ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

映画『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』鑑賞記録

映画『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』を観た記録。早稲田松竹で上映があってラッキーだった。

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まずびっくりするのは、アメリカ映画だけど、中で人々が話している言語はほぼスペイン語なこと。スペイン語を勉強してる人が観たらよさそう。特に南米のスペイン語スペイン語圏の現代史を学んでいる人。スペイン語はスペインでだけ話されているわけではないんだな。

もちろんスペイン語だけではなく、ここでは167か国語が話されているそう。

その異なる文化圏を順繰りに移動する、そのスピードが早すぎて切り替えられない。それぞれの文化の生活にどぼんどぼん浸かる。けっこう酔った。多様性って、そうだ、こういうことだ。

国立民族学博物館に長時間滞在して、いろんな文化の品々に触れて、楽しくて興奮しっぱなしで、だんだん頭が痛くなってくる、あの感じだ。脳が情報処理しきれなくなって、クーリングのファンがずっと回ってる感じ。怖さもある。異文化に自分が侵食されているように感じるって怖さがある。美意識、風習、慣習。違いすぎると拒絶感が生まれる気持ちもわかる。わかることがまず大事だと思った。

 

ジェントリフィケーションが進行していくのがリアルに感じられたり、移民が日本に増えてきたらこうなるのか、みたいなことを今までよりも現実味を持って考えた。

2015年の製作で、ここから7年経っているわけだけど、今は現地はどうなんだろう。

Googleストリートビューで訪ねてみたけれど、あのショッピングセンターがどこにあるのかはよくわからないかった。

 

最新作『ボストン市庁舎』でも市民の生活には踏み込んでいるけれど、これはもっと地べたに降りている。まちに根ざしている。市民同士のやり取り、生きること、働くこと、そしてルーツに食い込んでいる。食い込んでいるけれど、写し方はワイズマンらしく淡々としている。

 

大きな縦糸としては3本。立ち退きを迫られている商店主たち、中南米からの移民の人たち、まちを特色づけている一つであるLGBTQの人たち、街角のバンド。そこに細かなまちの風景や生活の現場が入ってきて、彩り豊かにしている。

 

東京で言うと、池袋西口か、御徒町か、新大久保か。映画館を出たあとに高田馬場の駅まで歩いていて、映画の中の世界とそう大して変わらんなと思った。このへんの感じはどこで見るか、どこに住んでいる人が見るかによって全然感覚が違いそう。

東京の中にもこの映画で映っているような、私の知らない異文化が生きているエリアだったりコミュニティだったりがあるんだろうな。

ニューヨークに行ったことのない私が、ジャクソンハイツにとても親近感を覚えるというのも不思議な感覚。

きょうもあのまちで人々の生活がある。

 

ーー鑑賞メモ  ※未見の方はご注意ください ーー

・モスクでの礼拝、祈り言葉「イスラム教を信じないものを卑しめ」「悪を避けるために神がいる」

・「1990年7月1日 フリオ・リベラが殺された日。だけど捜査されなかった」「たまたまゲイだった」「この町でゲイ・パレードが成功したのはラテンアメリカの人々のおかげ」
>>Julio Rivera Corner|NYC LGBT Historic Sites Project https://www.nyclgbtsites.org/site/julio-rivera-corner/

・「私たちが成し遂げた成果に誇りを持ちましょう」アメリカらしい。

・前編にわたって音楽が途中途中で挿入される。街角のバンドが多い。音楽は超える、つなぐというメッセージか。

・市民権を得たい移民のための相談センター。「養子縁組してもどうにもならないのよ」シビアな現実。

ユダヤコミュニティセンターに間借りして開いている中高年ゲイのサークル。「心から落ち着ける自分の場所がほしい」「ホモフォビアと長年戦ってきた」「信徒じゃなくても会合に使わせてくれた」「ここには何かがあるからくる。利便性がいいからじゃなく。みんなが来たくなるような場所にするのがいい」コミュニティの本質!

・「なぜアメリカ国民になりたいか聞かれたら?」と語学学校の先生らしき人。「民主主義があるから」と答えてほしそう。でも「言論の自由があるから」「宗教の自由があるから」と答える生徒たち。「それは基本的人権だから」と先生。それ以前と言いたげ。でも基本的人権が抑圧されている国から来た人はそれがないんだよーと言いたくなる。「でもまぁいいわ、言いたいことを言って」何か審査のための準備なのかな。

・商店の立ち退きが一つ、このドキュメンタリーの縦軸になっている。「大企業が入ってきたら、小さな店は追い払われた」「団結して権利を主張しよう」美容室、映画館、酒屋、レストラン、、

・BID(Business Improvement District)経済発展地区は誰のため。「商店経営に先にゆきがないと思わせて」「投票しないと賛成扱いにしている」ひどい。でも日本の選挙もそういうふうになってないか?

ルーズベルト通りのスーパー。ぴかぴかの野菜が並ぶ。水槽に入った魚。生簀?美味しいのか、これ。。肉屋。生々しい肉。でもどれも食料。

ニューヨーク市議の事務所で問い合わせ(というかたぶんクレーム)を受ける女性の事務員2人が交互に映る。話題はどちらもホームレス関連っぽい。なりっぱなしの電話。

・けっこう長いこと話していても、よほどのことがなければ割り込まない。スピーチ文化。

・教育法について。固定電話を使ったテレカン。Zoomを使ってる今見ると懐かしい。でも音はこっちのほうがいいのかも。「公立校の生徒が私立校、宗教校へ。頭脳流出している。子どもが地域の学校に通えるように高校まで一貫して」興味深い話

・でっかいコインランドリー。店内でコンサート。観ている人が真剣なのか無関心なのか、表情から読みづらい

・歩いてきた人がゴミ拾いのボランティア(教会系)の人たちに突然話しかける。「父のために祈ってくれない?あと数日で亡くなりそうなの」「いいわよ」と輪になって彼女を囲み、祈りの言葉を唱える。終わると「Thanks, bye」と去っていく人、またゴミ拾いに戻るボランティアたち。このシーン、スゲーー!!

・まちかどのTV、サッカー中継。「コロンビア、コロンビア!!」スポーツがルーツを同じくする人たちをつなげる。

・50軒の商店が立ち退きを迫られている。ニューヨーク全体の問題。ブルックリン、ブロンクスロングアイランドどこでも。家賃が高くなって住めなくなる。そこに入ってくるのがGAP!!でかでかと70%OFFの看板。自分もこういうものを購入している。

・「俺たちの代表する政治家がいない」ほんとこれだよ

・インド系の美容の店。糸を操ってフェイス脱毛する。マッサージもしてくれる。気持ちよさそう。映像観ているだけでもリラックスする。

・スーパーのビン、プラスチックの回収BOX。ドイツのPfand。これ日本にもあればいいのに。

・花屋。色とりどりの派手な花。生花なのに人工感あふれる。立ち並ぶ商店の感じがアメ横っぽい。

・冒頭にも出てくる中南米からの移民のコミュニティの証言。「子どもをつれて国境を超えた経験を話してくれませんか?」「2週間砂漠で迷子に」「手配師に財産をまきあげられた」「麻薬を運ばされて」「子どもを誘拐されて」この話、ほんとうにどこでもあるな。。どこででも起こることなのだろうな。。けっこう長い話をしていた人だったけれど、みんな静かに聞いている。ワイズマンの映画を見ていると、とにかく「ピアサポート」の場が多い印象。同じ立場の人同士が分かち合う場と具体的に相談する窓口と両方がいつもある感じ。

・夜、ホームレスの人たちにパンの配給。

・タトゥーの店、実際の施術をじっくり見せる。もういいよー!というぐらいじっくり撮る。「400〜500ドルで2日で完成」けっこうカジュアルにできるんだな。。

・市議会から表彰を受ける地元の名士的な人。イタリア系の名前。余興でお色気たっぷりの芸人が呼ばれて出てきて踊る。こういうのいかにもオッサン的な文化で嫌だけど、あるところにはあるんだな。今の時代もやってるのかな。。みんな楽しそうだけどね。

・アジア系の飲茶的なものの屋台。アラブ系の小学校?クルアーンの暗唱?先生は英語で話しかける。

・80代、90代ぐらいの女性たちのおしゃべり。「自殺する勇気があれば」「長生きの秘訣は?」「ひとりでは何もできなくなる」「お金払って話にきてもらえばいいじゃない。お金でなんでも買える」。。噛み合わない会話。

・LGBTQパレード。No mas descriminación!

ハラールの鶏の解体場。祈りを唱えて切る、捌く様子をじっと撮っていく。センセーショナルではなく、他のものを撮るように、淡々と。うわーうわーと思いながら、つい見てしまった。。なかなかこういうの見る機会ない。。だんだん知っている形状になっていき、出荷。

・移民同士の労働環境についてのピアサポート?ひとりのエピソードに対して、それはおかしいから言ったほうがいいとメンバー。「互いに助け合い、一緒に成長していければ」

・インド系の店。ボックス席。食べているのはファストフード。

ベリーダンスの教室。

・BIDの話。都心の住宅不足→→富裕層がジャクソンハイツのような中心から少し外れたところにやってくる。マンハッタンまで「7号線で30分」だから便利→→不動産投資家も増える。→→固定資産税が上がる。→→家賃に上乗せするしかない。→→家賃が高すぎて、賃貸契約を更新しない、廃業する店子が出てくる→→店主はローンが払えず破産する。。そういう仕組みか。。「金を持った人々がよそから映ってきてまちを破壊する」

・「以前は何を売ろうが、商売が下手だろうが、店主ひとりで売り上げが出ていた」「小さな店、露天商がジャクソンハイツを作っていた」失われていく地域の独自性、のっぺりとしたまちになっていく危機感。「住民や家主は次に何が起こるかわかっていない」「何が起きているか知り、学び、反対する」「陳情すべき、政治家の責任だ」「説明会に出て1人2分、意見を言ってほしい」これ、遠い話じゃない。なんのせいなのか、だれがわるいのか。こういう運動があることはやはり大事では。

・民主的な手続きを踏もうとするところも重要。

・教会。カトリックの説教「利己主義は私たちを間違った場所で極端に走らせる」

・スタバで無縁墓地について話す高齢女性たち。編み物をしながら。話題がネガティブなのかポジティブなのか、噂話なのか愚痴なのかなんなのか、トーンが不明。

・再びプライドパレード。退役軍人の会、婦人グループ、ニューヨーク市議会、LGBTQの人たち。

・犬用ウエア、トリミング、ヘアカット。ほんとうにいろんなお店がある!

・「多様性センター」アフリカ系アメリカ人、女性、トランスジェンダー、マイノリティに関する対話。「自分のグループや自分の友達がほしい」

ユダヤ教の会堂。誰かが説教しているが、参加している信徒がごく少数。

・移民サポートの会。身分証普及活動。「ID申請をしよう。IDは機会を与える」手続き、住宅、図書館、「逮捕されることを恐れず警察に助けを求められる」それがたぶん一番怖いこと。想像がつかないけれど。「この国のすばらしさは多様性。私たちは奪うのではなく進歩するためにいる。自分の仕事と国を誇りに思おう」多文化共生とずっとずっと格闘してきた国の歴史を垣間見る。

・タクシー運転手の講習会。多言語。フランス語、アラビア語チベット語。。それぞれの出身言語をたとえに出しながら、ジョークを交えながら、ノリよく説明していく講師。

・移民サポート。不当解雇についての相談をみんなで取り扱う。とにかく場をつくって語り、解決策をみんなで考える。そういう文化なのか。「お金を盗もうとする人は相手は誰でもいい。同じ国の人でもいい。人は1ドルでも必要となったらなんでもするんです」これだよなぁ。。。

 

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この本、積読になっている。

 

翻訳の山納洋さんのトークイベントでお話を聞いた。

山納洋さんと、〝頼まれてもいないことをする、という方法〟の現在地点 」

note.com

 

この映画も思い出す。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年