ひととび〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

本『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』読書記録

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んだ記録。

これが出版されたのが2019年とは思えないほど、ずいぶん前に感じられる。

売れに売れて、表紙がイエローで目立つこともあり、どこでも平積みで、私の周りでも多くの人が感想を口々に述べていた記憶がある。

私はそのときのブームには乗り遅れ、3年後の今、ようやく読むタイミングが巡ってきた。

 

2020年の年末に10代向けの本を出版したが、そのときもあまり参考にせずにいた。

今月になって、この一年ほど関わっていた神戸のオルタナティブスクールでの授業づくりのふりかえりイベントの準備にあたって、なんとなくこの本を読んでおくと良さそうだなと思い、手に取った。

ウェブ記事やテレビ番組でよく紹介されていたのが、「他人の靴を履いてみること」というエンパシーについてエピソードや、制服を買い替えられない友人にそっと修繕したおさがりを渡したときの「君は僕の友達だからだよ」というエピソードだった。

詳しく聞いてしまったので、実際にそこのページを通りかかったときはあまりなにも思わなかった。

それよりも全体的にどーんときたのは、あからさまで手加減なしの差別や偏見、経済的格差、暴力にふれるエピソードが日常のよくある光景として描かれていること。「外国人」として生きるということのリアルが一つひとつ共有される。多様であることがいかにめんどくさく、いかに答えのない問いに始終直面することなのかを疑似体験できる。

これは一週間かそこら観光で滞在するだけでは見えてこない世界だ。私も日本以外の国で、外国人として、あるいはアジア人として、日本人として明確に差別された経験は何度もあるが、やはり暮らしていて遭遇することや、子どもを通して地域に入っていくことで見えてくる現実には到底及ばない。

そう、子どもを通して学校や地域社会に入ると、ほんとうに根の深いところに行き着く。日本の東京にいる私としては想像するしかないが、読んでいて「あの感じ」がすごくする。子どもの置かれた立場を見て、この国の教育への姿勢を知って愕然とするし、学校の中での政治にも触れてギョッとするし、保護者同士のやり取りの中で、価値観が合わなくてスルーしてきた人たちとガチで接したときに違和感を覚えるし……という「あの感じ」だ。

たとえばこんなところに。

学校は社会を映す鏡なので、常に生徒たちの間に格差は存在するものだ。でも、それが拡大するままに放置されている場所にはなんというかこう、勢いがない。陰気に硬直して、新しいものや楽しいことが生まれそうな感じがしない。それはすでに衰退がはじまっているということなんだと思う。(p.230)

あるいは、ドキッとするこんなところも。

その春巻きを売っている店の子が、元底辺中学校の生徒会長に選ばれたというのは、個人的に胸がすくような思いがした。が、すぐその後で考えたのである。この胸がすくような思いというのはどこから来ているのだろう。というか、これはどういう感情なのだろう。

親子での会話、うちも子とよく話すので、親近感が湧く。そうかいくつになってもこういうやり取りができるといいな。

「これって、そういう勝ち負けの問題なの? いじめって、闘いなの?」

「闘いにしたほうが、一方的にやられているよりも屈辱的じゃない、っていう考え方じゃないかな」

わたしが言うと、息子はため息をついた。

「母ちゃんもそう思う?」

一番はげまされたのは、「はじめに」のこの部分かもしれない。

しかし、ぐずぐず困惑しているわたしとは違って、子どもというものは意外とたくましいもので、迷ったり、悩んだりしながら、こちらが考え込んでいる間にさっさと先に進んでいたりする。いや、進んではいないのかもしれない。またそのうち同じところに帰ってきてさらに深く悩むことになるのかもしれない。それでも、子どもたちは、とりあえずいまはこういうことにしておこう、と果敢に前を向いてどんどん新しい何かに遭遇するのだ。(p.4-5)

ここを読みながら、昨年度一年間の神戸での子どもたちや、自分の子のことを思い出し、大変共感した。

きみトリ × ラーンネット・グローバルスクール|きみトリプロジェクト|note


いつものことながら、イギリスの政治、経済、社会情勢についても知ることができるのがありがたい。ブライトンというまちに密着して、そこから見えるイギリスと、そこで会ういろんなルーツや思想やアイデンティティを持った人々との出会いを描いてくれる。一人称で書かれているけれど、エッセイというのともちょっと違うし、ルポでもないし、評論でもない。

ブレイディみかこさんが確立した独自のジャンルという感じ。いろいろ課題はあるし、モヤっとすること、ムカつくことも多いけれど、地べたで生きる人の実直さが伝わってきて、私は彼女の作品がとても好きだ。

 

ブレイディみかこ「多様性はややこしい。でも楽ばかりしてると無知になる」(2019.10.4)

globe.asahi.com

 

続編が出ているそうなので、こちらも近々読んでみようと思う。

 

以前読んだ『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』もとてもよかった。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年