ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

〈レポート〉4/28【対話付き上映】映画『あこがれの空の下』✖️書籍『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』〜「子どもが教育の主人公」はどのように実現できるか

2021年4月28日、シネマ・チュプキ・タバタさんと映画の感想シェアの会、第20回〈ゆるっと話そう〉をひらきました。(ゆるっと話そうについてはこちら

映画『あこがれの空の下』✖️書籍『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』〜「子どもが教育の主人公」はどのように実現できるか

https://chupki.jpn.org/archives/7586

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今回は、いつものゆるっと話そうから趣向を変えて行いました。

・わたしも著者の一人である、書籍『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』とのコラボ企画。共著者の稲葉麻由美さんと高橋ライチさんも参加。
・オンラインで映画を観て、そのままオンラインで感想を話す。
・「子どもが主人公の教育はどのように実現できるか」というテーマを設定して話す。(いつもは場にテーマは設定せず、感想を話すのみ)

といった初めての試みを盛り込みました。

 

 

当初はチュプキ劇場内で対面での開催を考えていたのですが、3日前に東京都に出た緊急事態宣言の影響で、急遽、オンラインに切り替えることになりました。

お知らせにほとんど日数がない中でしたが、「オンラインなら参加したい」という方々が、首都圏はもちろん、富山、兵庫、熊本からもご参加くださり、定員20席が満席となりました。

また、急遽、和光小学校の先生方や、監督お二人も駆けつけてくださり、共に対話の輪を囲んでくださいました。

 

 

▼映画『あこがれの空の下』公式サイト 
http://xn--v8jxcq2f151q1vam0mt0xyuukq6d.jp/#/

youtu.be

 

『あこがれの空の下』は東京都世田谷区にある私立の和光小学校の子どもたちと先生たちの学校生活の一年間を追ったドキュメンタリー映画です。

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』は、10代の人たちに向けて、「この社会は与えられたものではなく、自分の手でつくれる」と伝え、一緒に取り扱い方を見つけていこうと呼びかける本です。
https://kimitori.mystrikingly.com

これら2つに共通しているものはなんだろうかと考えたとき、「自分を大切にしながら、他者と共に社会をつくる、そのやり方を学び続ける」というフレーズがわたしの中に浮かびました。そこから生まれたのが、「子どもが主人公の教育はどのように実現できるか」というイベントテーマでした。

2つの作品の世界観を掛け合わせることによって、この映画が伝えようとしていたメッセージがより伝わりやすくなり、一人ひとりが必要な学びを得やすくなるのではないかと考えました。また、このような機会で、鑑賞者が映画体験をより深めることは、映画文化への再評価や、映画のポテンシャル拡大にも貢献できます。

ファシリテーターとしてはそのように考えて、当日の場を進めていきました。

 

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オンラインで映画を観てもらったあと、休憩をとってから再び集まり、対話の時間をはじめました。

冒頭で、この日の趣旨、スケジュールやこの場での話し方のルールなどを共有したあとは、みなさんにはさっそくオンライン上の4つの部屋で少人数のグループに分かれて、観たばかりのほかほかの感想を話してもらいました。

その後、メインルームに戻って、どんな話が印象的だったか、話してみて思ったことなどをシェアしてもらいました。

 

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みなさんの感想が一通り出たところで、『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』との共通項を 子どもたちへのエール、シチズンシップ、場づくり(環境づくり、関係づくり)、心と身体のケア・ヘルプを出せる力 と分類した図を見てもらい、さらに湧いてきた思いを交わしていきました。

【共有資料】上映対話会『あこがれの空の下』@シネマ・チュプキ・タバタ

 

 

特に話題になっていたのは、次の3つでした。


1.  子どもがどんな体験をしてきたのか、聞き出さないでほしい

6年生の沖縄へ体験学習旅行のときに、担任の先生が語る場面。

「どんな体験をしてきたのか、保護者の方にはまずは聞き出さないでもらいたいと言っています。すぐに言葉にできる子なんてあまりいない。タイミングがある。中学生、高校生、大人かもしれない。すぐ結果を求めない。その子にとっての3泊4日は、事実として必ず何か残っている」

・つい子どもに聞きたくなってしまう。
・安心したい、目に見える形で成長の結果を知りたくなる。
・自分の有用感がほしい
・聞きたくなるけど、形や安心のためではなく、待つ
・大人の自分にもその時は言葉にならなくても、あとからわかる、言えるようになることってある。それを思い出せればいいのかも。
・「結果がすぐには出ません」と先生に言ってもらえることの清々しさ。

不安なのは、それだけ保護者としての責任を負っていることの現れなのかもしれません。でも「待つことのほうが子どもは育つ」のだとすれば、その負担の重さを減らすことができる。そして、これは保護者だけではなく、どんな「先生」にも言えることなのかもしれません。

 

2. どこまでいってて、どこが "はてな" ? 

5年生の算数の授業で、問題を解いていくときの先生の進め方。はてな(わからない)を子どもたちにできるだけたくさん出してもらい、黒板で共有し、それらの「はてな」を本人に話をしてもらうことを起点に授業を組み立てていくという場面。

はてなって言える授業づくりがすごい。はてなが価値。
・「わからない人いる?」という聞き方だったら絶対に手を挙げられない(はてなの人?という聞き方が秀逸)
・わからないことを学びに行っているのが学校。
・どんな答えも受け入れる姿勢が生徒を安心させる。
・恥をかかせないのは大切

はてなが出せる、何がわからないのか自分で言える、自分がそれを言えるようになると、多様な考え方を出してよいと思える。それは、他の活動にも影響してきます。そして実際にこの学校では、算数だけではなく、どの教科でも、どの学年でも、どの先生でも、同じ信念と価値観をもって子どもたちと授業や学校生活をつくっている様子が映されています。そこにみなさんは感銘を受けておられました。

 

3. 先生と子どもたちが対等

先生が子どもたちの話に一つひとつ耳を傾けたり、思いを語ったり、子どもからも先生に聞いたり、提案したり、共有したりと、映画全体を通して、両者が対等である様子が描かれています。

・やってあげなきゃいけない弱い存在ではなく、子どもは自分で育てることを大人たちが信じている
・存在をリスペクトしている。上下関係ではなく、同じところにいる。
・あるべき姿を求めるのではなく、その人そのものを見てくれている
・先生同士など、先生と保護者など、大人同士の関係性が対等だから、子どもたちとも対等になれる。
・呼び名に関係性が現れている。距離の近さを感じる。
・先生方の、生徒に対して、同僚に対してのガチンコさ加減が半端なくて、あれだけの本気を見せられると、本気で応えるしかなくなる。

先生が指示して何かをやらせるのではなく、生徒に丸投げして放置するのでもない。目指しているもの、大切にしたい軸はぶらさず、大人の責任を引き受けながら、自分と目の前にいる人の今この瞬間の関心や意欲、気持ちを大切にしながら、かかわる。「対等性」とは何か、もっといろんな言葉で表現したくなります。

 

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向日葵と芍薬にはこんな思いを込めて。

 

 

会の最後に、この日のテーマ 「子どもたちが教育の主人公」はどのように実現できるか? への自分なりの答えをチャットに書き込んでもらいました。

・子どもの力を信じて、対等な立場なんだ!と自分に言い聞かせ続けたい。
・大人も子供と共に生きている。
・親である自分が、自分の人生を生きる。そこからスタートする。
・大人の不安を減らす。
・教員の"待つ余裕"と、教員自身が安心して自己主張できる職場づくりがあると、子どもも主体的に安心して話ができるかもしれない。
・子どもの生きる力や学ぶ力を大人がどれだけ信じて見守り続けるか。
・共に学び会える環境を職員室から作っていく。
・まずは大人が自分で立つ。自分の望んでいることを表現していく。
・共にありのままを見せられる関係性を作るために、なにかを一緒にやってみる機会があるといいのかな。
・大人と子どもであれ、地位や歳がちがう大人同士であれ、お互いを尊重して人と人として接していく。
・教育の目的を「子どもへの情報の伝達」としないこと。自分の人生を自律して楽しく生きることを目的とする。
・これまでの教育や社会は「恐怖感」「責任感」が大きなベースになっていた。立ち行かない今、どう手放すか。大人も含め、一人ひとりの安全と安心をどう作るかがヒントになるのでは。
・聴く力を、自分自身にも、大人同士にも、子どもにも。
・我が子は学校に行っていませんが、知りたいことは自分から学んでいます。和光小の様子は見ていてとても幸せな気持ちになりました。
・先生も親も、大人の側が待つ余裕を持つこと。そのために国に教育予算をもっとつけさせたい。
・先生自身も自分の意見を聴いてもらった経験が少なく、どうしたらいいかわからない様子でした。そのため、わたしは「聴く」をさらに学びたいと思っています。
・不安や心配も無視せず、その都度、対話で解消する。かっこつけず、自分もそのままでいられることで、子ども達の存在も受け止められるのではないか。
・大人は子どもたちがのびのびできる環境を提供し、あとはナビゲーター、伴走者のように寄り添う、見守るという姿勢が大切だなと感じました。
・学校に行かないと就職できないという思い込みや恐れを手放し、子の可能性を信じます。
・校長先生が入学式で話されていたことが、大人のわたしたちも立ち返る原点だなぁ。「なぜかな、不思議だな、を大切に、心も体も賢くなっていきましょう」

 

まずは大人から、自分から、小さく変容していきたい。子どもを尊重し、自分を尊重し、みんなが尊重し大切にされる社会を。そんな願いが聞こえてきました。

 

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この場をふりかえって

感想を話す中では、お子さんのことや、ご自身の子ども時代の経験や、職場としての教育現場などを思い、痛みや嘆きが出た方もいらっしゃったようです。それを温かく抱きながら、そこから、「子どもが主人公の場で大切なことはなんだろう?」 「わたし・わたしたちにできることは何だろう?」と語りあえたことをとてもありがたく、うれしく思っています。

それぞれの背景や切実さから語り、大切な思いを場に出してくださって、ありがとうございました。それぞれに必要なことを持ち帰ってくださっていることを願っています。

和光小学校の先生方はみなさん、「特別なことはしていない、特別な人間ではない」とおっしゃっていました。実際にやり取りをしていても、抜きん出たカリスマ性を持つリーダー格のような方はいらっしゃいません。どなたもとても誠実で、聴く姿勢を持っていらっしゃいますが、ごく普通の方々です。

ブログ:4月11日 増田先生トーク@チュプキ
ブログ:4月17日 山下先生トーク@チュプキ

こんなふうに自然に、当たり前に、のびのびと、ありのままに、その方らしく、すべての先生がお仕事に愛と自信と誇りを感じてほしいとも思いました。

わたしたちがこの場で対話して感じ取った「和光小学校で大切にしていること」を日本の学校教育全体に広げていきたいですし、それぞれの学校がそれぞれに模索できるような余裕が社会全体にほしいと切に願います。

まずは、このような教育の場が実在しているということ、それを今日もぶれずに進めておられるという事実を希望の光にして、このテーマで対話ができる人たちも確かにいるということに勇気をもらい、それぞれの日常で小さく進めてゆけたらと思います。光は増やしていけることを実感しています。

そして、なんといっても、映画という表現があるからこそ、この社会のどこかで起こっていることを身近に知ることができたり、いろんな人と価値観を共有できるのですよね。作ってくださる方、それを届けてくださる方に、ありがとうございます。

 

♪ あこがれの空の下 雲が流れ 自由のあかりが ゆく手をてらす和光小学校校歌

 

またこのようなオンラインで観て話す会、テーマを設定して語る会も企画していきたいです。引き続き、チュプキさんとの〈ゆるっと話そう〉や、きみトリプロジェクトの活動にご注目ください。

ご参加くださったみなさま、先生方、監督のお二人、きみトリのメンバー、チュプキさん、ありがとうございました。

 

 

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シネマ・チュプキ・タバタで追加上映!
5月19日(水)、26日(水)10:30〜

coubic.com

 

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』

 \ シネマ・チュプキ・タバタでも販売中 /

 

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Amazon他、全国書店で発売中。取り寄せ可。 

 

 

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seikofunanokawa.com