ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

〈レポート〉10/29『パンケーキを毒見する』でゆるっと話そう w/ シネマ・チュプキ・タバタ

2021年10月29日(衆院選投開票日の2日前!)シネマ・チュプキ・タバタさんと、映画の感想シェアの会〈ゆるっと話そう〉を開催しました。(ゆるっと話そうとは:こちら

 

第24回 ゆるっと話そう: 『パンケーキを毒見する』

現役政治家や元官僚、ジャーナリストへのインタビューにブラックユーモアや風刺アニメを交えたドキュメンタリー映画。様々な角度から菅政権に切り込みながら、観客に「日本、これでいいの?」と問いかける政治バラエティ。日本映画で初めて現役の首相(公開当時)を題材にした、タブーに挑む作品でもあります。
 
▼ オフィシャルサイト
 
▼ イベント告知ページ

chupki.jpn.org

 

当日の参加者

・全員が〈ゆるっと話そう〉のリピーターさんという、珍しい回でした。それだけこの場が定着してきたということですし、どんな場かが予め分かっているから、政治というやや語りづらいテーマも安心して参加できるということかもしれません。

・選挙の2日前の開催だったので、ちょっとした遊び心で、Zoomの名前表示のところに、ご自身のお住まいの小選挙区名をつけていただきました(差し支えない方のみ)。東京、埼玉、静岡、石川からのご参加で、少しずつその地域の特色なども聞けたのがよかったです。

 

進め方

・冒頭で皆さんにこのようなお願いをしました。「この映画に登場する政治家や政党を支持している等の立場がある方は、可能な範囲で申し出ていただけたらありがたい」と。この映画は「特定の政治家や政党への批判や皮肉」という明確な軸があるため、感想も批判的なやり取りに傾くと予想されます。もしも積極的に支持している方がいた場合には、感想によって傷つくことがあり得ます。予め共有しておいていただいたほうが、ご自身も他の方も居心地よくいられるのではと考えて、このように投げかけました。実際には該当の方はおられませんでしたが、今後も立場を明確にしたほうが話しやすくなるテーマについては冒頭で確認していこうと思います。

・情報量が多い映画で、一度見ただけでは忘れてしまうので、登場人物や流れ、キーワードなどを資料にまとめ、画面共有しておさらいしました。

・一つの輪で話しました。最初のお一人から挙手して話していただき、その話を受けて話したいことがある方がバトンを受け取る形で進めました。発言する方が偏ったときは、発言の少ない方に戻して「もしあれば」とコメントをいただいたりしましたが、ゆるやかでリラックスした中でお話しいただいていたように思います。

 

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▼出た話題

映画について

・日本でこういう映画が上映できることがすごい。できてよかった。

・2020年から2021年前半までの記録、総括という感じだった。ふりかえれてよかった。

・長い間一人の政治家が権力を握ってきたことで分断が生じていった様にあらためてショックを受けた。
・海外の人にもこの映画を観てもらえたら。
・客層について。近くに座っていた60代と思しき4、5人のグループが要所要所で笑っていたおかげで、より楽しませてもらった。学生さんもちらほら。

・アニメーションの挿入でテンポがよかった。アメリカのアイロニカルなアニメ作品っぽい。

・(上西充子さんによる国会解説の場面)今まで国会中継になったらチャンネルを変えていたが、こんなやり取りをしていたとは!「あなたに何を言ってもしょうがない」という気分にさせられるという過程に納得。

・最後の学生さんが出てくるところ、政治に興味があって顔出しして名前も出して発言していて驚いた。そうでない人たちはどのように感じているかも知りたくなった。

・オリンピックまで入れられていたら映画としてもっとおもしろかったかも。

・音声ガイドがよかった(※チュプキさんによると、その作品に入り込めるシンパシーが強い人をキャスティングしているそうです)

・(最後にデータが列挙されるシーン)国政選挙の投票率は日本だけが低いわけでもない? 意外とフランスのほうが低かったり、スイスも低いと聞いたことがある。それぞれに理由がありそう。

・映画にほぼ年配の男性しか出てこない。60代以上のイメージ。


映画から思い出したこと、気づいたこと

・政治のことを考えないような教育を受けてきたことに気づいた。

・自分が60歳を過ぎてはじめて政治に関わらなきゃと思った。国会中継、税金を使ってあんなことをしているとは。

・与党と野党の椅子の配置や話し合い方に工夫できないのか。今のままでは対立構造しかつくれない。

最高裁判所裁判官の国民審査の人の名前の上に×をつけるのは勇気が要る。巧妙ではないか。/もっとわかりやすくならないか

・沖縄では国民審査の回答率が高いと聞いたことがある。(関連記事:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/849697

・自分も投票はするけど、「どうせこうなるんだろうなぁ」と思いながらではある

・最近は政治についてわかりやすく解説してくれている動画がたくさん出ていていい。→教えてもらえなくても学べる!

・映画を観ていて、そんなに権力っていいものなんだろうか、と素朴に疑問が湧いた。

・選択肢が少なすぎて消去法でしか投票できない

・まずいことやったらタダ働きとかどうか。民間企業などで同じようなことをやったらこんなものでは許されないのに。

・人数が多い党が偏っている

・若い人が立候補しにくい仕組みは変えてほしい

 

話してみてのふりかえり

・政治にまつわるモヤモヤの正体を知りたくて観た。一人で悩んだりしていても見えないところを語ったり、ふりかえったりして、クリアになっていくのがありがたい。

・政治ってやっぱり難しい。でもこうして話すといろんな意見が聞けていい。

・「政治について考える」だと構えてしまうけれど、映画の形式だとシンパシーを持って入り込めるので、観てよかったし、話せてよかった。

・こういう話ができるのはまだ平和ってことなのかなと思う。とはいえ現状に甘んじず、考えたり行動し続けていかないといけない。

 

後日アンケートでいただいたご感想より

・話をみんなで始まる前に、映画の内容や登場人物、発言などを整理してもらえて要点が確認出来て良かった。

また他の人の感想を知ることで、自分にない視点で考えることが出来て良かった。
話すことで不安が和らいだりもするし、政治をタブー視せず語ろうと思えることが出来て、映画の存在そのものも語る場があることも有難い。
とても貴重なひとときでした。政治について、初めて会う人たちと語れることが新鮮。それはチュプキさんを通した出会いという安心感があるからだと、実感。自由に話せる雰囲気が、心地好かったです。遅まきながら目覚めたミイラ状態ですが、若い皆さまの意識に刺激され、やれることをやろうと決意しました。感謝。

 

ファシリテーターとしてのふりかえり

・話題が途切れることなく、様々な角度からのコメントが出て、映画と現実世界を行き来するような時間でした。2日後に迫っている投開票日があったので、いつもとは違うリアリティというのか、エネルギーの集まる場だったと思います。

・私自身も特定の友人以外とは政治の話はなかなかできていないので、このような場は貴重でした。

・政治の話が口にしづらいのは、「政治」と一口に言ってもいろんな切り口があり、人によって関心や理解度や、そもそもの人生の背景が違うからだと思います。政局、戦略、政党、政策、争点、個々の議員の経歴、政治の仕組みなど多岐に渡ります。知識量や理解度、言語化できている範囲などが人によって違いますし、知らなかったら恥ずかしいという気持ちが生まれますし、実際に知らなかったことで話し相手に優位に立とうとされた、という嫌な経験をしている方も多いのではないでしょうか。自分自身の困りごとと社会的立場を出すのもなかなか怖いことです。

・政治とはそのようにとても複雑なテーマだという前提を持ちつつ、しかし「話す方法は確かにある」ということも今回の場で実感しました。映画や本や演劇などの「作品」を鑑賞した人という前提があれば、まずはそこの感想を話すことから始められますね!

・今回の『パンケーキを毒見する』のようなある立ち位置から語られる映画でもじゅうぶんにフラットに話すことはできる。むしろ作品を通したほうが、違う立場や意見を認めやすいのではないかと思います。言葉だけ、概念だけでやり取りしているほうがずっと難しいと思います。

・鑑賞対話ファシリテーターの私としては、ぜひこのような作品を真ん中に対話する文化がそこここに芽生えてほしいとますます思いを強くしました。

 

ご参加くださった皆様、チュプキさん、
場を共につくってくださり、ありがとうございました!

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▼公開記念舞台挨拶

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▼日本外国特派員協会主催  プロデューサー&監督 会見

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▼参考図書

『自分ごとの政治学中島岳志/著(NHK出版, 2020年)
どの候補者、どの政党に投票するかの前に、そもそも政治とは?を、時間がないながらもなんとか自分なりに考えてみたい方に。

 

『中高生からの選挙入門』谷隆一/著(ぺりかん社, 2017年)

段階を追って選挙を考えられるようになっている。大人にとっては今さら聞けないことをわかりやすく記してくれているありがたい一冊。

 

『YOUTHQUAKE: U30世代がつくる政治と社会の教科書』NO YOUTH NO JAPAN/編著(よはく舎, 2021年)

 

 

『25歳からの国会: 武器としての議会政治入門』平河エリ/著(現代書館, 2021年)

「政治の話」の中でも一番よくわかりにくく、高校以来アップデートされにくい部分の話。素朴な疑問、「素人」そこがわからん、ニュースやウェブ記事はわかってる前提で進んでしまっている......というところが解説されている。こういう本を待っていた!

 

『「日本」ってどんな国?――国際比較データで社会が見えてくる』本田由紀/著(筑摩書房, 2021年)

「パンケーキを毒見する」の最終章をもっと詳しくしたような内容。データで突きつけられていく事実に落ち込みつつ、知りたかったことを知れているような感覚。まずはここから。

 

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』和田靜香/著(左右社, 2021年)

こちらに感想書きました。人間が二人、真摯な対話を繰り広げているのを同じ部屋で聞いているような感覚。その聞いている自分もいろんな思いや考え、疑問が湧いてくる。メモをとりながらじっくり読むのもおすすめ。

 

『北欧の幸せな社会のつくり方』あぶみあさき/著(かもがわ出版, 2020年)

北欧諸国の投票率はなぜ高いのか。その理由がよくわかるレポート。これが当たり前な社会がうらやましくなる。カラー図版満載で雰囲気が伝わってくる。もちろん「北欧」が理想に満ちているわけでもない。課題もあるし、国により状況も異なる。

 

 

共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』
拙稿「シチズンシップのトリセツ」もよろしくお願いします!

 

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