ひととび 〜人と美の表現活動研究室

観ることの記録。作品が社会に与える影響、観ることが個人の人生に与える影響について考えています。

特別展「植物 地球を支える仲間たち」@国立科学博物館

国立科学博物館で、特別展『植物 地球を支える仲間たち」を見てきた。

plants.exhibit.jp

 

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ショクダイオオコンニャク、最近どこかで開花の報せを見たなと思い出した。京都府立植物園だ。栽培をはじめて30年で初めての開花とのこと。貴重。

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我が家の植物。ラブリー!

 

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帰ってきたときは、「楽しかったねー!」と思っていたのだが、次第に「何かが違う」という感じがしてきた。

 

ふと思い出したのは、この光景。

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これらの写真をパッと見て、どこか田舎の風景なのかなと思うだろうか。

実は、ここは東京湾の最終処分場だ。一昨年の夏、子と見学に行ったときにこの写真を撮った。

植物の下にあるのは、燃やせないゴミ、燃やした後に残った灰が、固めて置かれていく。その上にビニールシートがかけられ、さらに土が載っている。そこに植物が植えられたか、どこからかタネが飛んできたのか、土に混ざって上陸しているのか、繁茂している。

 

3枚目の棒のようなものは、ゴミから出たガスを放出ための煙突だ。

もう海の上に埋め立てていくしかもう方法がない。

人間が資源を使って使って、作って作って作りまくったあとの姿がこれだ。

 

植物があれば、虫がくる。セミがわんわん鳴いていた。鳥の声もする。

ちょっと目眩がするような光景だった。

 

原発被害を受けて、立ち入り禁止区域に指定されていた頃の町や村のことも思い出す。

植物が茂り、虫が育ち、鳥がやってくる。

かれらは「地球を支える仲間たち」で、人間であるわたしはたぶんここに含まれていない。人間が汚した後を、「仲間たち」が浄化している。

風の谷のナウシカ』の世界だろうか。

 

植物展をきっかけに思い出した。

 

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※追記(2021.8.2)

展示の中でよくわからなかったこと2つについて。

●胎生種子とは?

マングローブの展示のところで出てきた。「胎生」って、胎生と卵生の胎生?パネル解説を見てもいまいち飲み込めず、帰ってから調べた。

・一般の植物の種子は、樹から落ちたり飛んでいたりして、土などの上で種から芽が出て育っていく。

マングローブの場合は、樹に生った果実の中で種が発芽して、樹から栄養をもらいながらある程度の大きさまで育ってから、離脱して増える。人間みたい!ということで、胎生種子と呼んでいるらしい。ただし、水辺の泥にうまく着地して、さらに育つものは少ないそう。

・どうして胎生種子という道を選んだのか?と考えてみた。マングローブは水のあるところだから、そのまま種が落ちたのでは、全部流れて行ってしまう。だから少しでも生存の可能性が高くなる状態まで待ってから「産む」ということにしたのかな。人間の場合は、産まれてからもかなり無防備だけれど。

マングローブの繁殖 | マングローブワールド | 東京海上日動火災保険

マングローブの特性 | 黒潮の森 マングローブパーク

 

●共通祖先(LUCA:Last Universal Common Ancestor)

あらゆる生物の祖先にあたるもの。「生命の樹」の一番根っこにあるもの。あるとしたら、細菌のような原核生物のこと(かもしれない)で、これと特定できるものではない、概念として使われることもある?と一旦理解してみた。ちょっと違うかも?一旦考えたので、また別のところで出会ったときに、もっとわかるかも。

極限環境生命科学研究室キーワード

進化の歴史|科学バー

 

科学って厳密に定義したり、用語を使わないと不正確になっちゃうから、どうしても説明が難しくなっちゃうんだな。口語的な「ざっくり」で言えることと、テキストにしたときの正しさと。

そういったことを踏まえて、これからの展示を見てみようと思う。

舞踏「イスラエル・ガルバン|春の祭典」@愛知県芸術劇場 鑑賞記録

近頃、まとまったブログを書く気力がなく、方々にメモしたものを寄せ集めただけになっているが、それでもなんとか記録をとっておこうと思う。

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名古屋芸術劇場でイスラエル・ガルバンの「春の祭典」を観た。

danceconcert.jp

 

 

イスラエル・ガルバンって誰?という方に。わたしも知らなかったので、これを読んで予習した。

balletchannel.jp

 

直前まで諦めていたのだが、 神奈川公演を観に行った友人の話を聞いていたら、どうしても興味が出てきてしまった。

あれ?名古屋公演に行けばいいんじゃないか?と気づいて、衝動でチケットを取ってしまった。「行くならぜひ予習して」とパンフレットを郵送して読ませてくれたりもして、ほんと観劇仲間ってありがたい。

 

 

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思い浮かんだ言葉。 

慎重、逸脱、流れ、確認、反復、心の赴くままに、突然に、おもしろがって、衝動的に、運命的に、確信、挑戦、発見、固執、選択、離脱、安定、複雑、不調和、和而不同、独立、自由。

 

 

祝祭、叶ったことのお祝いは大事だなと思う。

とはいえ、「自分で自分を祝う」というシンプルなことさえも難しいときもある。

そんなときは、他の人間の表現や、作品の力を借りるといいんだと、この公演で思った。

 

ちなみに今回の名古屋行きでは、著書を出してくださっている出版社の担当さんにお会いできたり、書店営業でびっくりするような偶然があった。

note.com

 

一つの公演がつくり出す磁場ってつくづくすごい。

 

 

natalie.mu

natalie.mu

 

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映画『沖縄 うりずんの雨 改訂版』鑑賞記録

『沖縄 うりずんの雨 改訂版』鑑賞。

2015年製作、ジャン・ユンカーマン監督

okinawa-urizun.com

 

1945年4月1日、アメリカ軍が沖縄本島に上陸。6月23日(現在の慰霊の日)まで12週間に及んだ沖縄地上戦では4人に一人の住民が亡くなりました。本作は、当時同じ戦場で向き合った元米兵、元日本兵、そして沖縄住民に取材を重ね、米国立公文書館所蔵の米軍による記録映像を交えて、沖縄戦の実情に迫ります。また、戦後のアメリカ占領期から今日に至るまで、米軍基地をめぐる負担を日米双方から押し付けられてきた、沖縄の差別と抑圧の歴史を描き、現在の辺野古への基地移設問題に繋がる、沖縄の人たちの深い失望と怒りの根を浮かび上がらせます。(映画HPより)

 

シネマ・チュプキ・タバタさんとの映画感想シェアの場〈 『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』でゆるっと話そう〉の準備のために鑑賞。場のためには、やはり沖縄の通史を知っておく必要に駆られた。

1853年のペリーの那覇来航から、2014年、2015年までを、18名の人々の語りとフィルム、そして監督のナレーションとでクロノロジカルに歩む2時間半。

沖縄とアメリ
沖縄と大和
黒人と白人
女性と男性
子どもと大人
南部と北部

たくさんの差別と格差、暴力と悲しみに触れ続けることの痛みは強いし、感情は揺さぶられ続ける。観終わった後はなかなか立ち上がれなかった。

それでもやはり、今観ておいてよかった。

体験した人たちはどんどん亡くなっていく。記録し、記憶し、遺していかねばと思う。関わりのある人や作品からはできるだけ聴いておきたい。この映画からもすでに6年......。

わたしたちは、どのような出来事の連続の上に、今生きているのか。
今このときも続いていることをどう受け止めるのか。

自分のこれからの選択一つひとつに関わる話だ。
他者とのかかわり、社会とのかかわり、世界とのかかわり。

これは映画でなければ描けないし届けられないものだ。その映画でも、権力によって描けなかった部分があると知った。

まだ十分に言葉にならないが、観る機会が得られたことと、観ることを選択してくれた自分に感謝したい。


一昨年、ドキュメンタリー映画太陽の塔』を観たときに、「ああ、だからこの国は……」と、長年の謎が、音を立てて崩れ落ちるような感覚があった。もしかしたらこの映画も、そんな力を持っているのではないか、と期待した。やはりそうだった。

なぜ拒めないのか、抗えないのか、終われないのか。
なぜ命を、生きることを選択できないのか。
この国が根源的に抱える宿痾を見た思い。

見ようとすることで、準備ができ、受け取れるものが起こり、またこの世界を一つ知る。世界とつながりを深める。

わたしよりずっと若い人たちが真剣に学んでいることを、どうして大人であるわたしが無視できようか。

あの人たちが、わたしを引っ張っていってくれている。

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▼映画を観ながらとったメモ、30枚超。チュプキさんの親子鑑賞室には台があるので落ち着いて書けるのです。

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ジャン・ユンカーマン監督のトーク(シネマ・チュプキ・タバタにて。ツイートを展開してどうぞ)

 

 

▼2015年のTV出演時。「モンスターではない」と監督。つまり、「何が(誰が)そうささせたか(させるか)」ということなんだろう、と。人間にまつわることのすべては。

youtu.be

 

 

 

沖縄の戦中戦後の性暴力犯罪と、旧日本軍が起こした「慰安婦」の問題をもっと知りたくて、このあとwam(女たちの戦争と平和資料館) に行きました。

 

「愛するために学びなさい」

映画『陶王子 2万年の旅』鑑賞記録

 

6月に観た映画の記録。 

映画『陶王子 2万年の旅』

asia-documentary.kir.jp

youtu.be

 

 

人間の歴史でもあり、地球との関わりの歴史でもある。

まったくバラバラに存在していた事物、事象が、この映画によってつながれていく。パズルのピースが次第に全体像を成していくような謎解きドラマでもある。

旅に連れて行ってもらった。

 

陶王子をナビゲーターに据えるという発明がすごい。のんさんの声もぴったり。

一点、効果音の過剰さが気になった。もう少し控えめでもよいかなと思ったけれど、これが今の時代のドキュメンタリーの流行りなのかもしれない。

 

観た直後は、「人間は新しくつくりたい生き物である」その衝動や好奇心に共感し、愛おしく感じたし、たくましさを頼もしく眺めていたけれど、今ふりかえってみると、こういう行動が、環境を破壊したり、弱い立場の人を踏みつけてまでつくっていこうとするという面もあり、手放しで喜べないなとも思う。

東京オリンピックもそうだし、一昨に見学した生ゴミの飼料化再生工場や、最終埋め立て処分場での経験を思い出す。気候変動もそうだ。人間がつくったことで起こしてきた数々の損失。

いや、自分だってそうだ。つくりたいからつくるし、人にも環境にも負荷をかけてつくっている。

 

パンフレットにある監督の言葉にハッとなる。

ナショナリズムに陥るな!」ーーそれが5年前にこの企画をスタートさせたときからのスタッフの合言葉だった。

陥り......がち!どちらが "本当の"ルーツだとか、どちらが優れているとか。ルーツや環境が影響を与えるものは大きい。そこから生まれるものを期待されてつくる。しかし「だから日本偉い」のではなくて、容易に陥るな......。

難しいけれど、2万年も歴史のあることで、いくつもの土地で偶発的に起こったり、交わる中で起こったことは、どちらがどちらの「おかげ」なのかは意味を成さなくなる。

長い時間の尺でひとつの物事をとらえ、その体感を持って日常をまなざすことで、陥る手前でブレーキがかかることはいくらもある。

とはいえ、「つくる」動力に嫉妬や競争心もあるのは否めない。その中で、できるだけ犠牲や負荷を少なく技術革新するって可能なのかな、ともぼんやり思う。

 

遠くに行きたくても行けないときに、時間や場所を軽々と超えて見せてくれる作品でもあった。そうか、そう考えると、ここ1年半の間に起こって混乱も、長い歴史のカウントできないほど短い出来事なのだろうか。

そう思うにはまだ時間がかかりそうだけれども。

 

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チュプキさんでの舞台挨拶の記録。ツイッターからスレッド全体を展開してどうぞ。

  

この本のことも思い出した。
『一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史』(翔泳社, 1998年)

口承でのみ伝わってきた部族の歴史が本になるというだけでもすごいが、その中身があまりにも想像を超えていて、衝撃を受けた記憶がある。自分の命もまた、このような継がれてきた命の先にあるという不思議。

 

 

『陶王子』が好きな人は、映画『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』もたぶん好きだと思う。おすすめ。

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展示「MOTコレクション展(Journals 日々、記す/ マーク・マンダース 保管と展示)」@東京都現代美術館 鑑賞記録

いつもは企画展に行くことが多い、清澄白河東京都現代美術館

今回はコレクション展を目当てに行ってきた。

 

MOTコレクション
Journals 日々、記す 
特別展示:マーク・マンダース 保管と展示
2021年7月17日(土)- 2021年10月17日(日)

https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-collection-210717/


1階の展示Journals 日々、記す」では、現在進行形で起こっている地球規模の感染症や災害、オリンピックをテーマにした作品や、日々の記録をテーマにした作品から見えてくる人間の営みや社会のありようを受け取る。

常設されている作品も、テーマの違いにより、訪れるときの自分の状況や状態により、異なる対話が生まれる。

オノ・ヨーコ作品は、今回ここに置かれている。日時計と祈り。

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3階ではマーク・マンダースのインスタレーション「保管と展示」の展示。

6月まで開催していた「マーク・マンダース ーマーク・マンダースの不在」がコロナ感染症対策で開催短縮となったことから、「作家・所蔵者をはじめ各所のご協力により、作品返却までの間、同展の出品作品の一部を当館所蔵作品を軸とした全く異なる構成でお見せする特別展示が実現することとなりました。」とのこと。

レイアウトは作家のディレクションによるもの。

 

これだけの内容を500円のコレクション展料金で見られるのは、すごいので、強くおすすめしたい。静かな心持ちになりに一人で行ってもよいし、作品を観た体験を語り合うのもよい。わたしは友人と一緒に行ったのがとてもよかった。しかし今の時期は、駅からの歩きはとても暑いので、熱中症対策をしてお出かけください。

 

 

 

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気合の入ったフライヤーとパンフレット。これは図録と言っていい。毎回豪華だけれど、今回はさらに。

 

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▼インタビュー動画

"憧れは大切です。しかし強すぎてもいけない。"
If you really want to make something really great, it doesn't work. So you really have to be very nonchalant and very...You have this longing. This longing is very important not also too much. It's something in-between. In a way it's kind of magic trick. You also have to trick your own mind. Otherwise you cannot make things, I think.

 

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▼つられて出てきた動画。TOKYO ART BOOK FAIR / VIRTUAL ART BOOK FAIR

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展示『旅立ちの美術 "Departure" 』展 @静嘉堂文庫美術館 鑑賞記録

丸の内に移転前の静嘉堂文庫美術館、最後の展覧会へ。

わたしは今回が初めての訪問。

二子玉川まで来るのも久しぶり。

 

静嘉堂文庫美術館
http://www.seikado.or.jp/

 

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展示『イサム・ノグチ 発見の道』 @東京都美術館 鑑賞記録

東京と美術館で開催中のイサム・ノグチ展に行った記録。 

 

isamunoguchi.exhibit.jp

 

 

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作品リストの見取り図。AKARIの島がつぶつぶしている。

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地球から切り出された彫刻。

地球を感じる、地球とのつながりを感じる彫刻。

 

 

香川県牟礼町でノグチと仕事をしてきた和泉さんのインタビュー。

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本(台湾の歴史関連)読書記録

映画をきっかけに、台湾の歴史や、言語、現在の社会などに興味を持ち、細く長く調べている。調べた記録をここにつけておく。

 

●教科書図書館

江東区住吉にある日本の教科書、海外の教科書を所蔵している図書館。開架式で閲覧できる。コピーも可。

教科書図書館 – 公益財団法人教科書研究センター

ここで、日本統治時代の台湾人用の国語(日本語)の教科書や、原住民族用の教科書(分けられているということは差別的な扱い)、満洲時代の国語の教科書などを見た。台湾は、日本が初めて植民地にした「他国」であり、日本語を「他国の人」に教えた最初の国になった。(いやしかし、日本の国内の先住民、アイヌについてはどうだったんだろう?)

 

入ってすぐの面陳書架に、『詳説 台湾の歴史 台湾高校歴史教科書』が陳列してあった。現役の高校生が学んでいる歴史教科書の和訳だ。こんな本があったのかー!と驚いた。後日地元の図書館で探すと、新刊書として、所蔵されていた。すごい。

↓この本

 

●『詳説 台湾の歴史 台湾高校歴史教科書』(雄山閣

 日本の統治は台湾でどのように受け止められ、学校教育で子どもたちに教えられているのかがわかる。この教科書では、日本の誰がどのように統治したのか、詳しく解説されている。日本の高校の歴史の教科書では、台湾のことは一行か二行ぐらいしか触れられておらず、このあまりの非対称性に驚く。意外にも戦時体制下の軍事動員については紙面としては驚くほど少ない。「慰安婦」に関する記載もごくわずかで、表現は曖昧だ。(他にも教科書は発行されているのかもしれないし、これだけを持って断定することはできないが)台湾の原住民についても詳しいし、中華民国統治下の台湾や、中国とアメリカと台湾という、常に微妙な関係の中を生きている台湾の姿も見えてくる。教科書という形式だからこそ掴めることがある。

 


● 『郵便が語る台湾の日本時代50年史』玉木淳一(日本郵趣出版)

今年の初めに出たばかりの本。まさにタイトル通り、台湾の日本統治の50年を郵便を証人に語らせながら、歴史上の出来事の経緯や前後関係、見落とされがちな史実を拾い、丁寧に紐解いている本。わたしの関心事である台湾と郵便のどちらも専門的に研究している人がいると思わなかった。カラー図版が充実していて見応えがある。郵便という切り口があることで、リアリティを増している。 

 

 

●『ビジュアル年表 台湾統治五十年』乃南アサ講談社

なぜ小説家の乃南アサさんが台湾の本を?と思ったが、台湾に取材に行ったことがきっかけで関心をもたれたそう。歴史を専門に研究している人とはまた違う小説家ならではの描写に、ぐいぐいと引き込まれていく。

 

一番の収穫は、「第13章 こうふくの先にあるもの 1945-1947」。日本が敗戦し、引き揚げることになった時期に起こっていたことが詳しく書かれている。ちょうど侯孝賢の『悲情城市』で描かれていたところだ。

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なぜ日本円がヤミで出回っているのか、理由がわかった。引揚者が持ち帰れる財産には制限がかけられていたのだ。だから、森鷗外の長男・於菟(おと)も、鷗外の遺品を持ち帰ることが許されていなかった。そのことが書いてある。

これで、鷗外記念館から持って帰った宿題の答えがわかった!

hitotobi.hatenadiary.jp

 

乃南アサさんの著書。こちらは2020年刊。読みたい。

 

これからも、行く先々で出会っていくだろう。

疑問を書留ながら、「そうだったのか!」を重ねながら、知っていきたい。学びたい。

展示「MOMATコレクション特別篇」@東京国立近代美術館 鑑賞記録

久しぶりに東京国立近代美術館の夜間開館に行ってきた。

MOMAT コレクション | 東京国立近代美術館

 

外の明るさは鑑賞にはほとんど関係ないのに、やはり夜、日が暮れてから美術館に行くのはいい。特別な感じがする。

 

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今回のおめあてはこちら。横山大観の「生々流転」。

 

 

川端龍子記念館の企画展で観た「逆・生々流転」。龍子から大観へのオマージュ。オマージュなのに「逆」とは、これはいかに。反骨精神か?

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龍子と大観の関係を知りたいなぁと思っていたら、山種美術館川合玉堂展で謎が明らかになる。

hitotobi.hatenadiary.jp

 

 一つ前の企画展「院展時代の川端龍子」で二人の関係がもっとよくわかった。

https://www.ota-bunka.or.jp/facilities/ryushi/exhibition/%e4%bb%a4%e5%92%8c3%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e3%81%ae%e5%b1%95%e7%a4%ba

 

これは「元ネタ」、大観の「生々流転」も観ねばと思っていたところ、素晴らしいタイミングで今回の公開となった。ありがとうございます。

龍子の側に立って見ていると、大観は頑固親父に見えるけれど、やっぱりこれはすごかった。この長さで作品をつくろうと思うところが、まず凄い。

 

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常設展やコレクション展の愉しみは小学生のときからたぶん知っていた。

「いつ行ってもいてくれるあの作品」「展示替えでまた会えたあの作品」ていいよね。

他所の美術館の企画展や回顧展でまた会ったり。「あ、あなたここに来ていたの?」とか。作品と仲良くなれる。

 


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〈お知らせ〉7月4日(日)学びのシェア会(つくり方解説付)募集中

7月4日(日)にオンラインZoomでひらく講座のお知らせ、ギリギリですが(汗)こちらにも投稿します。

manabinosharetaiken.peatix.com

 


わたしは、後半の場づくりのレクチャーをします。
技術提供なので参加費がお高めです。
その分、マジで場づくりしたい方にはとても役に立つ内容になってます。
 
 
学びのシェアとしては、わたしは「学び合いの場をつくろう〈語学編〉」を発表します。
社会にある何からでも、人は学ぶことができる。
自分を生かすために何を学ぶか? 
自分の学びのために何を使うか?
鑑賞対話の場づくりを仕事にしながら、探究していることをシェアします。
今回は〈語学編〉と題し、小説や絵本の原書と翻訳書を使い、日本語と外国語を行き来しながら学び合う場の型、「○○語でなんか読んでみるかい」と「絵本の翻訳バトル」をシェアします。
あなたもすぐに友だちを誘ってやってみたくなるはず!
 

「〇〇語でなんか読んでみるかい」のほうはこちら(note)でも書きましたが、その後の発展も含め、発表の形でお伝えします。

 
麻由美さんの「自分を知って人とかかわると、かかわり方が変わる」や、ライチさんの「学び合い・分かち合うコミュニティの作り方」もとても楽しみにしている発表です。

 

学びのシェア会は、端的に説明すると、「独自に学んでいる人からシェアし(シェアされる)という学び方」です。それを自分のために楽しみ、価値を見出す人たちの集まりです。

主観が入るため、ファクトが揺らぐ危険性はもちろんありますが、シェアされた情報をただ呑むのではなく、自分の関心や疑問と結びつけて理解しようとするところに、学びがある、という発想をしています。

また、カリキュラムや評価テストだけじゃない学びが、人間を育むし、活かすことができるということを探究しています。それを子にもシェアしたいとわたしは思っています。

 

独自研究している方で、学んでいる最中のことを身近なつながりの中に出してみたいとか(出すといいですよ!)
・教えるー教わるだけが学びなわけない!なんかないのか?!
と思っている方にもすごくよいと思います。
 
ご参加お待ちしております。
 
 
▼すぐ申し込む方は、こちらからどうぞ。
 
 
▼背景ももうちょっと読みたい方は、こちらもぜひ。
 

note.com

 

自分用に過去の学びのシェア会のレポートをカテゴリ分けしました。(探す手間を省きたいゆえ......)

hitotobi.hatenadiary.jp

〈資料集〉『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』でゆるっと話そうに向けて

シネマ・チュプキ・タバタさんと、月に一度ひらく感想シェアの場〈ゆるっと話そう〉。2021年6月は『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』を取り上げました。(告知ページ

このページでは、当日に向けて準備のために使った資料の一部をシェアします。今回は知らないことが多かったために、一から学んでおり、資料も膨大になっておりますが、観賞後に「もっとこのテーマについて知りたい!」という方に、活用していただければ幸いです。

現時点で対話の場をファシリテートするのに必要な分を軸に選定しており、私個人の背景や特性から、ある種の偏りは生じています。ご了承ください。

 

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▼映画『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』公式ページ

chimugurisa.net

 

▼パンフレット(シネマ・ジャック&ベティ販売サイト)
https://www.jackandbetty.net/shop/products/detail.php?product_id=3194

 

▼書籍『菜の花の沖縄日記』坂本菜の花/著(ヘウレーカ, 2019年) 

 

▼動画 『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』平良いずみ監督リモート舞台挨拶

youtu.be

 

▼珊瑚舎スコーレ

sangosya.com

 

 

▼映画『沖縄 うりずんの雨』公式サイト

okinawa-urizun.com



▼書籍『沖縄うりずんの雨』(株式会社フォイル, 2016年)

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▼動画 映画「沖縄 うりずんの雨」ジャン・ユンカーマン監督に聞く沖縄の“終わらない戦争"

youtu.be

 

▼ 『沖縄の基地の間違ったうわさ 検証34個の疑問』佐藤学、屋良朝博/編(岩波書店, 2017年)

 

▼書籍『辺野古に基地はつくれない』山城博治、北上田毅/著(岩波書店、2018年)

 

▼書籍『沖縄を世界軍縮の拠点に: 辺野古を止める構想力』豊下楢彦、北上田毅ほか/著(岩波書店、2020年)

 

▼書籍『はじめての沖縄 (よりみちパン! セ) 』岸政彦/著(新曜社、2018年)

 

▼書籍『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)』上間陽子/著(太田出版、2017年)

 

※同じ著者、上間陽子さんの『海をあげる』をゆるっと話そう参加者の方からご紹介いただきました。(筑摩書房、2020年)

 

▼D4P インタビュー:「ちむぐりさ」あなたが悲しいと、私も悲しい -15歳で見つめた沖縄から学んだこと(2020.4.13 安田菜津紀

d4p.world

 

中日新聞:菜の花さんの問い掛け 沖縄慰霊の日に(2021.6.23)

www.chunichi.co.jp

 

東京新聞辺野古沖縄戦の遺骨残る土砂使う計画 憤る遺骨収集ボランティア 「非人道的。本土の人も知ってほしい」(2021.4.26)

www.tokyo-np.co.jp

 

沖縄テレビ放送:沖縄戦戦没者遺骨・混入土砂の不使用訴え 全国で呼応(2021.6.24)

www.otv.co.jp

 

琉球新報沖縄戦写真「カラー化は76年越しの会話」…ツイート男性が感じるパラレルワールド(2021.6.21)

ryukyushimpo.jp

 

▼Choose Life Project:いま沖縄で起きていること これはわたしたちの問題です #慰霊の日(2021.6.23)

youtu.be

 

 

沖縄県HP 「沖縄から伝えたい。米軍基地の話。」

https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kichitai/tyosa/qanda_r2.html

 

▼Web版 琉球新報

https://ryukyushimpo.jp/

 

▼Web版 沖縄タイムス
https://www.okinawatimes.co.jp/

 

ひめゆり平和祈念資料館

https://www.himeyuri.or.jp/JP/top.html

 

▼wam アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」

https://wam-peace.org/ 

 

※参加者の方からご紹介いただきました。
映画『サンマデモクラシー』沖縄テレビ制作、太秦配給。2021年7月公開

www.sanmademocracy.com

 

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鑑賞対話イベントをひらいて、作品、施設、コミュニティのファンや仲間をふやしませんか?ファシリテーターのお仕事依頼,場づくり相談を承っております。

seikofunanokawa.com


初の著書(共著)発売中! 
『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』稲葉麻由美、高橋ライチ、舟之川聖子/著(三恵社, 2020年)

〈レポート〉2021年夏至のコラージュの会

2021年夏至のコラージュの会をひらきました。

collage2021midsummer.peatix.com

 

気づけばコラージュの場をつくりはじめて10年が経っていました。

2011年に、人の企画した場でやってみたのがきっかけ。「あれ、これ子どもの頃にやってたやつやん!」と思い出しました。わたしは子どもの頃は、切ったり貼ったりが大好きで、部屋中、工作に使うもので溢れていました。壁にもベタベタいろんなものを貼っていたし、置物も好きでした。常に部屋中カオス。今と変わらない。

誰か他の人から見て「良い」とか、「ちゃんとしてる」とか、「役に立つ」とか、べつにほんとうに良いのですよね。自分がそれを気に入っているかどうか。

 

今回は夏至

北半球では一年で最も昼の時間が長い日。北半球では、というところも大事ですね。基本、北半球で生きてきたので、当たり前のようにこの環境を受け入れていますが、南半球は冬至です。

陽の気が最大になり、ここからまた陰へ向かってゆっくりと動いていきます。芽吹く春から旺盛な初夏は、勢いはありますが、その分かなり疲れる時期でもあります。個人的な感覚で言えば、何か大きなことを決断するのが、春分から夏至にかけてのこの時期です。ここから少しずつ落ち着いていくとよいなぁと思います。

 

今回参加してくださったお二人も、大きな変化の直後や、ここから仕舞っていく関係や状況がおありとのことでした。「コラージュを作ることで何か見えてくるかもしれない」と当てにしていただけるのはうれしいことです。お二人ともリピーターさんなので、効果はよくご存知!

今回の【製作前ワーク】は、マインドマップを使ってみました。マインドマップが苦手な方は箇条書きや付箋など、自分のやりやすい方法でOKとしました。

「今気になっていること(わくわく、もやもや)」を真ん中のテーマにして、浮かんできたものを書いていったら、「人の名前がよく出てくる」「自分でそれほど重要だと思っていなかったことが半分を占めていた」など、可視化されたことで見えてきたものがありました。

ひとりでやってみても発見はあるのですが、誰か聴いてくれる人がいると、自分でも思わぬところまで勇気を持って行けますし、やってみたあとも発見しがいがありますね。

それこそがコラージュの醍醐味です。それをプレ体験していただいた後は、一旦気になることは置いておけたということで、じっくり【製作】に入っていきます。

1時間15分ほどかけて、素材選びとレイアウト、貼り付けをします。

途中で2回ほど時間のコールをします。

 

製作のあとは、【鑑賞】。どの時間帯も楽しみですが、発表して感想をもらうのがまた楽しいのですよね。「自分ではこういうつもりで貼った」というものを受け取ってもらいながら、見た人なりの意味を見出してもらえる。つながり、一貫性、多様さ、同じと違い、「らしさ」。つくる人の個性も素晴らしいですが、観る人の感受性もいつも素晴らしいなと思います。

 

つくった作品はご自宅の好きなところに貼って、しばらく一緒にいていただくことをおすすめしています。作ったときはなぜかわからなかったものが、時間が経つごとに「これのことかも!」とわかってくる。それが楽しい。 

自分だけにしかわからないサインを、自分の作品の中に読み取っていく。

 

わたしはよく「場づくりを自給自足できると、この世界は生き心地がよくなる」とお伝えしていますが、このコラージュもやはり自給自足のひとつの形です。様々な方法で世界を楽しんでいく。

そして、探究はひとりでやっても楽しいけれど、人とやるのも楽しい。人とやるのも楽しいけれど、ひとりでやるのも楽しい。

そんなことを実感した夏至でした。

 

今回のご参加、ありがとうございました。また必要な頃にお越しくださいね!

 

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作品ひとつひとつ。

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次回は、9月23日(木・祝)秋分の日に行います。

今後の予定
秋分:9月23日(木・祝)
冬至
:12月22日(水)
春分:2022年3月21日(月・祝)

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コミュニティへの出張開催も承ります。

雑誌やチラシや写真を切って、台紙に貼り付けていく、だれでも気軽に楽しめるコラージュです。お問い合わせはこちらへ。

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映画『黒衣の刺客』(台湾巨匠傑作選) 鑑賞記録

台湾巨匠傑作選2021侯孝賢監督40周年記念 ホウ・シャオシェン大特集を追ってきて、たぶんこれが最後の作品。

18本目。(『スーパーシチズン 超級大国民』も含めると19本目)

 

※内容に深く触れています。未見の方はご注意ください。

 

侯孝賢監督『黒衣の刺客』2015年制作
原題:刺客 聶隱娘 英語題:The Assassin

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とにかくトレイラーからしてカッコいい。

本編では、この美麗な映像がひたすら続く。うっとり。

ただし、こんなに矢継ぎ早なアクションや、ドラマティックな展開は起こらず、ほとんどの時間はとても静かで、人もあまり話さない。「あまり」といっても、侯孝賢映画にしては「いつもよりちょっと少ない」ぐらい。むしろ「セリフが少なすぎる」というレビューを読んでいったので、「なんだけっこうしゃべってるじゃん」と、ここ1ヶ月で作品を一気に見てきたわたしとしては思ってしまった。

・・・


『黒衣の刺客』は、この年のカンヌで監督賞を受賞し、台湾の映画アワード・金馬奨も最優秀作品賞、監督賞などを総ナメにしているが、「話の筋がようわからん」という批判もあったらしい。

それはまぁ確かにそうだと思う。

妻夫木聡演じる青年を「難破した遣唐使船に乗ってきた日本人」と前知識なしで読める人は、そう多くはいないのでは。

妻夫木聡は日本人。
装束は唐の人のものではない、おそらく日本の奈良時代の頃のもの。
回想シーンで写っている室内空間や装飾が日本のもの。鳴っているのはおそらく雅楽で使われる楽器の笙。

という非常にハイコンテクストな設定になっている。

新羅へ向かっている、ということが本編の最後のほうでわかるが、新羅がどのあたりのことを指すのかは、東アジアの民か、研究者や歴史好きな人でないと、それ以外の地域の人にはなかなかピンとこないのではないか。

けれどもそこは、たぶん重要ではないのかもしれない。

・・・

 

今回は武侠映画というジャンルへの挑戦だったそう。武侠映画とは、中華圏の伝統的なアクション時代劇。主人公は超人的な能力を駆使して戦っている。2年前の記事だが、こちらも概要が掴める。

同じ台湾出身の、アン・リー(李安)の『グリーン・デスティニー』に影響を受けて、侯孝賢が「いつか自分も武侠映画を撮りたいと思っていた」という話が、ドキュメンタリー映画『あの頃、この時』の中でも語られていた。

だとすればもっとワイヤーアクションやCG、VFXなどを駆使して作り込むのか?と普通ならいきそうだけれど、そこは侯孝賢らしく、どこまでも真逆。ビスタサイズであるところからして、驚く。通常、横に長いシネマスコープサイズが、こういったアクション映画で迫力を出すには向いていそうなのに。そこを蹴るのか。

『フラワーズ・オブ・シャンハイ』で新たに到達した美学と、時代考証のノウハウを持って、さらに時代を遡り、エンタメとは違う方向の芸術的な武侠映画に仕立てた。

・・・

 

 

人間の立ち居振る舞いや、ヘアメイク、装束、装飾品、宮中の建築やインテリアなども美しいが、夕暮れ、朝靄、山や森、湖や川などの風景も心に染み入る。この大自然のスケール感よ!古い表現かもしれないが、「α波が出る」というのか。ひたすら心地良い。悠久の山々が包む、人間の営み。あくせくと画策しても、所詮は儚い命。

効果音以外の音楽は、エンドロール以外にほとんどなかったように記憶している。耳に残っているのは、セミの声、カラスの声、鳥の声、虫の声、箏の音、太鼓の音。音と光。

......と思いきや、突然激しいアクションシーンも生まれる。そして、それも一瞬でまた静けさに戻る。この静と動の差、メリハリもまた心地良い。

そう、どこかで知っているこの感じ......と思ったら、やはり能なのだ。

 

あらすじはあり、設定はあるが、映像や言葉での説明が最小限で、観客は自分の好きなものを見ることができる。見立てられる。

あらすじを読んで、ラブロマンス武侠映画だと思った方には、かなりの肩透かしだろう。しかし、ある意味でものすごいラブロマンス武侠映画なのだ。観客が妄想力を発揮して協力してできる映画だから。

この能で体験することを、台湾の映画監督を通しても体験できるというのは、人間に普遍の何かなのか、あるいは近い文化圏だから通じあえるのか、どちらなのだろうか。

 

・・・

 

忘れがたいのは、宮中で催される宴のシーン。

見慣れない楽器を奏でる楽士たちと華やかな衣装をまとった踊り子たち。

チャン・チェン演じる田李安(ティエン・ジィアン)も太鼓を叩き、君主自ら宴を盛り上げる。

流れているのは西方の音楽のようだ。

そうか、シルクロードの時代。トルコ、イランのほうから伝わってきた様々な文化がここにたどり着いて、元々の文化と混ざり合っているのか。そうして、遣唐使によってこの西方の文化は日本にももたらされていた......。

このシーンは、トレイラーにも一部出ているので、ぜひ観ていただきたい。

夢のような映画の中でも、さらに夢のような時間だ。


この映画を観た前に、たまたまアマゾンプライムで、『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』を観ていたので、共鳴するものがあった。

こちらもいろんな地域、いろんな楽器、いろんな音楽家が登場する見応えのある映画。このシーンが好きな人には、おすすめしたい!

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▼この方のブログがとてもわかりやすく、観た後に読んでも発見があるので、ありがたい。言葉がわかると受け取れるものが多いのだろうなぁ、とまた思わされる。

http:// https://tomta.hatenablog.com/entry/2016/05/13/215113

 

武侠映画の歴史や、それが他文化圏の映画界に与えた影響なども書かれているようで、この本も気になる。(やっぱり一つひとつに専門家や研究者がいるんだな!) 

 

 

そういえば、装束からだけではわかりにくいけれど、セミの声がするということは、やはり季節は夏なのか。侯孝賢映画は必ず夏だなぁ。

 

・・・

 

侯孝賢の作品としてはこちらが最新。旅はここで一旦終わり。

この1ヶ月、侯孝賢の映画を中心として台湾映画を追ってこられて幸せだった。

まだまだ観ていない作品は多いし、一度観た作品もタイミングを変えて観ればまた違うことを受け取ることだろう。わたしにとっては、とにかく一人の監督の作品を追いかけ続けた、貴重な日々だった。

次回作で、彼(ら)がどのような挑戦をするのか、引き続き期待しながら、待ちたい。

 


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映画『スーパーシチズン 超級大国民』鑑賞記録

2021年台湾巨匠傑作選の特集上映期間中に知った作品。

2018年台湾巨匠傑作選で上映されていたそうだが、そのときは知らず。今回、ネット配信で初めて観た。

『坊やの人形』収録の3作品のうちの最後の「りんごの味」で痛烈な印象を残したワン・レン監督の代表作。(『坊やの人形』の鑑賞記録

 

※ 映画の内容に深く触れています。未見の方はご注意ください。

 

監督:ワン・レン (萬仁)

原題:超級大国民 英語題:Super Citizen KO

あらすじ・概要:スーパーシチズン 超級大国民 : 作品情報 - 映画.com

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以下、個人的な記録、メモ書き。

 

侯孝賢が二.二八事件とそこに至るまでと直後の市民の姿を、台北から少しずらした基隆という街に定めて描いたとしたら、これは、戒厳令直後の社会とその時点からふりかえった白色テロの犠牲になった市民を描いている。

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______ツイッターのメモより(2021年5月30日)______

『スーパーシチズン 超級大国民』を観た。観終わってうずくまるほどの衝撃。感想はあとでブログに書くが、一つ、わたしにとって衝撃的な事実を書き留めておきたい。トレイラーにも出てくる、主人公の許さんが陳さんのお墓を訪ねる場面。

 

この竹藪に打ち捨てられたような小さな墓石が点在している感じは、どこかで観たような......と思い出したのが、『人生フルーツ』だった。あのとき津幡さんが訪ねるのが、台湾から来た少年工の墓で、彼は戦後台湾で政変に巻き込まれて亡くなったとのことだった。あのとき出てきた墓標と全く同じだ!

慌てて『人生フルーツ』のパンフレットを引っ張り出すと、「1950年に政治犯として銃殺されていたことがわかった」とある。この映画が2016年の制作なので、おそらく津幡さんが知ったのは2010年に入ってからだろうか。1950年......まさに白色テロで、一番弾圧の激しかった頃ではないか。

2017年東京国際映画祭の『超級大国民』のデジタルリマスター版の上映時の萬仁監督へのQ&A映像を観ていて、あのような墓標は、引き取る遺族がなく無縁墓として葬られた方々のものだという。劇映画でセットだが、実際にあのような土地があるのだと言っていた。それをまさかドキュメンタリー映画の『人生フルーツ』で、しかも2017年に観ていたとは。4年後にようやく理解が追いついた。銃殺。まさに戒厳法第2条第1項......。

しかも無縁墓ということは、元技術工の陳さんにも家族がいたが、『超級大国民』の陳さん(奇しくも同じ姓である)の家族のように、何らかの名乗り出られない事情があったのだろうか。あのような苦しい物語を生きた(生きている)のだろうか。つくづくどちらも映画として作ってくださって有り難く思う。

次は韓国。『タクシー運転手』を観る予定。

 映画作品の中には、映画のテーマや、作られた当時の社会背景を知識として入れておかないと大きく読み誤るものがあるが、台湾ニューシネマはまさにそのような作品群だと思う。特に、二・二八事件および白色テロ戒厳令は抑えておきたい歴史的事項だ。

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この映画は、無数の許さんや陳さん、呉さん、林さん、その家族の人たちへの鎮魂の歌。灯さねばならない無数の蝋燭。「社会から見捨てられた人たち、忘れられてきた人たち」に対し、「わたし(たち)は見捨てていない!」と伝える映画。

画面いっぱいに大写しになる顔。
この人の顔を見よ!この人を見よ!と言うかのように。

「なかったことにするな!」という叫び。社会への批判。

今、この人たちへの謝罪と名誉回復は行われているのだろうか。

 

______

 

たまたまその時にその地に居合わせ、当時の国内政治や外交の情勢に巻き込まれた人々。あの屋台の主人(かつての将校)が言っていたように、でっちあげもあり、個人にはまったくどうにもできないようなことで生死が分かれてしまったんだろう。あの笑み、あのシーンで交わされる言葉の残酷さ。自分が加担したという意識のなさ。深刻さの受け止めの度合いのあまりに異なる現実。いたたまれない。

 

社会は言いたいことを言えるようになっている。デモもできる。
誰も止められない、逮捕もされないし、死刑にもならない。
まるで初めからこのような社会であったかのように。

呆然と立ち尽くす許さん。
どういう心境なのか、わたしには想像もつかない。

 

生きのびた人たちにとっても、地獄の日々だった。「当人」だけでなく家族も。

許さんの娘は自分の家族を作ったが、関係は温かいものとは言えない。夫からの理解は感じられない。戒厳令は明けたが、あの苦しい日々を誰とも分かち合うことができない。

その辛さや恨みを父にぶつけるしかない。
父に?男性という存在に?

父は何も言えない。言わないというより言えない。「心を失った」が、言葉も失っている。唯一、彼には書く言葉が残されている。彼の知性、彼の尊厳はギリギリ死んでいない。病をおして、死を覚悟で、旅に出る。

 


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内容に目が行きがちだが、それを引き立たせている映画の技法がある。注目したいのは、四つの世界で構成されている点。

一、1990年代の世界。娘さんが話しかけてくるが許さんは無言。かつての「同志」に会いに行ったりする。

二、1990年代の世界の中の、閉じられた自分の世界。モノローグ。離人感。

三、過去の回想。若い許さん。妻と娘。陳さん。おそらく忘れようとしても何度もフラッシュバックするシーンなのだろう。見る側にも強く印象づけられる。

四、過去の回想を裏付ける、当時の史実、記録フィル厶。

これらを行き来することで、浮かび上がってくる壮絶な人生がある。

色、光、音、質感。ディテールの作り込みが、この映画に本物さを与えている。

 

また、言語の使い方にも非常に敏感だ。重要な鍵だから。

台湾語、北京語、日本語。特に、日本人としてのわたしは、許さんが知識層であり、日本語で彼の知性を磨き発展させたという点に、強く惹かれる。日本語の話者は、大なり小なり、この映画における日本語の意味を感じることだろう。ラスト近くのシーンはとりわけ重要だ。

もちろん言語だけではない。日本の志願兵として祝われながら出征し、骨となって帰ってきた若者たちについても触れられている。書かれている言葉「昭和19年之烈士 為國献身」......。言葉を失くす。

 

______

 

最近、映画とは関係のない別の文脈から、"Lost Corner" という表現、 "Unsung Hero" という言葉に出会った。

Lost Corner、忘れられた、見捨てられた土地、領域。

Unsung Hero、歌われていない、賞賛されていない、日の当たらない英雄。

わたしたちの社会にもいる歴史の犠牲者のこと、現社会の犠牲者のこと。

自分自身が犠牲者となっている側面のこと。加害者と犠牲者が表裏一体であること。

この映画から発展して、さらに目を向けることを後押しされているように感じた。

 

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この映画のことは、今回の台湾巨匠傑作選で上映されたドキュメンタリー映画『中国新電影(ニューシネマ)時代』の中での、日本の映画批評家佐藤忠男氏へのインタビューで知った。同じ内容がこちらの論考にある。

日本財団図書館(電子図書館) 台湾映画祭 資料集?台湾映画の昨日・今日・明日?

 

わたしは1995年の公開時はもちろん、2017年の東京国際映画祭も観ておらず、2018年の台湾巨匠傑作選も視界に入らず、今回2021年の台湾巨匠傑作選でようやく間接的に出会った。今、なんとかネット配信でたどり着くことができた。

わたしには今のタイミングでよかったと思っている。人それぞれに出会いの時期や出会い方は異なる。「然るべき時」がある。

一つの作品を時期や場を変えて繰り返し上映し、映像や本や記事の形で記録を残してきてくれた数多の方々に、心から感謝したい。然るべき時にアクセスできることのありがたさ。

 

 

▼2017年東京国際映画祭Q&A 

youtu.be

  

▼上記トークのレポート

2017.tiff-jp.net

 

一青妙さんのブログ

ameblo.jp

 

 ▼劇中に登場する、原付に乗った被り物の集団。『台湾 街かどの人形劇』にも出てきて気になっていた。哪吒三太子という子どもの神様らしい。哪吒三太子を推している人も世の中にはいるという発見もうれしい。

www.k-3taizi.xyz

 

この映画を観たあと、また調べ物を進めた。

映画にも出てくる「馬場町」の処刑場について。(2020年)

www.excite.co.jp

2018年にオープンした国家人権博物館のバーチャルツアー。

jp.taiwan.culture.tw

 

教科書図書館では、台湾統治時代や満洲当地時代の国語(日本語)の教科書、台湾の高校生が使っている歴史の教科書などを見つけた。

 

どれも遠い昔のことではない。つい最近のことだ。

国家権力によって行われた人権侵害。権威主義で統治された時代。

 

台湾の歴史と日本の歴史について調べてきた一連の流れや、そこからの学びはなんだったのか。まだまとまった言葉にすることができない。

ただ、知れてよかったと思う。

今まで気になってはいたけれどハッキリとは見えていなかったことが見えた視界の広がり。歴史を学ぶことや記録し記憶すること。様々な表現で世に問い続け、それに反応し続けること。

 

わたしが生まれ、10代を生きていた1970年〜1990年代の話でもある。自分のルーツをたどるような思いもある。わたしは、ただわたしの身の回り、すぐ近くにあった環境だけで作られていたわけではない。同時代に世界で起こった出来事でもできていたことを痛感する。この自分事の感覚はどこから来ているのだろうか。今回のことをきっかけに、引き続き個人的に探究していきたい。

いつか、まとまって綴れる日が来ることを願う。

 

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