ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『ボストン市庁舎』鑑賞記録

映画『ボストン市庁舎』をヒューマントラストシネマ有楽町で観た。

夏頃から公開を心待ちにしていたので、いつもより早めの公開5日目に乗り込んだ。

あと、この週は予告が5分ということだったので、ありがたかった。予告編がつらい話はこちら

 

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cityhall-movie.com

 

 

観てきた。

274分。予告や休憩も入るので、映画館にいたのは5時間ぐらい。長いけれどあまり集中はきれずに見ていた。長丁場の鑑賞で鍛えられているのもあるし、前作『ニューヨーク 公共図書館 エクス・リブリス』でだいたいどういう体験をするのかわかっているからもある。


観終わっての一発目の感想としては、「あーだから、先だってのボストン市長選ではアジア系で女性のミシェル・ウー氏が当選したのか、前市長と行政の人たちが市民とコツコツ耕してきたこういう土壌があるからなのか」と納得した。

何度も何度も、様々な話し合いの場で話題に出てくる「ボストンは移民のまち」。白人男性と「有色人種」女性の格差が一番大きい。ボストンはそこを乗り越えて、ほんとうに一つの市から国に対して提案をかけている。

Pride, Engahement, Respect, Communication……。すごいな……。

市長がどこの現場に行ってもずーっと同じ姿勢で言い続けているのも印象深い。

「皆さんのために奉仕するのが市政です。活用してください。皆さんのために役に立ててください。話を聞きます」

似たようなフレーズを使っていた総理大臣が二人ほど思い浮かんだけれど......いや、全然違う。

 


市政はとにかく全てが現場。

観ていて次々に出てくるいろんな市民、いろんな地域、いろんなケース。

国政や州政で規定されていることを覆せないものもある。けれど市でできることがある。それを証明している。
現場があるってすごいことだから、やれば結果が見えるのだから(時間かかることも多いけど)、やっぱり変えたい、良くしたい人が市政にいてほしいなと思う。

話し方に今回も私の関心が強く動いた。
やっぱりスピーチ文化。
考えを表明することに慣れている。聞くのも慣れている。一人のターンでだいたい10分ぐらい話しているときもあるのに、みんなじっと聞いている。メモも取らず、パソコンでパタパタ打ちもせず、ニコニコもせず、ただじっと聞いている。意見を求められたら、ターンが変わったらきっちり自分の意見を言う。よどみない。自信がある。

「私には意見を言う権利がある、なぜなら私も市民の一人だから」という感じ。

立場は違うが対等である。そして違う意見が出て、みんなでじっと聞くことで、同時にわいわい言うよりもずっと物事が立体的になっていく。

『エクス・リブリス』でもそうだった。これは教育の違いなんでしょうか。

もちろん「話しすぎだろ!」という人もいるし、「あんたほんまにさっきの話聞いてたんか?」とか、「偉そうじゃね?」という人もいるけれど。

見た目だけではどちらが市の人なのかわからなかったりするのもおもしろい。名札をつけてるから、スーツだからかなとかわかるシーンもあるけれど、服務規程とかうるさくないんだろうな。

いろんな対話や議論や講演の場がある。住民説明会、公聴会、交流会、相談会、講演会、委員会、審議会。

その合間に市政の管轄にあるいろんな業務が挟まる。ゴミ清掃、公園管理、保護犬猫、デモやパレード(Boston Redsox!)の警備、婚姻届の受理(結婚式もするんだ!同性婚OKなんだ!)、道路整備、交通管制、消防、セキュリティチェック、住宅相談……。

季節が移り変わる。
地域を移動する。中心部から郊外、富裕地域から貧困地域、まちの様子も人の様子も変わる。

そういう話の中に当たり前に、ジェンダー平等、気候危機回避、人種差別撤廃の視点が当然のようにある。当たり前に扱えるようにした人の努力がある。やるという覚悟だな。絶対にやる、やりきるという覚悟。私が引き受けるという覚悟。

モヤる場も、モヤる話もある。
しかしすべてが現実。

いやはや、圧巻だった。少しずつ消化していきたい。

途中で3人ぐらい帰った方がいるので、合わない人は合わないかもしれない。

でもおもしろい人にとっては、現場を全部見せてくれる、こんなおもしろい映画はない。

 

この映画に関心のある友達と3人、個人的にZoomでアフタートークをすることにした。

また新たな発見があると思う。楽しみだ。

 

 

▼ポスタービジュアル、カッコいい。


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▼映画評論家・町山智浩さんの解説

・1967年から撮りはじめて、54年間で48本のドキュメンタリー
・高校、病院、福祉、競馬場、動物園......など、「それそのまま」のタイトルで現場を撮り続ける。今回も原題は"City Hall"で「市庁舎」。
・返事があったのがボストン市だけだった。
・もともとワイズマン監督はボストン出身だが、育った頃は今とは全く違った
・マーティン・ウォルス市長がとにかくすごい。行政の職員がその人の裁量で判断しているところに現れている。市でやることが州に広がり、国を変える。そして今は国を変える立場にもなっている。
・政治は公助をやるところに決まってる!これが政治だ!

youtu.be

 

ユリイカ2021年12月号』特集:フレデリック・ワイズマン 読みたい......。

 

▼『ニューヨーク 公共図書館 エクス・リブリス』の感想

hitotobi.hatenadiary.jp


 

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 2020年12月著書(共著)を出版しました。

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社