セルゲイ・パラジャーノフ監督の『火の馬』『ざくろの色』を観た記録。
2020年の没後30年記念上映のときのページが詳しい。
映画の鑑賞仲間からお借りしたDVDで観た。「ウクライナ関連の映画を見てみよう」という企画があり、その一環で。
私自身は25年ぐらい前に一度ミニシアターで『ざくろの色』を観た気がしているけれど、内容は全く覚えていなかったので、例によって記憶違いかもしれない。
こちらは生誕90年のときのパンフレット。4, 5年前の古本市で見つけて買ってあった。
苦悩こそが私の生を綾なす
かつて存在したものが世界をよく理解していた。しかし絶滅してしまった
大地へ還してください。私は世を厭う
(『ざくろの色』より)
映画監督と言うよりも、映像作家というほうがびったりくるだろうか。
セルゲイ・ロズニツァの『国葬』を観て、旧ソ連というのは、なんと異なる文化を無理矢理に取り込んできたのか、なぎ倒す力の恐ろしさよ……と思ったことを思い出した。
民俗的な要素は『火の馬』がより強い。
アイヌのムックリに似た楽器が出てくる。音楽、言語、民族衣装、住宅、宗教的な儀礼など、あらゆるものが土着の伝統文化の独自性を強烈にアピールしてくる。ただ、これは民俗学的に精緻な記録を試みたというよりも、誇張や融合もあって創作されているもののようだ。それが当局から目をつけられた理由でもある。
一見エキゾチックでロマンティック、そして非情。悲劇、神話、人間の普遍。
ターセム・シン監督『落下の王国』も思い出す。トレイラーはだいぶイメージ作ってるので、観たときの印象と全然違った。
パラジャーノフ作品は映像も美しいのだけれど、祈りを唱えるチャント(聖歌)やフォルクローレ(民謡)というのかな、心地よいけれど、あれも耳から入ってくる強烈な体制批判なのだろう。『火の馬』のほうは、体感としては常に聖歌と民謡が交互に流れ、歌によっても映画が「織られていく」印象がある。
そういう点では、映画『COLD WAR あの歌、2つの心』も思い出す。旧ソ連下のポーランドで、土着の民族音楽を記録、収集するシーンから始まる。体制は民族合唱舞踏団を組織して、民族音楽や伝統的な舞踏を通して、国を賛美させ、プロパガンダに利用していく顛末が、かれらの人生に大きな影響を与えている。繰り返し出てくる「♪オヨヨ〜」は一回映画観るともう忘れられない。歌の力、声の力を最大限活用していることで、どれだけ人心に作用するかを暗に示している。
パラジャーノフは、ジョージア(旧グルジア)の生まれでモスクワで学び、ウクライナに暮らした。
作品は国際的には高く評価されていたが、国内では反ソ連的な監督として扱われ、公開自粛、制作の制限、不本意な削除編集という体制の介入、逮捕と収監、映画制作禁止、出国禁止など様々な抑圧に遭ってきた監督。人生、製作、時代の歴史背景を知ってから観るとまた見え方が変わってくる。
とはいえ、頭でっかちに評論から読んで入るより、「なんかエキゾチックだな」という印象だけもって、パッと見てみるのがおすすめ。
実は元気はつらつのときより、ちょっとダウナーな気分のときに観るほうが慰められる気がする。
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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年)