ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

舞台《百物語》@KAAT神奈川芸術劇場 鑑賞記録

KAAT 神奈川芸術劇場で『百物語』を観た記録。

www.puppet.or.jp

www.kaat.jp

 

先日、《フェイクスピア》を観て感想を話したのをきっかけに、そういえば「白石加代子の百物語」学生の頃からずっと観たかったんだよなぁ、と思い出した。《フェイクスピア》のメインキャストの一人が白石加代子さんだったので。

そうしたら、知り合いが2人、デフ・パペットシアター・ひとみ《百物語》に関わっていることを知って、流れでチケットを取った。

私の好きなパペットでもあるし、シネマ・チュプキ・タバタさんとのコラボレーションで知った「ろう者と聴者が共に」という世界をまた一つ見たいと思ったから。

 

f:id:hitotobi:20220411194516j:image


いやはや、よかった。

気圧低下で雨も降って寒く、身体的には朦朧としていたけれど、それがかえって異界を旅するのによかったのかも。

99の物語から14をとって、それぞれに解釈された世界。
うたのある物語も3つあった。


怖さと笑いと、生と死と。
人間と人形だからできること。
歌と打楽器のみの、一番原初的な音楽。

人形劇といっても、いろんなサイズ、いろんな遣い方の人形が登場する。

一人で遣うもの、二人がかりで遣うもの。人間が演じながら支えるもの。
龍(じゃ)踊りのような遣い方もある。

舞台上ではいろんなことが同時に起こるので、何かに見惚れていると何かを見落とすので、なんだかもったいない気がしてしまう。見えているから全部見ているわけじゃないというか。むしろ音だけのほうが全体を知覚できているんじゃないかと思ったりする。

何が生きものなのか、生きているとはどういうことなのか。
魂を吹き込まれるとは、魂とは。


KAATの大スタジオが、囲炉裏で火がくすぶる民家か、宿場の本陣のような趣を見せる。
お客さんの中に赤ちゃんがいて、ときどきフガフガいってる声も演出の一部に聞こえたり。

話はあるが、ただただ没頭して、不思議だったり怖かったり、おもしろかったりという感情を沸かせているだけで、ざわざわしている心がだんだんスーーッと鎮まっていった。こういう時間は、社会が激変している時期にとてもありがたい。

 

アフタートーク付きだったのもよかった。

構成、演出の白神ももこさん:

「ダンスはものすごく訓練しないとできないことがあるけれど、人形ならすぐ試せるのがいい」「人形がまともで人間が変わってるかもと思うぐらい」

舞踏家の雫境さん:

「人と人形はできること、できないことが違う。実験して機能を高める作業をくりかえした」

音楽のやなせけいこさん:

「打楽器の生演奏をステージ上で見せるのは、誰がやっているのかわからないのではなく、音を出しているほうが見えるのがいいと思った」

などが印象に残った。

様々な位相での異なる存在とのコラボレーションが起きていた舞台。
記憶に残る体験の一つになった。

 

後日、図書館で原作である杉浦日向子さんの『百物語』を借りて読んだ。

f:id:hitotobi:20220412095057j:image

以前この作品を読んだときは、画材や描き方、物語が作り出す世界が一編ずつ違うことを楽しんでいた。

『百物語』の舞台を観た今は、一編一編が舞台の世界観とつながって、ビジュアルが自分の中に立ち上がっていることを楽しんでいる。色や音や手触りなど、二次元を超えていろんな楽しみ方も得ていることに気づく。

より怖さが増したし、楽しい読書になった。

舞台で観たものを直接再現するわけではない。紙で物語を読みながら、自分が好きなように展開しながら遊んでいる。たとえるなら、折り紙作品を広げて一枚の紙にしたり、また折って折り紙作品にしたりを繰り返すような作業。

舞台を経由して原作を読むと、一つひとつの物語が異界とつながる穴のような役割をしていることに気づく。

現実からこぼれ落ちてきた不思議、切り捨てられたもの、ないことにされてきた説明できない恐怖。禁忌。妖(あやかし)や幻の存在を思い出させてくれる。

人間の中の魔、人間には理解できないこの世の摂理。
自然界における人間の小ささのようなものにまで想像が及ぶ。

 


f:id:hitotobi:20220418115819j:image

 

▼記事

デフ・パペットシアター・ひとみ新作『百物語』を語る〜白神ももこ(演出)×大杉豊(表現監修)×足立沙樹(出演)「当たり前をそっと道端に大事に置いておく」 

spice.eplus.jp

 

直接は関係ないけど、こういうニュースが入ってきた時期だったということと、《百物語》のアフタートークで「自分のふつうをすり合わせながら、一緒に作っていった」というお話をされていたことを思い出して。

www.huffingtonpost.jp

 

_________________________________🖋

鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

 
共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年