2021年11月29日、シネマ・チュプキ・タバタさんと、映画感想シェアの会〈ゆるっと話そう〉を開催しました。(ゆるっと話そうとは:こちら)
第26回 ゆるっと話そう: 『MINAMATA -ミナマタ-』
▼出た話題
※映画の内容に触れていますので、未見の方はご注意ください。
映画全体の印象、映画からの発見
・水俣病といえば、中学生のときに知って、「入浴する智子と母」の写真の印象が強い。当時は知らなかった、親子の関わりや患者さんや家族の暮らしなど、写真の奥をこの映画を通して覗けた。
・水俣病の細かいところは全然知らなかった。この映画がきっかけになってその後ドキュメンタリー映画『水俣曼荼羅』も観た。ジョニー・デップのような有名な人が見つけて世界に知らせてくれた意義が大きい。
・エンドロールで、環境汚染の問題が列挙されていくのが強く残っている。途上国、先進国かかわらずという点も。身近なところ、世界のどこにでも起こっている。
・東京にいると気づきにくい地域の問題がある。新潟水俣病もそうだし、フクシマや沖縄のことなど、報道でこぼれ落ちていたり、見過ごしてしまうことも、映画をきっかけに知ることができるのはありがたい。
・そこにいてただシャッターを押せばいいわけじゃない。主観を通して伝える「魂のジャーナリズム」があると知った。
・ユージン・スミスがヒーローとして描かれていないところがよかった。弱い、向き合えない、逃げる、お酒を飲んで暴れる。
・懇切丁寧に描いてわかったような気にさせる、満足させるのではなく、知りたくさせるところがいい。伝えたいことの本質が届く。
印象に残ったシーン、人、展開
・ニューヨークと水俣を行き来する描き方。写真雑誌が世論を形成していた時代のニューヨークの雰囲気や、ユージンの自宅のスタジオ、酒、タバコの匂いまでしてきそう。
・ユージンとアイリーンの関係の変化がもう少し丁寧に描いていてもよかったのでは。二人が恋愛関係になるのが唐突で驚いた。
・シャッターを押したときの自分の気持ちを思い出しながら現像作業を行う場面に、「魂を焼き付ける」「魂の領域の仕事」「魂と魂が響き合う」という言葉がふと浮かんだ。
・病院に潜入し、動揺しているアイリーンに、「感情で撮るんじゃない、何が伝えたいか切り取るんだ」とユージンが諭すシーン。撮る側も生半可でやっているとあぶないということと、これがジャーナリズムということかと少し分かった。
・入浴している写真は自然に撮ったのかなと思っていたので、演出する(こういうふうに見せたいと思って撮る)と知って驚いた。わかったことで失望もしないが。
製作、興行
・ユージンが写真を教える少年・シゲルを演じた俳優さんが印象に残った。(青木柚さん、注目の俳優さんだそう→参考記事)
・1ヶ月上映しているが満席や満席に近い日が多い。若い人、高校生や大学生ぐらいの人たちも多い。
・ハリウッドでエンタメとして脚色されているけれども、だからこそ観ようとする人が出てくることは意味がある。ジョニー・デップの主観で観たメッセージとして受け取っている。
思い出したこと、自分とのつながり、考察
・父が写真が趣味で、自宅の庭に暗室を持っていた。あの現像液に含まれる酢酸の匂いが映画館でしてきて、観る前から深いところとつながっていたのかと驚いた。
・九州で生まれ、熊本に住んでいたこともあり、水俣に行ったこともある。いつも近くに感じていた。水俣が水俣病とセットで語られて勝手に刷り込まれていることも多いとも思う。過去のこととして終わらせるのでもなく、今も水俣で生きている人たちのことも両方思いたい。
・自分だったらこの圧倒的な被害の状況を見て、どうできたかと考えてしまった。
・漁師だった人たちで魚が獲れないために、山に上がってみかん栽培に転向せざるを得なかったが、農薬を使うことで身体を壊してしまった。メチル水銀で海を追われたのに、また毒をつかってみかんを作るのはおかしいのではと、農薬をやめた人たちの話を思い出した。(→参考記事)
・なぜ悪いことをして謝れないのか、大事なことを掬い取ってあげられないのか、悔しい。
・水俣と聞いて思い出すのはやはり石牟礼道子さんの『苦海浄土』。患者の語りを扱っている。言葉が失われている患者の声を「聴き」書きしている。それは彼女から見えている真実。ソ連で復員した女性兵士の言葉を聞き書きしたアレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』にも通じる。小さい声を聴く人たちがいる。
・テストで問題を解くための暗記事項ではなく、命の重さの認識や想像力まで伝えるのが教育だと思う。それがないとあの原因企業の社長さんが生まれてしまうのだろうか。
・責任逃れや心を遮断できてしまうんだということを映画は理屈じゃないところで伝えてくる。「魂」というワードが出てきたが、「なぜいけないか」「なぜするか」は魂が泣いたり、喜んだりするからだと思う。その理屈じゃないもの、芸術をエンタメとしてうまく表現できているのだと思う。
ふりかえり
-史実と異なる点について一つひとつ列挙する見方をしている人が多く、そうではない感想の話をしたかったので、史実との違いは念頭に起きつつ、映画のメッセージや中身を味わうことができてよかった。満たされた。
-思い出したことも話せたし、人の話も聞けてよかった。
-作品に敬意が払われている場でよかった。
-皆さんのお話を聞いていて、高度経済成長の中で犠牲になっていたことがあった。今の新自由主義と労働力のことにも重なる。
-2022年は魂のお仕事をしたいと思った。
-シェアすることで広がりを感じる。やはり〈ゆるっと話そう〉は、いい!
▼ファシリテーターのふりかえり
印象深い場面や人物、感じ考えたことを一人、二人と言葉にするうちに、皆さんが次々と思い出されていました。忘れていたのではなく、大事な場所にしまっていたというという感じでした。
印象深いシーン、言葉、描き方、ユージン・スミスという人物、写真・写真家・ジャーナリズムとは、映画から想起・喚起されたこと、映画から受けとったもの、作品が与える影響、希望、願い、関心、関連するテーマ、客層や反応......いろんな話題が出つつも、一つ一つの発言が凝縮されたエネルギーを持っていることに驚きました。
観てから時間が経っていることも関係していたのでしょうか。日常の中でいろんな出来事、物事とつながった末に出てきた言葉という感じがしました。
映画そのものについてもしっかり話したという実感もあり、水俣病にも迫り、人間社会についての洞察にも至る、壮大な旅でした。
後日いただいたアンケートでは、「場の冒頭で『劇映画なので史実とは異なるが、表現をリスペクトして話そう〉と呼びかけたのがよかった」「登場人物のまとめが役に立った」「観点が人によって異なり、
また、「この映画を観て、水俣病や公害について興味を持った。感想を話し合ったことで引き続き勉強しようと思った」と書いてくださった方もいらっしゃいました。
私も今回の場を機に、自分のペースで少しずつ学んでいこうと思います。
ご参加くださった皆様、ご関心をお寄せくださった皆様、チュプキさん、ありがとうございました。
シネマ・チュプキ・タバタさんとのコラボ〈ゆるっと話そう〉は、ほぼ毎月開催です。次回をお楽しみに!
▼参考資料
『写真集 水俣』(三一書房 1980年)
※絶版。古書店または図書館で探して見てください。
『MINAMATA』(株式会社クレヴィス 2021年)
※『写真集 水俣』の復刻刊です。ただの写真がたくさん並んでいるものではなかったです。1970年代の空気が伝わってくる。当時の目で見てみることができます。やはり実物に触れると違います。
『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』山口由美(小学館, 2013年)
『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』石井妙子(文藝春秋, 2021年)
『苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)』石牟礼道子(河出書房新社, 2011年)
※NHKの100分de名著でも取り上げられました。ウェブページはこちら。オンデマンド視聴はこちら。
映画
原一男監督 映画『水俣曼荼羅』
http://docudocu.jp/minamata/
土本典昭監督ドキュメンタリー作品
http://www.cine.co.jp/list/3_29.html
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