国立映画アーカイブで企画展《日本の映画館》を観た記録。
こちらのレポートがとてもよくまとまっているので、実物を観る前に読むとひと通りの流れと見どころがつかめます。もちろん行けない方にも内容がわかるのでおすすめ。
日本に常設映画館ができて今年で119年。およそ120年。
まだたったの120年。
そしてこの120年を映画という軸で見てくると、なんと大きな社会の変化があったことかと思う。
社会情勢の影響を受けながら人々の暮らし(生きる、働く)も変化し、人々が見たいもの、映画館に求めるものが変化し、あるいは映画館の提案に人々が反応し、世界の映画の潮流にも乗りながら、発展してきて今がある。
初期の映画館。人々が新しいものを一目見ようと詰めかけた姿。一本の通りに何軒も映画館が並ぶ様は模型や写真でしか確認できないが、その熱狂ぶりが伝わってくる。
戦中の検閲や国策映画の時期も経て、戦後に再び人々が映画に娯楽を求めた様子は、『ニュー・シネマ・パラダイス』にも描かれていた通り。さらにそこから日本独自ともいえる映画館文化も作られていった。
そして、「各地の映画館の歴史は、その土地の映画受容の歴史である」とキャプションで表現されていたけれど、まさにそういう形で発展していったことが展示から読み取れる。川崎と北九州の事例は貴重だ。
Instagramで紹介したものを含め見どころはいろいろあるが、上越市にある日本で一番古い映画館、高田世界館を映したドキュメンタリーのビデオ『まわる映写機 めぐる人生』(2018年、森田惠子監督)が15分ぶん観られる。
これはとてもよいので、ぜひ時間に余裕を持ってお訪ねいただきたい。
データ「1946年以降の映画入場者数、興行収入、映画館数、公開作品数グラフ」を見ると、2019年の数字が突出しているのは何があったんだろう。これだけ見ると最低迷期に比べると映画の状況は今けっこう良いと言えるのだろうか。
スクリーン数であって劇場数ではないが。評論等で確かめてみたいところ。
栄枯盛衰、映画館のいろんな時代があっての今。
インターネット配信による鑑賞がますます根づき、また新型コロナウイルス感染症のあおりで映画館運営が厳しさを増す現在、本企画は、映画館に人々が集うことの意義を再び確認するとともに、映画の持つパワーを映画館という場所から捉え直す好機となるでしょう。(国立映画アーカイブのウェブサイトより)
最近とみに思うのは、映画館は上映する映画によって変化してきたということ。あるいは映画館の生き残りをかけた技術が、映画の表現の幅を広げたとも言える。
全部に当てはまるわけではないが、ハリウッドで制作されたり、大手チェーンにのって大ヒットする映画は、映像や音響など体全体で揺さぶられるものが本当に多くなってきたと個人的には感じている。IMAXシアターを最初から想定されて作られているなど、映像による視覚や聴覚の興奮に訴える、体への刺激が強い作品も多い。もちろんそれだけでなく、物語としても優れていて、芸術的要素を含む作品も多い。
ただ私はどちらかというと、刺激の強い映像表現が最近負担になってきたので、あまり観ない。どうしても観たい場合は、インターネット配信されるのを待って、ノートPCの小さなモニターで観ることにしている。
配信では音量や見たくないシーンをスキップする自由があるのがよい。映画館で見るということは、基本は席に座って連続して見続けるという、ちょっと極端に言えば、半強制の環境下に置かれることに同意することだ。観客の状態、性質によってはそれが難しいとき、環境が観客側でコントロールできるのはよいことだと思う。邪道と言われるかもしれないが仕方がない。もちろん、映画館で観るのに一番ふさわしいように映画が撮られているという基本は尊重した上で、だ。
インターネットの配信は旧作にも気軽に出会える、再会できる良さがある。アーカイブという意味合いもある。人それぞれ作品と出会うタイミングがあるし、後の世になってその作品が再評価されることもあるので、旧作が観られる環境はありがたい。
映画館にアクセスしづらい地域に住んでいる人にとっては、配信は重要な存在だろうと想像する。
また、最近では当初からインターネット配信向けに作られる番組も多い。逆に配信向けに作られた作品が映画館で上映されることもある。製作と興行の関係もさまざまに変わってきていそうだ。
そういえば映画館の労働問題もあった。これも「日本の映画館」を語る上で無視できないテーマ。
【特集2 映画界のハラスメントを考える】(映画業界意識調査アンケート)
2022年には日本の映画業界にとって大きな出来事がある。
7月29日には東京の岩波ホールが閉館となり、一つの時代が終わるのだ。私もお世話になってきた劇場なのでとても寂しい。
一方で、地域に根ざしたミニシアターあるいは、ミニシアターよりもっと席数の少ないマイクロシアターの開業も続いている。
6年目に設備を拡充するシネマ・チュプキ・タバタの存在もある。
2020年のコロナ下で、映画館が休館を余儀なくされたとき、あの人々が同じ空間に集って暗い中で同じ映画を見て、笑ったり、泣いたり、息を飲んだりした時間がどれだけ貴重なものだったかを痛感した。
時間が経って、映画館で観ることがまた日常に組み込まれてくる中で、あの感覚はだんだん薄れつつある。それでも、「映画館で映画をみるという体験は、人間にとって欠くべからざる営みだ」と強く感じたことは、たぶん一生忘れないと思う。
映画館が日本にできて約120年。今後どう変化していくのか。
もしかして加齢と共に、古き良き時代を懐かしんで感傷的な思いをすることのほうが私には増えるのかもしれないが、引き続き見ていきたいと思う。
英語のサマリーをいつももらうことにしている。なぜか日本語版がない。
全ての展示の撮影がOKだった。うれしくていっぱい撮った。
公式アカウントの見どころツイート。最近こんなふうにちょい見せしてくれるミュージアム増えた。リマインドにもなっていい。(行こう行こうと思ってたけどうっかり忘れてた、とか)
「 #日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ①
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年6月24日
最初の映画常設館、浅草電気館の初期の図面を見ると、スクリーンが建物の奥ではなく入口側にあります。これはスクリーン脇の弁士の声が表通りにも聞こえるようにしたためと言われ、いわば「音漏れ」を利用した宣伝。かつての見世物小屋の名残でしょう。 pic.twitter.com/tV0mUOZGHI
「 #日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ②
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年6月25日
大正期には、東京浅草に続き大阪の千日前、京都の新京極など他の大都市にも映画街が生まれます。中でも特別な地が横浜。伊勢佐木町のオデヲン座は、横浜港に着いた外国映画の試写場として、映画会社が邦題を決める前に上映できたためプログラムも英語のみ! pic.twitter.com/IPzGFbDj1b
「 #日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ③
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年6月26日
2019年発行の『藤森照信のクラシック映画館』は、映画館写真家中馬聰氏との協働により、初期の映画館に近代建築史の眼で迫った快著。本展でも、映画館作りに情熱を燃やした加藤秋、僊石政太郎といった先駆的な建築家の仕事を豊富な写真で追うことができます。 pic.twitter.com/anUBDomohS
「#日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ④
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年6月30日
人々が劇場街に出てから見る映画を決めるのが普通だった時代には、映画館自らが派手に装う必要がありました。提灯やのぼり、映画会社の旗など、装飾品を映画館に納入する業者のカタログは、貴重なだけでなく、なかなか心浮き立つ資料ではないでしょうか? pic.twitter.com/2m0MBDgtKf
「#日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ⑤
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年7月1日
戦争中の映画資料では「紅系」「白系」という言葉をよく見かけます。これは映画界の統制の中で全国の映画館を紅白に色分けし、フィルムの配給系統を簡素にした苦肉の策です。戦時期は作品内容への圧力だけでなく、物資不足も映画界に甚大な影響を与えました。 pic.twitter.com/Ahxh5petBb
「#日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ⑥
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年7月2日
長短二本のカーボン棒の先同士を少し離して電気を通すと、放電現象で強い白色光が生まれます。これがかつての「カーボンアーク映写」の光源です。このほか、フィルムが可燃性で映写機操作にも細心の注意が求められた往年の映写室を想像させる展示品が並びます。 pic.twitter.com/ODS6pHe5hJ
「#日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ⑦
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年7月3日
川崎駅近くの映画館 #チネチッタ の経営企業が、100年の歴史を持っていることをご存じでしょうか? 1922年開館の日暮里「第一金美館」以来、川崎へ展開後も市民の目線で「映画街」を創造してきたその豊かな歴史を、同社ご提供の写真や資料でご覧ください。 pic.twitter.com/i7GesBk8If
「#日本の映画館 」展 み・ど・こ・ろ⑧
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年7月6日
かつて九州に、長年蓄えてきた資料を使って映画資料館を開こうとした映画館経営者がいたことをご存じでしょうか? 北九州市松永文庫の所蔵する「中村上コレクション」は、大正期から戦後期までの、娯楽を求める人々と映画館の結びつきを濃密に伝えてくれます。 pic.twitter.com/wMoD2Gcfvc
こういう映像が保存されているのが、国立映画アーカイブのありがたいところ。
「関東大震災映像デジタルアーカイブ」に、『帝都大震災 大正十二年九月一日』(別題名『震災ト三井』)を追加しました。https://t.co/daFE0i8U5y
— 国立映画アーカイブ (@NFAJ_PR) 2022年7月1日
三井本館等の被災状況と、三井の寄贈により建設されたバラックの様子を記録しています。
Youtubeはこちら。https://t.co/D8XQueiIF8 pic.twitter.com/96bybjNwhY
次回の黒澤明展も楽しみ。
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鑑賞対話の場づくり相談、ファシリテーション、ワークショップ企画、執筆、インタビューのお仕事を承っております。
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共著書『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(三恵社, 2020年)