話そう『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』w/シネマ・チュプキ・タバタ

2021年6月29日、シネマ・チュプキ・タバタさんと映画の感想シェアの会、〈ゆるっと話そう〉を開催しました。(ゆるっと話そうについてはこちら

 

第21回 ゆるっと話そう: 『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』

北国から沖縄のフリースクールにやってきた15歳の少女・坂本菜の花さんと彼女の日記から、沖縄の素顔に近づくドキュメンタリーです。

▼オフィシャルサイト

chimugurisa.net

 

 

イベント告知ページでは、こんなご案内を出しました。

どの言語にも、翻訳できない言葉、その言語でしか言い表すことのできない言葉がありますが、ウチナーグチの「ちむぐりさ」もその一つでしょう。
「あなたが悲しいと、私も悲しい」。
なんという深い共感の言葉でしょうか。
 
もしかしたら、
「知らないで生きてきたことの申し訳なさ」
「今まで断片的に見聞きしていたことが、一本の線でつながった喜び」
「言えなかった気持ちを、他の人が代弁してくれたときのありがたさ」
そんな感情を表す言葉も、世界のどこかにあるのかもしれません。
 
主人公の菜の花さんが出会う沖縄の風景や人々の姿に、わたしの中の10代の感受性も、激しく共鳴します。不条理なこの世界を生きるために、一人の人間に何ができるのか、考えずにはいられません。
 
とはいえ、どんな大切なことであっても、知るタイミングや学びの機会は、人それぞれ異なると思っています。その上で、わたしが今、機会を提供できる側にいるなら、それを生かしたい。どなたかに貢献したい。そんな気持ちで、当日は進行します。
 
知らないから、知りたい。
わからないから、わかりたい。
伝わらないから、伝えたい。
60分の感想シェアの場は、まずはそんな言葉を出すところから。
 
今がタイミングかもしれないという方、お待ちしています。

 

f:id:hitotobi:20210816074130j:plain


 当日は7人の方が参加してくださいました。

今回はグループ分けはせず、全員で輪になって(オンラインでは輪にはなれないですが、できるだけそんな気持ちで)、ひとり一人の言葉に耳を傾けました。

参加の動機

・今日さっきみたばかりのほやほや、ズドーンと心に入ってきた。

・菜の花さんという10代の女の子の成長物語なのかな?と思って観始めたら、それだけじゃない深いテーマがあって、いろんなことを考え、思いが湧いて……。

・知らない人と感想を話す場に来るのははじめて、そもそも人と感想を話すこともあまりない、でも今回はどうしても話したくて。
・沖縄が自分のルーツだから、本土の人に知ってもらうことに切実さがある。
など、背景は様々ながら、何かしらの切実さのようなものを持ってご参加くださいました。

 
いろんな感想が出ました。
映画の場面から
・何度も訪れている美しい海を思って、あそこを埋め立てているのかと思うとつらい。
・自分の管理する牧草地にヘリが落ちた人、あんな被害にあっているのに、乗っていた人の無事を心配する......優しくて強い沖縄の人らしさを感じる
・機体や部品が落ちる可能性があるから、軍用機が上を飛ぶと、小学校の校庭にいた子どもたちが避難する。こんなことが日常で起こっているなんて。
・保育園の保護者のお母さんたちが上野駅前で街頭活動をしていた場面。保育園に子どもを預けているお母さんたちだから暇ではないはず。でも東京まできて行動していた。なのに声が届いていなくて、悔しい。
・歴史の資料ではモノクロの画像や映像が多かったけれど、現地に行ってみると、海も空もすごくきれいなところ。ここで起こった出来事だったんだと思うと胸が苦しい。
・一番ぐっときたのが、戦中のフィルム映像の中で、アメリカ軍に捕まった子どもがガタガタ震えていて、その震えがずっと止まらない様子。なんとも言えない。
 
主人公・菜の花さんについて
・解説ではない形で、伝わってくる。菜の花さんと一緒に体験できた。
・菜の花さんの、ノリ良くいろんな行動で問題の真髄に入っていく感じ、偉い。

映画から感じたこと
・明確な基地賛成派の人は出てこなかった気がして、そういう人の理由を知りたいと思った。
・ニュースに心を痛めているだけで、辺野古のデモにサポートしたり、土地規制法案反対に署名したりしているしかできず、沖縄に関しての罪悪感がある。
原発の問題にも似ているが、近くに住んでいる人にとってはたまったもんじゃない。でも遠くにいると感覚がにぶる。
・個人同士ならいがみ合うことはないのに、政治の問題が絡むと途端に難しくなる。
・民意は示されているのに、情報や認識にギャップがある。メディアの報じ方にもいろいろある。沖縄と本土でもかなり違う。まずは沖縄の新聞ウェブ版からローカル情報を得るのも手かも。
 
知って何ができるか
・菜の花さんが石川でやっているように、戦没者の遺骨入りの土を辺野古の埋め立てに使うことに反対する請願書を自分の地元の議会に出すこともできる(関連記事)。その後議会は意見書を採択している(関連記事)。市民の力は小さくない。
・足を止めて話を聞いて、署名するだけでも大きな力になる。思い続けること。
・沖縄のファンを増やしたい。「沖縄の人」といってもいろいろな人がいる。自分たちと変わらない人たち、変わらない日常がある。沖縄を身近に感じてもらうところから。

沖縄の歴史や現状を知り、共感したり、理解したいという気持ちを出したり、自分にできることを小さくても見つけようとする言葉が、活発に行き交った場となりました。
 

f:id:hitotobi:20210816145835j:plain


 
 

場をふりかえって

皆さんと感想を語り合うことで、映画の場面は、背景への想像も含めて、より生き生きと立ち現れ、話している方に起こった過去の出来事も、まるで一緒にその場で見ていたかのように分かち合えました。

どうしたらよいのか途方に暮れてしまう大きなテーマにも度々踏み込んでいましたが、言葉を交わしているうちにどんどん気持ちが優しく、明るくなっていく感覚がありました。これは決して課題を矮小化しているわけではないのですが、普段あまりにも口にしない話題なので、この話題で話せること自体がただただうれしいという感じでした。大切に考えたいテーマだからこそ。
そんなふうに思わせてくれる映画でした。

「今沖縄は大雨らしい」と教えてくださった方もおられました。この映画をきっかけに沖縄の天気予報を見るようになったそうです。こんなふうに日常で小さなつながりを感じていくことだって、きっと平和につながる。
私たちに強さがあるとすれば、生活者としての視点で語れることではないでしょうか。
 
イベントが終わってからのスタッフさんとのふりかえりでは、「この映画を何より自分のために観られてよかった」という話が出ました。「私、この映画を観てほんっとよかった、励まされたんだよね」と思わずしみじみとした吐露になる。「あなたも沖縄の問題を知るべき!」という勧め方ではない、こんな在り方だからこそ、伝わるものがありそうです。
 
この映画のよいところは、皆さんもおっしゃっていましたが、
「同世代の人として、菜の花さんはすごいなと思う」
「自分の子が菜の花さんぐらいの歳になったところを想像しながら観た」
「自分の10代の頃を重ねながら観ていた」
など、菜の花さんを軸にいろんな世代や立場の人が関わることができる点です。

ぜひ誰かと一緒に観て、感想を話してみてください。
10代のお子さんと見るのもおすすめです。
 
今回ご参加くださった皆さん、ご関心をお寄せくださった皆さん、シネマ・チュプキ・タバタさん、ありがとうございました。
 
 
 
この日のために調べた資料の中からいくつか紹介してまとめました。鑑賞前後のご参考になれば。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

 

__________________________________

鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

seikofunanokawa.com


初の著書(共著)発売中! 
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』稲葉麻由美、高橋ライチ、舟之川聖子/著(三恵社, 2020年)