ひととび〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『にごりえ』鑑賞記録

映画『にごりえ

今井正監督

1953年 新世紀映画・文学座

『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』のオムニバス形式。

 

図書館で映画のDVDを探していて見つけた。そういえば映画化されたものは観たことがなかった。

今年は神奈川近代文学館で特別展『樋口一葉展―わが詩は人のいのちとなりぬべき』を観られたこともあり、また樋口一葉については継続的に探求したいと思っているので、偶然の出会いを大切にし、借りて観ることにした。

f:id:hitotobi:20211230184200j:image

 

古い映画だから感情移入できないところもあるかもな、という前提で、あまり期待しないで観始めたら、予想を超える作品の魅力に、ぐいぐい引き込まれて一気に最後まで観てしまった。

俳優も撮影も照明も演出も美術も素晴らしい。想像していた「古い映画」ではない。スター役者は出ているがアイドル映画ではない。一人ひとりが必要不可欠という感じでそこにいる、生きている。新鮮な驚き。あの樋口一葉の物語の登場人物たちが生きている。

細かな表情や仕草、この時代を生きた人にしか出せない、描けない映像。
あの世界観を映像にしたいという熱意と愛が伝わってくる。

そうか、考えてみれば今より少なくとも70年ぶんは明治時代に近いのだ。この人たちの親や祖父母にはこの時代の名残がある。その肌感覚の違いを思う。

 

今の時代からは考えられないような家族のやり取りや、男女関係、雇用関係も出てくる。が、しかし、いや待てよ、とも思う。これって今もあるところにはあるよね。生き延びることに必死な姿。本質は変わっていないのでは、と。それはつまり家族制度の縛りであり、女性差別であり、経済格差、階級格差、貧困である。このことに根ざした物語だから、言語も含め文化や風俗が違っていても、異なる国や地域で共感を得るのではないかと思う。

 

身近な市井の人々の観察から得た血肉でできたストーリー展開、自分について綴ることで照らし、耕した感情や内面の描写力、王朝文学から受け継いだ美と詩情の質感。その合わさったところに生まれた普遍性こそが樋口一葉の文学の魅力なのだ。

 

晦日の前に『大つごもり』が観られてよかった。

この三作品が選ばれていることもよいし、この順番なのもなおさら良い。

ぜひ図書館などで探して観てみてほしい。

付録の解説書がまた良い。

 

 

_________________________________🖋

鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

 2020年12月著書(共著)を出版しました。

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社