ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』@早稲田松竹 鑑賞記録

2022年2月、早稲田松竹で『DUNE/デューン 砂の惑星』を観た記録。

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友達3人と。みんなで観て、あとで感想をシェアすることにしていた。

私は席を選びたかったので、1時間半前に行ってキープ。なんとこのあと満席に!
『最後の血統裁判』を観なかった人は私。コワイのは無理。

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DUNEが大好きすぎるという友達からは、用語集を抑えておくようにとお達しが。

DUNE公式サイト【用語集】
https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/keyword.html

 

軽い予習にこちらの記事も読んで行った。様々な切り口から鑑賞体験を伝えてくれる。

www.fashionsnap.com

掛け合いながら、情報も組み込みながら、 話している人たち固有の感性や視点を見せているところが素晴らしい。鑑賞対話のヒントになる。記事や場の見せ方としても大変参考になる。

 

私は普段はSF映画は画面酔いしたり、音が怖かったりしてあまり観ないのだが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品は、『メッセージ』『ブレードランナー2049』と観てきたので、やはり気になって観ることにした。なんとなく立ち会っておいたほうがいい気もした。

 

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感想つれづれと。

※内容に深く触れていますので、未見の方はご注意ください。

 

体感

・没入感がすごかった!!! 
その世界に放り込まれて、ただただ立ち会っているしかなかった。

・ぎりぎりの局面で、本能的に最善を選択することが見ているだけで鍛えられる作品。

・観ることに勇気が要ったし、観た後はどっと疲れた。まず音が怖い。耳栓をしていたおかげでなんとか最後まで観られたけれども、それがなかったら30分ももたなかったと思う。私は映像や音響にだいぶ影響されるたちなので、IMAXやドルビーのすごいサウンドシステムがなくても全く問題ない。もっともっとショボくてもよかったぐらい。音や光を大幅減して、もっと落ち着いて観たい。これが映画ならば。

 

映画の分岐

・今回わかったのは、映画がいくつかの方向へ分岐していっているということだった。私は「こっちの方向」にはもうついていけないので、今回が最後の鑑賞になると思う。心身への負担が私には大きすぎる。楽しめない。音、光、映像効果。「世界」の擬似体験。現実には体験できないような速さや距離感や角度。

私にとって映画とは何か?という問いかけでもあった。

・ともかくDUNEの世界に適応しようとして一生懸命がんばっていたので、観終わって放心して、回復するのに時間がかかった。直後の休憩時間中に友達と言葉を交わせたので、現実に戻れてほんとうによかった。とにかく影響されやすいので気をつけたほうがよいのだ、私は。


思考実験

・DUNEの世界の成り立ち、理屈や価値観に、まるで自分もそこにいるように適応させていく「必要」があった。かなり大脳新皮質的な身体感覚を使った。 生き延びるためのリアルな想像図。こういう世界で生きて行かなきゃいけないのだ、と何度も覚悟する。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ作品はやはり脳髄に侵入される感覚がある。それが怖いという感覚は正常でよい。

・星ごとの重力みたいなものも感じたり。砂の感触、暑さ。臭い。

・あり得ることだと感じられて、リアルに怖い。 それは世界の設計がとても緻密だから。そこに魅力と恐怖を感じる。これはなんの予言なのか、なんの問題提起なのか。

・すごいクリエイションだ。これがまた次世代の作り手のインスピレーションになっていくことは間違いない。
 
俳優
・そんなわけだったので、人物描写や人間同士の関係ついては、入り込める余裕がなかった。繰り返すが、たまたまこの世界に放り込まれた別の時代の人間として、ただただ目撃しているしかなかったので、現実の俳優が演じていることとも全くつなげなかった。
ティモシー・シャラメは見目麗しいが、そこにキャー!という感じもわかず、ただただ「ポールさん」として見てしまう。なんだろうこれは。ルッキズムに走らないようにするための自制なのだろうか。
・その中で辛うじてユエ医師役のチャン・チェンは認識できた。久しぶりにスクリーンで観られたのは、うれしかった。私が10代後半で観たデビュー作の『牯嶺街少年殺人事件』 (1991)から、『カップルズ』 (1996)ブエノスアイレス (1997)グリーン・デスティニー (2000)まで、チャン・チェンと出演作は私が映画に夢中だった若い頃と重なる。最近『百年恋歌』(2005)のDVDを入手したので、観るのが楽しみ。
 
キーワード

・今作も時間、記憶、言語、能力、拡張、親子がキーワード。

・この世界ではコンピュータの使用が禁止されているので、人間が人体の潜在能力を拡張させることで生き延びているという前提がある。

・『メッセージ』でも言語はキーワードだったが、今回もやはり大きなキー。その人との間だけで通じる言語。言語によって交流する。通じるように解明し鍛錬していくプロセス。手話や原住民の言語も含めて、言語を知っていて使えることで生き延びる確率が高まる。でも今の世界でもそれは変わらない。

 

人物、人物関係

・友達は、「能力や使命に目覚める」「親を超えた瞬間」「ポールの成長」について感じ入ったとシェアしてくれた。

・「母ー息子の関係が近すぎてざわざわする」という感想も。私は自分の家族構成を考えてもあの関係性はわりと違和感なく。レディ・ジェシカがポールに秘儀の「ヴォイス」を教えるところは、子に関西弁を教えてるときの私とそっくりと思ってしまった。関西弁もイントネーションやピッチがあるので、通じないときもあるから。言葉を教えるというのは、大きな操作だろう。

秘儀を教えるというのも、大目的はあるが、母から息子にあげられる唯一のものかもしれない。今のとこ彼女ができる最大の「命を救うもの」。 あのような身分と立場の人なら身につけておかねばならないのは武芸と帝王学。いつの世も変わらないのか。

・母は息子の能力が開花するのを待っていた。それは組織の意向でもあり、個人の願いでもある。

 

女性だけの秘密結社

・身体構造としては男性に比べて弱点の多いままである女性が、自分を守るためと男性と同等の立場を築くために、秘密結社(ベネ・ゲセリット)をつくり、「精神力」とヴォイスを生み出し、拡張してきたのだろうか。
・組織の一員でありながら、レディ・ジェシカが狙う壮大な野望。本当は女性を産まねばならなかった。けれど、男性と女性の対立構造を超えて、つなぐ人になることを期待して、力を授けた? ここでポール(ティモシー・シャラメ)の性別や年齢を超越するような魅力が物を言う。「僕が救世主なのか」新たなリーダー像。
・新たなリーダー像といえば、やはりナウシカか。世界の秘密を知り、異なる民をつなぎ、統べるのではなく、民と共に歩む。この先ポールがどんなリーダーになっていくのか。
・レディ・ジェシカが次に産むのは女子だろうと考えると、ポールとその子はどのような関係になっていくのか。
・こういう過酷な世界にあっては、メンタルのコントロールは人間の必須条件になりそう。「我恐れず。恐れは閉塞に至る小さな死」恐れもコントロールできるようになるのか、その頃の人間は。
 
 

資源をめぐる戦い

・物語の最初のほうで父・公爵が、「地の力、海の力を手に入れ、次は砂漠の力だ」とポールに話すくだり。とても地球人的な考え方だなと思った。 Land Power、Sea Powerは、地政学の用語。Desert Power、今はそんな言葉は一般的ではないけれど、 砂漠化や温暖化が進んで今緑のあるところも住めなくなるか、砂漠の領域が広がるかして、 地球の中でああやって保水スーツ着てサバイブするかもしれない。そう考えると、かなりリアルな思考実験。

・メランジについては、今ある石油鉱物資源が枯渇したあとに、新しい資源が見つかって、リスクと無理矢理折り合いをつけて(あるいは無視して)、掘りまくるとかもあるのかも。 とも考えたりして。
・砂漠と砂蟲に脅かされながら香料を採掘する。
・この時代の人が何を食べているのか、食卓にのっているものがあれこれ気になる。爬虫類の丸焼きという人もいた。。
8169年後もコーヒーを飲む! コーヒー党としてはうれしいが、見た目は今のコーヒーと違うかもしれない。今でも既にコーヒーは気候変動などの影響でだんだん収穫が難しくなっているそうなので、この先ものすごく高級な嗜好品になっていてもおかしくない。
砂の惑星にぶどうがある。一体どこから持ってくるんだろう。別の惑星からわざわざ運ぶのだろうか。自国では入手できない野菜や果物は基本輸入している、そういう国は今も地球にある。
・貴重な水を、さらに100人分使ってまで育てるパームツリーが希望というところが、切なかった。それがあっけなく燃えてしまうことも。信仰者にとっては切なる願いの塊だが、侵略者にとってはなんの価値もないという現実。
・DUNEで地下水脈を掘って水のあふれる惑星にしようとしたが、それを進める中でメランジが発見されたので、人々はメランジの採掘のほうに注力していったと。金と利権、力。どこにでもある流れ。
大航海時代は、まさに「香辛料」を求めての植民地支配だった。いや、今もそうか。パームヤシ、コーヒー、綿花、、いろんなものに力の勾配がある。
 
ハイパーとアナログの同居
・宙に浮く力や、惑星間を移動する科学技術、ポータブルな学習ツールなど、ものすごいハイパーな機械のものと、短剣一本で決闘するような、ものすごいアナログで身体的なものが同居している不思議な世界。宙に浮くことはハイパーなようで、妖怪のようなアナログさも持ち合わせている。現代の切り取り方では世界は運行していない。別の知覚の仕方が必要になりそう。
殺陣のシーンは、青と赤の切り替えがオンラインゲームのようでおもしろかった。赤が優勢になると死なのだとわかる。ヴォイスの伝わり方も可視化されていて、音と振動によって観客も体感できるようになっている。あのヴィジョンは観客の私たちが見ているのではなく、あの世界の人間にも見えているのだろうか。この先人間が進化して、潜在能力を拡張させていくと見えるようになる?
バグパイプ。知っている文化があることで親近感をもよおす。SFでは、完全に何もかも違えるのではなく、今あるものを少しずらして見せる。
 
決闘

・日本の戦国時代も見えてくる。殺陣のシーンなんかはもろにそう。 ポールの父・レト・アトレイデス公爵は三船敏郎を見て役作りしたとか。

・武器は高度になっているが、やっていることは中世っぽい。

・中世といえば、ダンカンという名前は、『マクベス』に出てくるスコットランド王を思い出す。マクベスに暗殺される。2つの家同士、親戚同士の争い。血で血を洗う戦乱の世。名前で即座に中世をイメージするという仕掛け。

・妻を人質にとられたユエ医師が、雇い主を裏切るところなんかも古典的な中世。あてにならない口約束に翻弄される「哀れな人間」。

・上記とは別に、ポールがフレメンの男性と決闘するシーンは全く別の意味合い。あそこはとても動物的だった。獣の世界。はぐれ者が群れに入るには、今そこのボスになっている者から認められる必要がある。そのボスと戦って勝てば群れに入れてもらえる。群れに入れてもらえなければ死が迫る。群れる必要がある。
・本当は戦いたくないポール、「誰か僕を助けて。僕の名の下の戦争」人を殺したことがないポールが、ここで覚醒する。力を誇示して支配するためではなく、生き物として生存するための決闘。
・殺して次のステージに行くしか道がない。そういう世界で生きているという受容。
・この世界では戦争も「人道的にありえない禁止事項」ではなく、生き抜くために必要な「一つの選択肢」としてあるように見える。
・とはいえ、ポールは、「大きな計画の一部にさせられる一人」でもあり続ける。この運命とどのように共存していくのだろうか。
・「死体を運ぶのも 水分の抽出なのでは?」という仮説を立ててくれた。怖いけど、ありえる。体液から水分の抽出。砂漠において貴重な水分。「それが決闘で命を落とした死者への最高の葬い。命を繋ぐことに貢献することが」という感想も。なるほど!
 
隣り合わせの世界
・シビアな世界だなと感想が湧いてくると、同時に、いや私が今日常を過ごしているときにも常に隣り合わせにある世界でもある、と思い出す。それでも自宅に帰って、自分の家族がいて、にこにこしながら出迎えてくれると、ギャップが大きくて混乱した。
・映画を観たときにはまだ本格化していなかったロシアによるウクライナ侵攻が、今は「開戦」してしまい、毎日続いている。フィクションとノンフィクション、フェイクとリアル、個人と集団、実名と匿名の境目が薄くなっている今。
 
・翌朝、外に出て、たぶんもっとずっと先の未来は、世界の音が違うんだろうなと思った。今の日常で聞こえている鳥の声、木々の葉ずれの音、車や飛行機や電車の音、人々のあらゆる活動の音。今も地域によって全く違う音がしているだろうし、惑星が違えばまた音も違う。伝わり方も違うんだろう。音がするということ自体、空気があるという前提かもしれないし。それを知覚する方法も生き物によって全然違ってきそう。
・DUNEに出てくる世界の音ってめっちゃ気持ち悪い。観客を怖がらせるためもあるだろうけれど、ほんとうにその世界、その惑星の環境音が違う可能性あると気づいてハッとした。ぬおーん、どぅおーん、ぼわーん、ごごごごご、みたいな音もほんとうにしてるのかもしれない。
・音楽のハンス・ジマーは、この世のものでない音を出すために楽器から創造したとのこと。
 
砂漠
・息苦しさ。熱風。風が強くて砂埃がひどくて息ができないあの感じ。
・子供の頃に砂漠の存在を知ったとき、怖くて眠れなかったあの感じ。
・水がないと人間が生きられないというシンプルな原則。
・『風の谷のナウシカ』の腐海と同様。
・砂漠の民の挨拶が、「唾を吐く」。貴重な水分を捧げる。この設定には参った!
・以前、ハワイの天体の運行を使った伝統的な航海術を使って航行する船「ホクレア号」に乗った経験のある人の話を思い出した。周りは海、人間はこの船の外では生きていけないという特殊な環境にあると、人間の能力が高まる。生死に関わるから。広い部屋の隅で針一本落ちる音も聞こえるようになると。。
 
その他
・砂蟲ってぜったい八つ目うなぎがモデルでは?
・虫の形状をしている乗り物やスーツ。見た目はおもしろいが、結局理に適っていると思わせる設定。
 

▼友達から限定3,000部のアートブックを見せてもらった。
ホドロフスキーのDUNE』でシャーロット・ランブリングがレディ・ジェシカ役でオファーされていたと書いてあった。ホドロフスキー版では撮影に入れなかったわけだけど、今回の『DUNE』で教母役でキャストに入ることになったという巡り合わせ。

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▼原作。2016年の新訳と聞いて、ますます読みたい。映像化された作品もすごいのだが、元を辿れば、そもそもの着想がすごいのだ。

  

 

▼レビュー番組。これから視聴するところ。

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●おまけ1

ドゥニ・ヴィルヌーヴの『メッセージ』が好きすぎて、語る会をひらいた。

https://hitotobi.hatenadiary.jp/entry/2018/11/26/164548

 

●おまけ2

ホドロフスキーのDUNE』が好きすぎたのと、コロナ下で集いがつくれないかと、2020年にこんな場をひらいた。

おうちで映画を観にいこう#1 『ホドロフスキーのDUNE』
https://whydontwegotocinema1.peatix.com

そのレポート
https://hitotobi.hatenadiary.jp/entry/2020/04/18/135550

 

●追記(2022.3.2)

ホドロフスキーの感想。「『良くできている』が……」

https://theriver.jp/dune-trailer-jodorowsky-reviews/

 

一刻の猶予もない気候危機 温暖化進めば人間と自然「適応の限界」に(2022/2/28 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220228/k00/00m/040/256000c

 

 

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鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

 

2020年12月著書(共著)を出版しました。
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社